第4Qが始まる。
点差は31点。絶望的だった。
兄さんが再びパスを出す。けれどまた、青峰君に止められる。
立ちふさがる火神君、避ける青峰君。そのままロール中にシュートを打ち、決められる。
その時、火神君の動きにほんの僅か、違和感を覚えた。
「……監督、火神君の動きが変です」
「え…足!? でもほとんど完治してるって……テーピングだって、」
「……はい、ちゃんとできていました。だけど……」
「そうか、これって……!!」
誠凛のメンバーチェンジ。火神君と交代して、土田先輩が出る。
「な、なんでまた…!? テーピングも問題ねーよ、です!」
「いいから戻れよ」
「大丈夫っすよ、それにまだ試合は…こんな所で…」
「いいから戻りなさい!!」
火神君の足はほとんど治っている。それは間違いない。
けれどあの不思議な動き。多分だけど、痛めた方の足をかばっていたのだと思う。本人が意識していたかどうかまでは、分からないけど。
そのせいで逆の足に極端な負荷がかかったのだ。これじゃあもう、出すわけにはいかない。
今日の試合だけじゃなくて、残り二日も。
「……火神君、タオルです」
「……っ、ああ」
火神君の体中からほとばしる怒り。まるで殺気立っているみたいだ。
火神君はもう戦えない。先輩達の動きも全部読まれている。
試合はあと五分、40点差。どうあがいても勝てるはずはない。
けれど。
「思ったより早かったな、もう決まりだろ」
青峰君が、兄さんに告げる。
「自慢のパスも通じず、体力も尽き、光もいない。ミスディレクションもとっくに切れた、もはや並の選手以下だ。オレの勝ちだ、テツ」
「…まだ、終わってません」
「バスケに一発逆転はねぇよ、もう万に一つも…」
「…可能性がゼロになるとすれば、それは諦めた時です。どんなに無意味と思われても、自分からゼロにするのだけは嫌なんです」
ああ、やっぱりかっこいいなあ。
「だから諦めるのだけは絶対、嫌だ!」
兄さんはどんな絶望的な状況でも、諦めたりしない。
そしてその兄さんに引っ張られて、皆がやる気を取り戻すのだ。
「………」
「コラベンチ、お通夜か! もっと」
「声出せ! 最後まで」
「小金井先輩……」
「中の選手が諦めてねーんだぞ、黙って見ててどーすんだ」
「…はいっ」
小金井先輩の言葉で、ベンチの皆が声を出す。
先輩達だって、まだ諦めてない。
「1点でも多く縮めるぞ、走れ最後まで」
「当たり前だろ」
「…一つだけ、認めてやるわ。諦めの悪さだけは」
誰もあきらめなかった。
全員が最後まで、死力を尽くして戦った。
けれど点差は開き続けた。
涙は、流さなかった。
それほどまでに圧倒的に、誠凛は負けた。
ガン、と控室のロッカーが響く。火神君が殴りつけたのだ。
「あたるな火神、切り替えろ!」
「そうよみんな! まだ2試合あるんだからね、落ち込んでるヒマなんてないわよ!!」
きっとみんな、分かっている。
だけどあの試合、ダメージを受けてない人なんていない。
「反省はあと! とっとと帰るわよ! 火神君はちゃんと病院行かなきゃダメよ!」
「ウス」
先輩達が控室を出て行く。兄さんと火神君、二人だけになってしまった。
「ホラ行くぞ、黒子」
「…はい」
「…なあ…これが限界なのかもな」
火神君の言葉は、突然で。
そしてきっと、必然だった。
「正直もっとやれると思ってた、けど結果このザマだ。圧倒的な力の前では、力を合わせるだけじゃ…勝てねーんじゃねーのか?」
そう言い残して、火神君が出て行く。
私は兄さんに、なんて言えばいいのかわからなかった。
「……兄さん、行きましょう」
こく、と頷いて、兄さんがついてくる。
後ろでがん、と壁を殴りつける音。
兄さんの苦しみが痛いほどわかって、私は唇をかんだ。
決勝戦、残り二日。
皆全力で挑んでいたはずだ。顔を見れば分かる。
けれど火神君の欠場、そして兄さんの突然の不調。
兄さんだってミスをすることくらいある。けれどその試合では、今までにないほど失敗が多くて。
二日目の対鳴成高校、三日目の対泉真館。
そのどちらにも敵わず、誠凛高校のインターハイへの挑戦は終わりを告げた。
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