翌週になって、ようやく練習に火神君が現れた。
見学だけでもしろと言われていたのに来なかったのは、何かあったのだろうか。
「チワス」
「おー火神! 足はもういいのか?」
「ウス」
「足はいいけどオマエ! 来いよ練習! なんかあったのか?」
「……すんません」
「!? いやだから! 謝るぐらいならちゃんと…!」
「ウィース」
日向先輩の言葉の途中で、誰かが体育館に入ってきた。
木吉先輩だ。
「さあ、練習しようぜ」
なぜか彼は、ユニフォームを着ていた。
「え〜と…久しぶりだな木吉…」
「オウ!」
「いやなんでユニフォームだよオマエ!? やる気あんのか?」
「ひさしぶりの練習でテンション上がっちまってよ」
「あんのか!」
木吉先輩が一度引っ込んで、今度はシャツに着替えて出てきた。
「去年の夏からちょっとワケあって入院しててさ。手術とリハビリで今まで休んでたんだ。木吉鉄平。193p81s、ポジションはセンター。よろしくな」
強い人のように見える。
それにやっぱり、木吉先輩の名前……どこかで聞いたことがある気がする。どこだっけ。
「鉄平! もう大丈夫なのね?」
「ああ! もう完璧治ったよ。ブランクはあるけどな。でも入院中何もしてなかったわけじゃねぇよ」
「何か学んだのか?」
「ああ。花札をな」
…………?
「だから!?」
「面白いぜ」
「バスケ関係ねぇじゃん!!」
……不思議な人だ。ちょっと天然が入ってるのかもしれない。
「あー、あとこれだけは言っとかねぇとな。まあ創部した時から言ってたことなんだが、なけなしの高校生活三年間を懸けるんだからな、やるからには本気だ。目標はもちろん…どこだ!」
え?
「は?」
「いやインターハイの開催地ってどこだっけ?」
「毎年変わるしもう負けたわ!! 今目指してんのはウインターカップだろ!」
「そうか! じゃあウインターカップは今年はどこだ?」
「ウインターカップは毎年同じだよ!!」
なんというか、大丈夫なのかな、この人。
先輩に思うこととしては失礼極まりない。けどそこはかとなく不安を感じる。
「まあとにかく、山登るなら目指すのは当然頂点だ…が、景色もちゃんと楽しんでこーぜ」
「はー……」
「どうした日向?」
「いや…変わってねーなと思ってよ。だからアイツはヤなんだ」
日向先輩がここまで疲労するとは。やっぱり変わりものなんだ。
ただそれでも、なんとなく思うのは。
この人はきっと、強い人なんだろう。
チーム練習が始まってそうそう、火神君がダンクを決めつつファウルを出した。
「火神君、ファウルです」
「ちょっと火神君!! 何やってんの!! 強引過ぎよ、もっとまわり見て!!」
火神君が舌打ちをする。
なんだか柄が悪い。怖い。
「ちょっ…何? やけにピリピリしてない?」
「コガ…いや火神がな。最初は集中してるせいだと思ったんだけど…何か違うんだ、今までと…。プレイがやたら自己中ってゆーか、むしろ入部したての時に戻ったみたいな…」
そうか、この既視感はそれだ。
入部したばかりで、周りの力を当てにしていなくて。
そう、まるで。
「まるで周りに頼ろうとしない。一人でバスケやってるみたいだ…」
バラバラになる直前の、キセキの世代のように。
その時、木吉先輩が火神君に声をかけた。
「…なあ火神君、ちょっといいか? オレも早く試合に出たいんだけどさ、上級生だからって戻ってすぐ出してくれってのも横暴だと思うわけさ。だからよ、勝負してくんねぇ? スタメンを賭けて」
「は?」
「木吉!?」
何を、考えているのだろう。
今の火神君に勝負を挑むなんて。
「だからヤなんだよあいつは! いつだって全力で、バスケバカで、ボケてて、そんで――いつも何か企んでる」
日向先輩の言葉で、改めて木吉先輩に目を向ける。
彼は穏やかに、けれどどこか含みのある笑みを浮かべていた。
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