練習が終わる。
夕飯を作り終えた後、監督を探した。明日の日程について確認したいことがあったのだ。
けれど部屋にはいなくて、外を探せばすぐに見つかった。
監督は火神君の指導をしていて……そしてなぜか、それを見ることのできる生垣の向こうに、高尾君がいる。
「お」
「ど、どうも……」
目が合って、ぺこりとお辞儀する。すごいなホークアイ。影の薄い私が何も言わずに気づかれるなんて。
ちょいちょいと手招きをされたので、近づいてしゃがんでみる。高尾君は監督たちの方を指さした。
見上げた先にはゴールポスト。そして、おそらくは火神君のものであろうと思われる手形。
あそこまで手が届いたのか、すごいジャンプ力だ。
と、その時高尾君が小銭をポケットから落とした。
「あ、」
「っと」
バン、とすごい音が鳴る。
何の音だろう、と振り返った時。高尾君に手を強く引っ張られて、前に転んだ。
瞬間、今まで私たちがしゃがんでいたところに倒れこむ、巨大な何か。ゴン、と大きく鈍い音がした。
「!」
それは、ゴールポストだった。
さっき見た手形より上に、もう一つ手の形の跡がついている。
……これ、もしかして今、火神君が倒したのかな。高さが尋常じゃないし力も強い。火神君の方は大丈夫だっただろうか。
「わかった? あなたの最大の武器は跳躍力。けどまだ全てを引き出せてはいないわ。今はとにかく体作り、そこからどうするかは自分で考えてね。あとゴールはちゃんと起こしときなさいよ」
そう言って、監督が去っていく。
火神君は仰向けに倒れたまま、けれどケガとかはしてなさそうだった。
ふう、と息をつく。とその時、ふと振り返ったところに兄さんがいた。
「兄さん」
「どうも」
「…よう! 何してんの?」
「いえ、もうすぐ夕食なんで、火神君を呼びに…」
「もうそんな時間か、じゃウチもそろそろ…」
ごはん。そうだご飯だ、作ったのを忘れていた。今の衝撃が大きくて。
早く皆を呼びにいかないと、と思った時。
「頭下げろ!」
兄さんと私、揃って、高尾君に頭を下げさせられた。
なんだろう。何かあったのかな。
「む?」
「!?」
「ちょっと静かにしろよ! おもしろくなりそうだ」
この声は、緑間君?
生垣の隙間から顔を出す。火神君と緑間君がすごい形相でにらみ合っていた。
この状況をおもしろいの一言で片づける高尾君、つわものだ。
火神君が倒れたゴールポストをもとの位置に戻した。
「……んだよ」
「用などない。ただ飲み物を買いに出ただけなのだよ」
「飲みもん…? ってしるこ!? よく夏にそんなもん飲めんな」
「「冷た〜い」に決まっているだろうバカめ」
「そーゆーこっちゃねぇよ!」
漫才みたいなやり取りに、隣の高尾君が肩を震わせている。
そういえば緑間君、おしるこ好きだったな。今でも好きなんだ。変わってない。
「まったく…お前には失望したのだよ」
「なんだいきなり!」
「オレに負ける前に、青峰にボロカスに負けたろう」
「ぐっ…次は勝つ! いつまでもあの時と同じじゃねーよ!」
そう言った火神君に、緑間君はゴールポストの手形を見上げ。
ふっと、鼻で笑った。
「まさか、「空中戦なら勝てる」などと思ってないだろうな? 跳ぶことしか頭にないのか、バカめ」
「ああっ!?」
「高くなっただけでは結果は変わらないのだよ。その答えではまだ半分だ、そんなものはまだ武器とは呼ばん」
緑間君が、左手のテーピングをといた。
「オレが倒す前に、そう何度も負けてもらっては困るな。来い、その安直な結論を正してやる」
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