「本入部届、ですか」
「はい。千瀬の分もカントクからもらってきました」
「ありがとうございます、兄さん」


そっか、仮入部だったんだ。
本入部届に名前を書いて。提出しに行こうと席を立てば、兄に止められた。


「提出は、月曜朝8:30の屋上だそうです」
「月曜……屋上?」


何の意図があるのだろう。
その疑問は、次の月曜日、最悪の形で解決することになる。






「フッフッフ、待っていたぞ!」
「アホなのか?」
「決闘?」


私たちを屋上で待ち構えていたのは、仁王立ちの監督だった。
月曜朝8:30。それはつまり。


「あと5分で朝礼じゃねーか!」


そう、朝礼前なのだ。
屋上から朝礼のグラウンドまで、五分はかかる。つまり遅刻である。
どうしよう入学早々先生に目を付けられる。
おびえていると、監督と目が合って、微笑まれた。


「去年主将にカントク頼まれた時約束したの。全国目指してガチでバスケをやること! もし覚悟がなければ同好会もあるからそっちへどうぞ!!」


全国への、覚悟。
それをこの場で試す、ということは。


「んで今!! ここから!! 学年とクラス! 名前! 今年の目標を宣言してもらいます!」
「!?」
「さらにできなかった時はここから今度は全裸で好きなコに告ってもらいます!」
「ええ〜!?」
「ぜ、全裸で……告白」
「あ、千瀬ちゃんは全裸じゃなくていいわよ。女の子だしね」
「告白はあるのか」
「そりゃそうよ」


告白。どうしよう。兄さん相手じゃダメかな。
目標。ある。あるけど、それは私の目標になるのか。
えと、えと……。


「1ーB 5番! 火神大我!! 「キセキの世代」を倒して日本一になる!」


わ、びっくりした。
火神君はただでさえ声が大きいのに、声を張るとなおさらだ。
でもそれゆえに迫力がある。驚いていると、次は兄さんが拡声器を使って言おうとした。
が。


「コラー!! またかバスケ部!!」
「あら今年は早い!?」


やってきた、名前も知らない先生。
そのお説教を受けながら、私はもんもんと考えていた。


目標、どうしよう。










「千瀬。千瀬。こぼれてます」
「……」
「千瀬」
「! はい、兄さん」
「こぼれてます」
「あ、あわ、」


ぼうっと考えている間に、コーヒーがだばだばこぼれていた。
慌てて拭き上げる。制服にかかっていなくてよかった。

学校終わりのマジバーガー。火神君も当然いる。


「困ったことになりました」
「ああ!? 何!?」
「いきなり約束を果たせそうにないです」
「は?」
「なんかあれから屋上厳戒態勢しかれたらしくて。入部できなかったらどうしましょう」
「!? え、あ……どうしましょう」
「それはねーだろ」


そうだと、いいのだが。
ここで入部禁止なんて言われたら大変だ。


「それより一つ気になってたんだけど。そもそもオマエも幻の6人目なんて言われるぐらいだろ。なんで他の5人みてーに名の知れた強豪校に行かねーんだ。オマエがバスケやるのには…なんか理由あんじゃねーの?」
「……。ボクがいた中学校はバスケ強かったんですけど」
「知ってるよ」
「そこには唯一無二の基本理念がありました。それは…」


――勝つことが全て

そのために必要だったのはチームワークじゃない。キセキの世代による個人技を行使するだけのバスケ。
そこに兄さんは、違和感を覚えたのだという。


「…でなんだよ? そうじゃない…オマエのバスケで「キセキの世代」倒しでもすんのか?」
「そう思ってたんですけど…」
「マジかよ!?」
「それよりこの学校で、ボクはキミと先輩の言葉にシビれた。今ボクがバスケをやる一番の理由は…君とこのチームを日本一にしたいからです」


日本一。
それが兄さんの目標なら、私は全力で応援するだけだ。
マネージャーとしても、家族としても。


「「したい」じゃねーよ。日本一にすんだよ!」


日本一に、する。
そうだ。その通りだ。

目標さえ決まってしまえば、後は表現するだけ。
しかし屋上は閉鎖されてしまった。どうしよう。


「屋上以外に、叫べるとこってありますかね……」
「千瀬」
「はい、兄さん」
「考えがあるのですが」
「? はい」


兄さんが語った方法は、とんでもない方法で、バレたら多分怒られるけど。
目標を表現するには、これ以上ない方法だと思った。





次の日。

グラウンドに石灰で書かれた文字が、学校を賑わせた。


「日本一にします」
「誠心誠意支えます」


なおこの目標は、名前が書いていなかったせいで、七不思議のひとつになったらしい。







back


top
ALICE+