■ 下

 声を押さえることも出来ない私を翻弄しながら、男の手が太腿や腰を撫でていく。
 その手はいつの間にか、柔らかな太腿の奥、更に柔らかく敏感な足の付け根へと伸ばされていた。

 その場所を確かめるように、下着越しに撫でた後……ゆっくりと布を掻き分けた指は、優しく、けれど容赦なく、敏感な箇所へと狙いを定める。

「なまえ、わかるだろう? お前のここ、凄いことになっているぞ」

 絶え間なく溢れ滴る蜜を拭うように動いた指が、偶然を装い陰核を撫で上げる。その度にもどかしい快感に腰が動くのを、恥ずかしいと思う余裕はもう私には無かった。
 それよりも、もっとちゃんと触ってほしい。優しく摘まんで欲しい。潰すように、ぐりぐりと押さえつけて欲しい。そして、何度も、擦ってほしい。期待と不満と快感はない交ぜになり、ますます蜜を溢れさせる。
 けれど、いざそれらの期待が叶ったところで、決して満たされることが無いのもわかっていた。
 その蜜の源泉への愛撫こそが、発情したこの身体が一番求めていることなのだから。


「そろそろいいか……力を抜けるか?」

 欲情を顕にした鋭い瞳と、頭を撫でる手の平の優しさと、労わる声の不一致にくらりとする。ゼルガディス自身、そう余裕もないだろうに。待ちきれない期待感に、下腹部がきゅんと疼く。

 肯定の意味で唇を突き出しねだったキスが終わっても、ゼルガディスが早急に挿入に移るようなことはなかった。なおも執拗に塞ぎに来る唇は情熱的で、絡め合った舌からどちらのものかもわからない唾液が溢れ、混ざり、私の喉へと流し込まれる。
 そうして、性交渉そのもののような、深く熱く貪り合う口づけで私を夢中にさせながら、くぱくぱと栓を欲しがる泉に熱いものを押し当てるのだ。
 焦らすように、慣らすように。
 固いペニスでぬるぬると花びらを掻き乱され、ぷっくりと充血した粒を擦られる。
 もうそれだけで蕩けそうになるけれど、ここで蕩けてなどいられない。このペニスで抉られた先には、これ以上の快楽が待っているのだろうから。期待に昂る私の穴に狙いを定めた男は、けれどもいよいよという瞬間で動きを止めた。

「……んっ……ゼル?」
「……久しぶりだからな。加減が出来なかったら、悪い。なるべく、優しくするから」

 ゼルガディスはそれだけ言うと、私の返事を待つこともせず……今度こそ、腰を進めた。
 ゆっくりと、柔肉を掻き分けて雄が埋め込まれてくる。ぐっと押し入ってくる圧迫感と広げられる感覚は、正直なところ快感だとは言い難い。だからこの鈍い痛みに漏れ出るのは、待ちわびた瞬間への歓喜では無く……苦痛の呻きだった。声になるギリギリで飲み込むも、眉間に寄る皺までは誤魔化せない。

「おい!?」

 全てを私の中に埋め込む手前で、ふぅと一旦熱い息を吐いたゼルガディスは、そのままびくりと動きを止めた。しまった。さすがにこの顔を見られたら、痛がっていることは明らかだ。……困った。どうしよう、誤摩化せる気がしない。
「ごめん、ちょっと、ね。大丈夫だから、続けて……私も一緒に、気持ち良くなるの……」
 そんな驚いた顔をしないで頂戴。ああ、ここで止めるなんて言われたら、どうしよう。そんな不安に襲われて、うっかり泣きそうになる。
「なまえ……まさか、お前」
「……うるさい。ここで止めたら、怒るからね」
 ……我ながら、なんとも可愛げのないことを言ったものだ。けれども、返ってきたのは予想外の甘い言葉だった。

「生憎、俺も止められないさ。ただ、さっきの発言は訂正する。最大限に、優しくする」

 ふわりと、まだ多少ひきつっているだろう顔に、手が伸ばされる。
 痛みに耐えながらぱくぱくと口を動かす私の唇をなぞった指先は、そのまま緩やかに動いて頬で止まった。同時に、ゆっくりとした進入が再開され……そして間もなく、今度こそ私の中はいっぱいに広げられ、満たされる。

「……大丈夫か?」
「……平気だから、続きをどうぞ」

 そんなに優しい目で見つめられたら、どうしていいかわからなくなる。ぶっきらぼうな返答をしてみたところで、全てお見通しだと言うように軽いキスを返されると立つ瀬がない。
 おまけに、腰を埋め込んだきり動こうとしない気遣いは、嬉しいけれど余計でもあった。私は、この先の快感を知りたいのに。

