先に出ていった兄さんの後を追えば、彼はバスケットコートにいた。
なぜか火神君と一緒にバスケをしている。なんでだろう。


「よーっし14点目ー!!」
「あの、今はもう少し手を抜いて下さい。考えまとめるどころじゃないです」
「やってるよカルく! お前が弱すぎ!!」
「……」


はっきり言うなあ。ひょいひょいゴールを決めている火神君に、今の兄さんがついて行けるとは思えないのに。


「そういや…初めてやった時もこんなんだったな! その後、正体知った時は正直たまげた…しかも」


ーーボクは影だ。

兄さんの言葉を、ふと思いだした。

ーー光の影として、ボクも君を日本一にする。


「…なあ、あんときから一つ気になってたことがある…。なんでオレを選んだんだ?」
「……すいません」
「は?」
「ボクは…謝らなくちゃいけません。ボクは、嘘をついてました」
「!?」


嘘なんか、ついていたっけ。
あの兄さんが、悪意を持って嘘をつくなんて考えづらいけど。


「ボクは中学時代、6人目としてユニフォームをもらっていました」
「知ってるよ。「キセキの世代」の切り札だったんだろが」
「それは少し違います。確かにボクは信用されていたかもしれません。けど、信頼されては居ませんでした。…いえ、もっと正確に言えば…信頼されなくなっていったんです」


兄さんの言葉が、胸を締め付ける。
キセキの世代の皆は、決して悪人ではなかった。それでも、兄さんの言葉は嘘じゃない。


「ボクは一年の時は、まだなんの取り柄もないただの選手でした。6人目としてベンチ入りしたのは二年からです。その頃はまだ…信頼されていた…と思います。けど青峰君のようにみんなの才能が開花していくと…信頼は薄れていきました。なぜなら開花していくにつれ、「キセキの世代」が最も信じるのは自分になっていったからです」


誰も兄さんを嫌ってなんかいない。信じてなくなんかいない。
それでも彼らの圧倒的な才能が、そういう風に彼らを変えてしまったのだ。


「仮に残り数秒で1点差のような、大事な場面ではパスはきません。「キセキの世代」が自分で決めます。本当は…火神君でなくてもよかったんです。ただ…「キセキの世代」にボクのバスケを、火神君を利用して認めさせようとしただけなんです」


初めて聞く、兄さんの本音。
双子だからって何でも解るわけじゃない。聞いて初めて知ることだってある。
兄さんの言葉は、まさにそれだった。


「…ったく、何を言い出すかと思えば…。そんなこったろーと思ったよ」
「……」
「ずっと感じてたよ。そもそもオレと「キセキの世代」は同種だ。「キセキの世代」のバスケを否定して帝光を辞めたはずのお前が、そんなオレとなんで組むのか。むしろ合点がいったぜ」


火神君も、もしかしたら何か思うところがあったのだろうか。
兄さんの行動は、客観的に見れば不自然だ。


「バスケやる理由なんて人それぞれだろ。オレは別に…」
「いいえ。火神君はもう、違います」


火神君の言葉を遮るようにして、兄さんがそう言った。


「今までの試合でも、火神君はいつも信じてくれました。ここに来る時見かけたイメージトレーニングも、あくまでみんなと戦うことを想定してました」


みんなと、戦う。
それじゃあ、火神君が前言った決別の言葉は、もしかしたら決別なんかじゃなくて。


「負けた後の言葉の真意は決別じゃなく、お互い一度頼ることをやめて別々に今より強くなるため。より大きな力を合わせて、勝つために。日向先輩が教えてくれました」


結局、私はどこかで火神君を信じられていなかった。
キセキの世代と同種のプレーヤー。当然、考えることも彼らと同じだと思っていたのかも知れない。
本当の火神君の言葉に、気づきもせずに。


「…だから、訂正させて下さい。ボクは誠凛に入って良かった。先輩はみんな素晴らしい人で、一緒にがんばる同級生もいい人ばかりで、千瀬も僕を応援してくれて。火神君はボクを信じてくれた」


私の名前が出るなんて思わなくて、どきりと心臓がはねた。
……私は誠凛を応援するつもりで、兄さんを応援していたのかもしれない。
本当に兄さんのことを思うなら。兄さんだけじゃなく、皆を支えるつもりでいなくちゃダメだったのに。


「ボクはもう帝光中6人目、黒子テツヤじゃない。誠凛高校一年、黒子テツヤです。自分のために誰かを日本一にするのではなく、火神君と…みんなと一緒に日本一になりたい…! そのためにもっと強くなって、「キセキの世代」を倒します」
「…つーかオレは最初からそのつもりだっての。それよりまーた間違ってんじゃねーかお前!」


火神君が兄さんにボールを投げ、ゴールへ向かって走る。
兄さんが投げたボールを、火神君はダンクで決めた。


「なりたいじゃねーよ。なるぞ!」
「…はい」


ふと振り返った兄さんが、私に気づいて手を振る。
ぺこりと頭を下げれば、兄さんはこちらへ近づいてきた。


「千瀬。すみません、置き去りにして」
「いえ。……兄さん」
「はい?」


一つ深呼吸をして、兄さんの顔を見る。
ぐ、とこぶしに力を込めた。


「私も……兄さんだけじゃなくて、みんなを支えられるようなマネージャーになります」
「!」
「今まではどこか、兄さんだけを応援している気がしていました。……でもそれじゃ、駄目だと思うので」
「……はい。いいと思います」


誠凛を、日本一のバスケ部に。
改めて思う。私には、何ができるだろう。


「…よう。話は終わったか?」
「火神君。……すみません、お話を聞いてしまいました」
「あ? 別にいいよ」
「私、火神君のこと……少し、誤解していたようです」
「誤解?」
「火神君は限りなくキセキの世代の皆に似ているけれど、……でも、少し違いました」


怖い人だと思った。
自分の力だけを信じる、傲慢な人だと思っていた。
けれど、そんなの間違ってる。


「火神君は、私が思っていたより素敵な人です」
「……お、お前。こっぱずかしいこと平気で言うのな」
「火神君、照れてるんですか? 千瀬はあげませんよ」
「い、いらねーよ」


こっぱずかしい、だろうか。思っていたことを素直に伝えただけなのだけれど。
でも兄さんと火神君のわだかまりは解けた。後は――。


「…けどお前、強くなるっても、どうすんだよ?」
「わかりません」
「オイ!!」
「けど必ず見つけます。ウインターカップまでに」
「バーカ、トロいこと言ってんなよ。オレも強くなる。のんびりしてたらおいてっちまうぞ。とっとと強くなりやがれ」


火神君と兄さんが、同時にこぶしをつきだして。
こっ、とそれを合わせる音がした。


「そんで冬に見せつけろ。新生、黒子のバスケを」








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