そして、決勝戦。
誠凛のチームは順調に勝ち進み、ついに氷室さんがいるチームとの決戦となった。
「しゃす!!」
「じゃあやろうか、50勝目をかけて…」
「…ああ!!」
私は観客席から見るだけだ。今回はマネージャーなんかは必要ない。
それでも、見ているだけで解る。氷室さんは、たぶん強い。
「火神君…さっきの話で一つ気になったことが…」
「あ?」
「中学時代は互角だったんですよね?」
「ああ」
「気を悪くしないで下さい、火神君は強いです」
「はあ!?」
そう、火神君は強い。けれど。
まるで氷室さんは……例えるなら、そう。
「「キセキの世代」にフンイキがそっくりと言うか…。火神君だけで手に負える気がしません」
「何言うかと思えば…そんなことかよ、バカ。とっくに気づいてるよ。つーわけでたぶん…なりふりかまってらんなそーだわ。いきなり全開でいくぜ!!」
両チームが位置に着く。
いざ。
『ティップオフ!!!』
そのとき。
放り投げられたボールの上に、何かが乗った。
棒状の、明るい色のパッケージ……お菓子?
それをボールごと受け止めた人に、見覚えがあった。
「ゴメ〜ン。ちょおおっと待ってくんない」
「遅いぞ敦」
「わるいわるい、迷っちゃって」
「…お久しぶりです、紫原君」
キセキの世代の一人。
紫原君だ。
「アラー!? 黒ちんじゃん、なんで? つか相変わらず…マジメな顔だねぇ…。マジメすぎて、ヒネリつぶしたくなる」
相変わらず、言うことが物騒だ。
兄さんの頭に、紫原君の手が伸びる。
「な〜んて、ウソウソっ」
「やめてください」
「あれ〜、怒った? ごめ〜んってば! てゆーか、黒ちんがいるってことは千瀬ちんもいるの?」
「はい、あそこに」
「んん〜? あ、ほんとだ。やっほ〜」
ひらひらと手を振られたので、頭を下げる。よく人混みの中から見つけられたな。
相変わらず考えていることが読みづらい。悪い人じゃないんだけど。
ぱり、と紫原君がお菓子を食べる音がした。
「来ないかと思ったよ」
「つーか急に会う場所変える方が悪ーし! 日本帰ってきて東京見物したいってゆーから来たのに…なんか結局バスケとかしてるしさ〜」
「ああそうじゃ、悪い悪い。面白そうだったんでついな」
紫原君と氷室さんが、仲良く話している。
もしかしてさっき氷室さんの言っていた面白い奴とは、紫原君のことだったんだろうか。
「ちょっ…陽泉って確かインターハイ出場校じゃ…!? つい昨日までインターハイだったはず…なんでこんなトコに…」
「あー、だってオレ出てねーし」
「!?」
「ええっ!? なんで!?」
「さぁ…? てゆか、赤ちんが言ったからそうしただけだし」
思わぬ名前にびく、と肩が揺れる。
……彼は今ここにはいない。名前を聞いただけ。
なのに怯えるなんて、私はよっぽど弱いみたいだ。
「…は!?」
「しかも…は!? 赤ちん?」
「…赤司君です。「キセキの世代」でキャプテンだった人のことです」
「!」
今でも紫原君、赤司君と連絡取ってるんだな。
私はもう、ずっと連絡していない。
今の彼は、少し怖い。
そのとき、ピピピピと笛の音が鳴った。
「ちょっとちょっと! 困るよ急に試合止められちゃあ!! 何考えてんだまったく!」
審判だ。そういえば試合直前なんだった。
「あと各チーム、そろいのTシャツ着ることになってるんだけど、キミないの?」
「ダメですか?」
「ダメってゆうか…」
「あ、ダメ」
紫原君がお菓子を持った手で、ぴっと氷室さんを指した。
「室ちん、ウチ確か草試合とか禁止。だから止めたんだ、忘れてた」
「そうなのか? …まいったな」
「だからほら! 行くよー」
「ちょっと待てよ! いきなり乱入してそれはねーだろ、ちょっとまざってけよ」
火神君が紫原君に手をかける。
ケンカを売る気満々の顔と声だ。好戦的にも程がある。
氷室さんとの勝負を止められたとはいえ、だ。
「それより、そのマユゲどーなってんの?」
紫原君が、火神君のマユゲを抜いた。
「ってぇー!! 何すんだテメェ!!」
「アラ? ごめ〜ん。うわぁ、長っっ」
「このっっ…話聞いてたのかよ!?」
「あー、それはやだ。疲れるし」
「は?」
漫才みたいだな。
紫原君の話し方はゆるいというか、こちらまで拍子抜けさせられる感じがある。
「…なんかイメージと違うってゆーか…」
「なんか…変わってんなー…」
「彼はバスケ以外のネジが基本ユルいです」
「はい?」
「スポーツ選手でたまに見かけるタイプですけど、ある分野で圧倒的な才能を持ちながら、逆にそれ以外は何もできない」
「天然系ってコト?」
「逆にバスケでスイッチが入った時は、無敵です」
スイッチが入ることは、あまりないけれど。
紫原君をやる気にするには、お菓子とかで釣るのが手っ取り早い。
でもここにお菓子はないし……というか、草試合禁止なら仕方ない気もするな。
「なーんだ。ガッカリだわ、まったく」
「……?」
「そんなビビリだとは知らなかったぜ。逃げるとかダッセー」
……挑発、だろうか。
小学生のケンカのように見える。が。
「はあ? 逃げてねーしっ」
紫原君も紫原君で、子供っぽいところがある。
今の彼にその挑発は、わりかしてきめんだ。
「オイオイムリすんなよ? ビビってたじゃん」
「ムリじゃねーしっ。てゆーか、ビビってねーし!!」
本当に子供みたいな人だ。二人とも。
結局Tシャツを用意してもらい、氷室さんと紫原君が相手に加わる。
火神君曰く、氷室さんも手段を選ばない人らしい。
「あーもうどーでもいいわ! とっとと…始めるぞ!!」
「しゃす!!」
火神君は未だに紫原君と悪口を言い合っている。子供みたい、じゃなくて本当に子供だ。
木吉先輩が火神君をなだめる。今回火神君の相手は氷室さんで、ポジションからして紫原君の相手は木吉先輩だからだ。
「久しぶり。中学以来だな」
「…誰?」
「まいったな…覚えてないか」
「中学時代やったっけ? 忘れちゃった。それに、弱い人わざわざ覚えたりしないし」
紫原君は良くも悪くも素直な人だ。
腹芸がない一方で、相手を慮るとか、そういう言い方はしない。
たとえそれが、相手にケンカを売る形になっても。
試合開始。
まずボールは誠凛からだ。
兄さんのイグナイトパスで木吉先輩にボールがいく。
そのままシュートだ。紫原君の上から。
「おおおお!!」
「覚えてろとは言わんが正直まいったな。まあ忘れられちまったもんはしょーがない。バスケで思いだしてもらうしかないな」
「いや…もういいよ。ごめ〜ん。思いだしたし、木吉鉄平」
紫原君の雰囲気が、ゆっくりと変わる。
「おかげでやる気出ちゃったなぁ…。忘れたままの方がよかったかもよ?」
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