「……聞こえなかった? つ、づ、き」
「はいはい。まったく、強がりなお姫様だな」

 何よ「お姫様」って。恥ずかしい言葉に言い返そうとするも、直後も押し寄せて来た快感の為に叶わなかった。


「そんなにもたないから、少しだけ我慢してくれよ」
 だから、そんな気遣い要らないってば。そう言いたいのに、動きに合わせて訪れる違和感に荒い息しか出てこない。
「なまえ、ほら、こっちだ。こっちに集中しろ」
 そう言って、耳朶を甘く噛まれる。同時に、真っ最中のその場所の手前、敏感な陰核に指が触れた。
 撫でて捏ねて、周囲もくるりと撫でられて、喜ぶ身体に応えるように愛撫は胸にも与えられる。相変わらず圧迫感と鈍い痛みしかもたらさない穴とは違い、それら場所は的確に私の快感を引き出していく。


 体内でまた蜜が溢れ始めたことを、いつの間にか和らいでいる痛みによって知る。そうだ……いつの間にか、そこに感じるものも痛みだけではなくなっている。むず痒いような、疼くような……。
 そして、幾らかスムーズに抜き差しを繰り返していたペニスが、ある場所をとらえた。今までとは違った感覚に、そうと気が付く間もなく嬌声が漏れる。

「……今の場所、よかったのか?」

 反応を見るように動くゼルが、もう一度そこを突く。今度ははっきりと、その感覚は快感として認識された。また、声が漏れる。痛み自体もかなり薄まってきていた状況に、この刺激はたまらない。快楽を欲する身体は、この快感を起点に一気に調子を整えにかかった。

「……くッ。随分と、腰にくる声を出してくれる」

 私の変化は、露骨にゼルにも伝わったようだ。もう少し激しくしてもいいかと問うゼルガディスの声は、それはそれは余裕が無いもので。覚えたての快楽を追求したい私にも当然、断る理由は無かった。

 さっきまでの異物感が嘘の様に、ゼルの動きに身体が呼応する。引っ切りなしに上がる私の嬌声は、けれども仕舞いには見かねたゼル自身の手で封じられた。けれどもそんな状況にまで興奮し、益々昂るのだった。
「お楽しみの所、悪いが、そろそろ……」
 激しくなる腰の動きは、ほんの少しだけ痛みを思い出させた。
 けれども、限界に向かって駆け上がる男の姿と、体内でいっそう増す体積が与える興奮の前では、そんな痛みは些細なものだ。

 そして、そして、そして……短い呻きとともに、ゼルが果てた。
 その瞬間の喜びと言ったら、到底言い尽くすことなど出来ない。


  ***


 倒れ込んだ姿勢のまま、こちらへと伸びてきた手が頭を撫でる。

「なまえ、大丈夫か」
「おかげ様で。随分と優しくして貰えたみたいだし? ……ゼルの方こそ、大丈夫?」
「あー……まあ、少しこうしていれば……」
「じゃあ、ちょっと休んだらもう一回しよっか」
「……底なしか。まぁ、止めておけ。今は気が昂っているから平気かもしれんが、慣れないことをしたんだ。身体には相当な負荷がかかっている筈だからな」

 そんなものなんだろうか。まあ、ちょっと下腹部を中心に違和感はあるけれど。ぐったりとしたゼルに寄り添い肌が触れ合うのを楽しんでいると、不意にその両腕に捕えられる
「ゼル?」
 抱きしめられるなんて思ってもみなかったため、さすがに驚く。
 その上、こんな体勢ではゼルガディスの顔が見えない。一体何事かと混乱を言葉にする前に、ゼルが口を開いた。

「……初めてなんだったら、初めてって言え」
「……言わなくても、結局気づいたくせに」
「そりゃ、あんな反応されりゃな……って、違う。最初に、言えってことだ。まったく、大体なんだあの誘い方は。あんな手慣れた風に仕掛けて来て、まさか未経験だとか……お前なぁ、俺がどれだけ驚いたと……」

 まあ、世慣れた人間が集う村で育てば、耳年増にもなろうというものだ。
 しかも、ゼルガディスやリナ達に出会う前は、それなりに一人旅をして来たのだから……まあ、際どい展開になることも珍しいことでは無かったし、まあ、お触りくらいの経験なら、無きにしも非ず……というわけである。
「──それにほら、私ってこの通りの容姿だし?」
 もはや突っ込む気力も無いのか、今度は溜息だけが返された。


  ***


「ねえ……旅に支障、出そう?」
「……お前の方こそ、初めてが俺でよかったのか。こんな、混ざりものの俺が相手で」

 自分で自分を抉る言葉を吐く彼が、なんだか泣きそうだと思った。ので、一呼吸置いた後、それはそれは盛大に噴き出すことにした。

 混ざっている貴方と出会って、混ざっている貴方を気に入って。
 混ざっているのが素敵なのに、それを捨てて人の体に戻りたいと願う貴方に恋をした。そんな私に、愚問もいいところである。

 それに、と郷里の個性豊かな面々が脳裏によぎる。
 だってねえ、真に人から遠いのは、貴方じゃなくてむしろこの…………。

「お生憎様。"趣味の良さは"家系なものでね」



(2014.03.29)
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