練習試合後、兄さんは誠凛の体育館へと寄った。私もついていく。
今の兄さんを一人にするのは、少し心配だった。
体育館には日向先輩がいて、シュート練習を行っていた。
「うしっ」
「あの…」
「のぁああぁ!?」
日向先輩の叫び声とともに放たれたボールは、明後日の方へととんでいった。
そして、兄さんが言い出したのは。
「…は!? いや限界って…!? それよりその後…なんでだよ!?」
「ボクではこの先、誠凛の足をひっぱるだけです。…だから、木吉先輩をスタメンにしてください」
兄さんも思うところがあったのだろう。
兄さんのバスケスタイルは、強いメンバーが多い帝光には合っていたと思う。周りを生かすことができるからだ。
けれど周囲が弱ければ、兄さんの力があっても勝てるとは限らない。
兄さんが今以上にチームに貢献するには、新しい兄さんのバスケスタイルを作る必要がある。
「ったく…珍しく話しかけてきたと思えば…。チョーシこくなダァホ!!」
パァンと日向先輩が兄さんの頭を叩く。兄さんは珍しく驚いた顔をした。
「スタメンから外せだぁ? ベンチの奴らのことも考えろよ! んなもんオマエが言うな、言うならコッチから言うわ!」
「…でも」
「だーめったらだめだ。……」
少し沈黙して、日向先輩が話し出したのは。
「木吉の創部当初のスタイルはさ、コテコテのセンターだったんだよ」
木吉先輩の過去だった。
身長が高く経験者の先輩はセンターをしていたけれど、本来彼の得意なポジションはPG。
けれどある日、小金井先輩が「両方やれば?」と言ったことで、道が開けたそうで。
木吉先輩はPGとCを組み合わせた独自のスタイルを作り、誠凛の決勝リーグ進出の原動力となったとのこと。
「木吉とお前は違うけど、お前にできることは本当にそんだけか?」
兄さんはパスしかしない。シュートの確立が低いし、何より兄さんの特性を生かすにはその方法が一番だったからだ。
でも、もしほかにできることがあるのなら。
「まあムリヤリやらせるもんでもねーし。…けど、どーしてもダメなら火神ぐらいには言っとけよ。公園行くっつってたから。今日試合後に話したんだけど…あいつなりに色々考えてたみてーだ」
――『今まで黒子には助けられっぱなしだったんで、しばらく距離とりたいんです。黒子があのまま終わるはずないんで、それまでにオレ自身少しでも強くなりたいんす』
「あいつはお前のこと信じてたからな」
「……!!」
「つーかどんだけ不器用なんだあいつは」
「…すいません、ありがとうございました」
「もういいのか?」
「はい!」
そう言って、兄さんは駆け出した。
私もあわてて後を追おうと、日向先輩に一礼する。
「日向先輩、私もこれで……」
「マネージャー」
「はい?」
「お前も。無理すんなよ」
「……」
無理なんて、していない。
今大変なのは兄さんの方で。
「お前ら兄妹、やっぱ似てるっつーかさ。内側にため込むとこあるだろ」
「そう……ですか?」
「無自覚かよ。ま、支えるのは大いに結構だが……たまには自分もいたわってやれよな」
大変なことは何もない、はずだ。
だけど日向先輩のその言葉は、不思議と心にしみた。
「……はい、先輩。ありがとうございます」
「おう」
ぺこりと礼をして、駆け出した。
さっきまでより、足が軽い気がした。
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