「それでは、誠凛高校対丞成高校の試合を始めます。両チーム整列して下さい」
「っし、行くぞ!」


気合いの入る面々の中、木吉先輩だけがにこやかに微笑んでいる。


「なんなんだよ、マジ朝から」
「いやぁ…久しぶりの試合だからな…。どうしても顔がゆるんじまうよー」
「大丈夫かオイ…」
「木吉! 久しぶりの試合でうれしいのはわかるけど、物見遊山じゃ困んぞ。勝つために戻ってきたんだろ、頼むぜゴール下」
「ああ…わかってる」


きりっとした顔で先輩が返答したのもつかの間。
にへら、と顔が緩む。


「ユッリーなぁ…大丈夫か?」
「大丈夫だと思いますよ」
「は?」
「あの人がいると安心するというか…負ける気がしません」


それはそうだろう。
木吉先輩の名前を聞いて、調べたときに知ったこと。
中学時代。キセキの世代の影に隠れた、五人の天才がいたらしい。
木吉先輩は、そのうちの一人。"鉄心”だ。











『それではこれより、ウインターカップ都予選ベスト4決定戦第4試合、誠凛高校対丞成高校の試合を始めます。礼!』
「よろしくお願いします!!」


途端、相手チームの一人が涙を流す。な、なんだろう。


「どうした鳴海っ!?」
「ひどいっす、主将…なんですかアレ…」
「は!?」
「女…相手のカントク、女って言ってたし、マネージャーもいるって言ってたのに……っ」


びし、と指が突きつけられる。私たちの方に。


「もっとこうボインっつーか…テンション上がんねーっつーか…色気ゼロじゃん!! おまけにマネージャーなんてどこにもいねーし!! オレのトキメキを返せぇー!!」


……なんという、ことを。
私は悲しいが慣れているのでいいとして、監督にそんなことを言うなんて。
おそるおそる隣を見る。監督はいい笑顔で、ジェスチャーをしていた。


『ブチ、殺、せっ』


……何も言うまい。
多分負けたら選手の方が殺されてしまう。それほど監督は怒っていた。

試合が始まってそうそう、火神君にダブルチームが着いた。


「っこの…」
「持ちすぎるな火神!! 一度戻せ!!」
「わあって…っ…!?」
「白ボール!!」


ばちっと、火神君の持っていたボールが落とされる。


「くっそーっ!!」
「火神君、落ち着いてください」
「うるせーな落ち着いてるよ!!」


一ミリもそうは見えない。
怒り狂った獣みたいな顔をしている。怒り狂っているのは間違いないが。


「火神! 顔コワいぞ! もっと楽にいこーぜ!!」


ばしばしと、木吉先輩が火神君の頭をたたいた。


「いてっ、いてーって!」
「ああ、スマンスマン」
「めりこんだらどーすんだ! ですよ!」
「ははは…え? 何言ってんだ火神、人はそうそうめりこまない」
「知ってるよ!!」


冗談通じないタイプ? ……いや、あれは天然なだけだな。


「とりあえずどうする? 思ったより乱暴なチームだ。何度か黒子も使ったがファウルで止めにきてる」
「だいたい楽にいくとかオマエも全然じゃねーか!」
「いやぁ…やっぱり久しぶりだと試合勘がな…」
「オイ!」
「けどまぁ、そろそろ大丈夫。ボール回してくれ。試合はまだ始まったばっかだ、楽しんでこーぜ」


木吉先輩が、笑みを浮かべて言った。
そうだ、木吉先輩は鉄心なんて呼ばれるほどのプレイヤー。
多分だけど、もっと……秘めた力がある気がする。


試合再開。木吉先輩にボールが渡り、フックシュート。
かと思えば、先輩は途中でパスを出した。


「なっ…!?」
「すげぇパス!!」


日向先輩が点を決める。

再び木吉先輩ボール。また来る、と相手が警戒心を示す。
今度は木吉先輩は、一度落としてからシュートを決めた。
……なんだろう。どう来るか読めない、というのはそうなのだけど。
ボールを手から放すタイミングが、遅い……?
そっか、普通の人より手が大きいんだ。だから。
言うなれば、後出しの権利。


「くそっっ、力ずくで勝負だ!!」
「ナメんな一年ボーズ!」


相手のボールを、木吉先輩がはたき落とす。
落ちるボールは伊月先輩に渡り、そして兄さんの超長距離パス。
ボールの先は、火神君へ。


「たたきこんでやる、くらえっっ!!」
「行けぇー!!」
「たっ…高いー!!」


その瞬間。ごん、と火神君の額がゴールポストにぶつかった。


「高すぎー!!」


ど、どれだけジャンプ力があるんだ。ゴールポストにぶつかるとか普通あり得ない。
……いや、火神君のジャンプ力があることは知っていたけど。


『第1Q終了です』
「すげぇぞ誠凛!!」
「夏とは完全に別格だ! 信じられねぇ!!」









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