「青峰のコピー…!? そんな…できるのか!?」
「…そもそも黄瀬君のコピーというのはできることをやっているだけで、できないことはできません」
「は…は!? おいマネージャー、通訳!」
「はい。黄瀬君は、言ってしまえば飲み込みがすごく早いんです。自分のレベルと同等かそれ以下ならマネが出来ますが、プロの選手のように、自分を超えるレベルの動きの再現は出来ません」
「……逆に言えば、それでもやろうとしてるってことは」
「おそらく、青峰君のコピーを「できる」と、黄瀬君自身が信じたという事だと思います」
残り一秒。今吉さんがボールを投げる。
放っただけに見えたそれは、綺麗に弧を描いてゴールとなった。
「ハハッ、いやぁついとる」
「うおー入った!!」
「ブザービーターだ!!」
「入ってもーたわ」
やっぱり、桐皇は青峰君だけが強いんじゃない。他の人もすごいんだ。
第2Qが終わり、インターバル。点差は9点。
大きな差ではないけれど、これがじわじわと影響しているかも知れない。
「…ふへー!! ノド渇いた!!」
「なんだよコガ、いきなり」
「だってなんかキンチョー感すげーしさー。オレらすげー奴らとやってたんだーみたいな」
「ほぼマグレ勝ちと惨敗だけどな」
「にしても会場のこの熱気…確かに飲み物ほしいわね」
「あ、私買ってきます。何が良いですか?」
「じゃオレポカリ!」
「オレも」
「コーラー」
「なっちゃんレモンね!」
「ビール!」
「誰だいつも酒頼むバカは!」
注文されたものをメモして立ち上がる。
すると隣に座っていた兄さんも席を立った。
「手伝います、千瀬」
「え、でも……」
「荷物持ちは必要でしょう」
「……ありがとうございます、兄さん」
外に出て、自動販売機まで歩いて行く。
屋外は意外と風が強かった。
「兄さん」
「なんですか?」
「今回の試合……どうなるんでしょう」
「……わかりません」
「私……その、青峰君が負けるところが、想像できなくて」
黄瀬君は強い。でも青峰君は、もっと強い気がする。
コピーを完璧に出来たとしてーー黄瀬君は、勝てるんだろうか。
「そうですね、でも……あ」
「え?」
兄さんが、ふと何かに気付いたように声を上げた。
私もそちらの方を見る。そこに居たのは、
「黄瀬君」
「こ、こんにちは」
「黒子っち!? 千瀬っちも! なんでここに!?」
「えっと、飲み物を買いに……」
「は!?」
黄瀬君の方こそ、何でこんな所に居るんだろう。
試合はまだ残っている。大丈夫なんだろうか。
「まさか観に来てるとは思わなかったっス」
「昨日まで近くで合宿だったので」
「ちぇー、応援しに来てくれたんじゃないんスか?」
「違います」
「ヒドッ!!」
兄さんは相変わらずドライだ。黄瀬君は慣れているようだからいいけれど。
「…じゃ、ちなみに。青峰っちとオレ…勝つとしたら、どっちだと思うっスか?」
勝つと、したら。
「…わかりません」
「えー…」
「ただ勝負は諦めなければ何が起こるかわからないし、二人とも諦めることはないと思います。…だから、どちらが勝ってもおかしくないと思います」
そうか、兄さんはそう思うんだ。
だんまりを決め込んでいれば、黄瀬君の瞳がこっちを向いた。
「千瀬っちは?」
「そう、ですね……青峰君が負けるところは想像できません。でも、黄瀬君が絶対に負けるともいえません。……すみません、私にはまだ、わからなくて」
「…ふーん。じゃあせいぜい、がんばるっスわ」
「……」
「なんスか?」
「いえ、てっきり…「絶対勝つっス」とか言うと思ってました」
「なんスかそれ!?」
確かに、これまでの黄瀬君ならそう言っていたはずだ。
けれど何だか、今日の黄瀬君は違う気がする。
「…そりゃもちろんそのつもりなんスけど…正直自分でもわかんないス。中学の時は勝つ試合が当たり前だったけど…勝てるかどうかわからない今の方が、気持ちイイんス」
……もし、今の黄瀬君が、勝負を楽しいと思っているのなら。
かつての黄瀬君に戻っているのなら。
私にとっては、朗報だった。
私は皆が楽しそうにバスケをしているところを見るのが好きだったから。
「じゃあ千瀬っち」
「はい」
「どっちが勝つかわかんなくてもいいスから、オレの応援してくれないっスか?」
「……」
黄瀬君の、応援。
「してますよ」
「え? ほんと!?」
「はい。黄瀬君も青峰君も、応援しています」
「……そういうことじゃないんスけど……」
黄瀬君が苦笑いして、頭をかいた。
そういうことじゃない、と言われても。
どちらもかつてのチームメイト。どちらかだけを応援するのは気が引ける。
「千瀬っちに応援してもらえたら頑張れる気がするんスけど」
「……私にそんな力はありません」
「あるっスよ。昔から、千瀬っちが応援してくれてると思うと頑張れたし、オレ」
「はあ……」
そんなに黄瀬君は、私を買ってくれていたのか。何が気に入られたんだろう、わからない。
風が吹いて、黄瀬君の髪がなびいた。
「……ま、いっか。頑張ってるオレ見てたら応援したくなるかも知れないしね」
「応援は」
してますよ、と言う前に、黄瀬君は笑った。
「あわよくばオレに惚れて、海常に来てくれたら最高なんスけどね」
「えっと……すみません。それはないです」
「即効フらなくてもよくない!?」
「でも……」
黄瀬君の言葉はいつも冗談みたいに軽い。
けれど応援してほしい、というその声は、嘘じゃないと思うから。
「頑張ってくださいね、黄瀬君」
そう言って、そっと笑った。
黄瀬君は目を瞬いた後、頬をかいて笑みを浮かべた。
「やっぱ力出るっスわ、千瀬っちの応援」
「……そう、ですか」
「ありがとね、千瀬っち」
黄瀬君は手をぶんぶん振って、去って行った。
頭を下げて見送る。ふと見ると、兄さんがむすっとしていた。
「兄さん?」
「……早く戻りましょう、千瀬。試合が始まります」
「はい。……あ、飲み物買わなくちゃ」
忘れてた。
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