放課後。


「ふーんふふーん、ふーん」
「監督」
「ららーん」
「監督」
「うわあああ!! わ、ち、千瀬ちゃん!」
「お、驚かせてすみません」
「ううん、慣れてきたから大丈夫!」


バスケ部に行く途中の廊下で、監督とすれ違った。
挨拶しておこうとしたけれど、結局驚かせてしまった。申し訳ない。


「何かあったんですか? スキップしてましたね」
「うん! すっごくいいことがあったわ」
「いいこと……?」
「そ。練習試合が決まったの」
「練習試合、ですか」
「うふふ」


「「キセキの世代」いるトコと試合…組んじゃったっ……!」

「え、」









「海常高校と練習試合!?」
「っそ! 相手にとって不足なし! 一年生もガンガン使ってくよ!」


体育館に、楽しげな監督の声が響く。
海常高校。全国クラスの強豪校だ。
しかも今年は、確か。


「海常は今年「キセキの世代」の一人、黄瀬涼太を獲得したトコよ」
「ええっ!?」
「あの!?」


そう、黄瀬君がいるところ。


「しかも黄瀬ってモデルもやってるんじゃなかった?」
「マジ!?」
「すげー!!」
「カッコよくてバスケ上手いとかヒドくね!?」


懐かしいな。彼は本当に女子人気がすごくて、練習試合でよそに行ったときなんか、サイン待ちの行列ができるところだった。

周囲がざわざわと騒がしい。なんだかあの頃を思い出す……って。


「何!? なんでこんなギャラリーできてんの!?」
「あーもー……こんなつもりじゃなかったんだけど…」


聞き覚えのある、この声。
思わず目を惹かれる、その容姿。


「アイツは…」
「……!!」
「……お久しぶりです」
「黄瀬涼太!!」
「久しぶり。スイマセンマジであの…えーと…てゆーか5分待ってもらっていいスか?」


そこにいたのは、黄瀬君だった。
ぺこり、と頭を下げると、彼はひらひらと手を振った。
振り返そうとして、やめる。多分隣の兄に手を振ったのだ。
私は知っている。こういうとき旧友だと思って親しげにすると、女子生徒から反感を買うことを。


「…なっ、なんでここに!?」
「いやー次の相手誠凛って聞いて。黒子っちと千瀬っちが入ったの思い出したんで、挨拶に来たんスよ。中学の時一番仲良かったしね!」
「フツーでしたけど」
「ヒドッ!!! ね、千瀬っちも仲良かったよね!?」
「……えと、その……すみません、できれば名前で呼ばないでください」
「双子揃ってヒドッ!!」


兄と被るから、という理由で彼は私を名前で呼ぶ。
中学の時、やたらマネージャーの中に千瀬って子いない? と聞く声を耳にしたものだ。主に黄瀬君ファンの女子生徒から。
あの時ばかりは影の薄さに感謝した。黄瀬君は悪い人じゃないけど、苦手だ。


中学二年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで瞬く間にレギュラー入りした、キセキの世代。
それが黄瀬君だ。
まぎれもなく天才であり、よく取材が来ていたのを思い出す。


「っと!?」


バシ、とすごい音を立てて、黄瀬君のもとにバスケットボールが投げられた。
投げた相手は、当然。


「せっかくの再会中ワリーな。けどせっかく来てアイサツだけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君」


火神君だ。
強敵と会って興奮しているのだろう。まるで獣のような顔をしている。


「え〜、そんな急に言われても…。あーでもキミさっき…」
「?」


さっき、なんだろう。練習でもしていたのだろうか。あいにく席を外していたからわからない。
練習……? そうか、黄瀬君の狙いは。


「よし、やろっか! いいもん見せてくれたお礼」
「……!!」
「……っもう!」
「マズいかもしれません」
「え?」


黄瀬君のプレイスタイル、それは。
相手のプレイを、一瞬で自分のものにすること。
模倣とか、まねとか、そういうことじゃない。上位互換だ。


黄瀬君が動く。火神君が追いかける。
くるりとかわしてシュート。火神君が防ごうとして押し負ける。

やってることは単純だ。でも多分、それはさっき火神君がしたこと。
自分のプレーを相手がコピーしてきて、しかも威力が上なんて。動揺しない人はいない。

かつての黄瀬君より、何倍もすごくなっている。あんな人、見たことない。


「ん〜…これは…ちょっとな〜」
「?」
「こんな拍子抜けじゃやっぱ…挨拶だけじゃ帰れないスわ」


目が合って、にいっと笑われる。
強者の笑みだ。


「やっぱ黒子っちたちください。ウチおいでよ、また一緒にバスケやろう」
「なっ!?」


たち、ということは。私も?
そろそろと人差し指で自分を指さす。首をかしげる。頷かれる。

や、やだ。


「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ。こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって。千瀬っちも、マネージャーうちにもほしいし」
「ま、マネージャーなら志望者はたくさんいるんじゃないんですか……」
「千瀬っちが一番仕事できるじゃないスか。ね、どうスか」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせて頂きます」
「文脈おかしくねえ!?」


よ、よかった。ついていくなんて言い出したらどうしようかと思った。
兄さんに限ってそれはないとは思うけど、万が一があるから。


「そもそもらしくねえっスよ! 勝つことが全てだったじゃん。なんでもっと強いトコ行かないの?」
「あの時から考えが変わったんです。何より火神君と約束しました。キミ達を…「キセキの世代」を倒すと」
「…やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて」
「ったくなんだよ…オレのセリフとんな黒子」
「冗談苦手なのは変わってません。本気です」


そう。兄さんはいつでも本気だ。
私も忘れるところだった。兄さんが決めたなら、私は全力で応援するだけ。ささえるだけ。
そう決めたのだ。兄さんがバスケをするところを見た、あの時から。





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