| ■ 8月某日 佐々原宗平がその女性の存在を認識するに至ったきっかけは、行き付けのバッティングセンターで一向にヒットの音を響かせないままバットを振り続ける姿が気になって……ということではなく、彼の友人である"少し変わり者の少年"が彼女と親しげに話す姿を目撃してのことだった。 見るからに世渡りや外面という概念から無縁そうなあの友人が、満面の笑みで仕事帰りらしき女のヒトと会話している姿はなかなかに意外なものだった。思わずじっと見つめてしまったものの、けれど、とすぐに思い直す。そもそも彼はこのバッティングセンターの店長の縁者であり居候なのだから、客の相手も手伝いの内なのだろう。 だからこの時も、ひとまず声だけかけて通り過ぎるつもりだったのだが。 「……吉田さぁ、オレの方に来ちゃってよかったの?」 「なにがだ?」 「あー……うん、やっぱいいや」 目が合うなり飛んで来た友人に問えば、にこにこと笑いながら首を傾げるばかりだ。 やましさや名残惜しさなど微塵も見つけられないその瞳は、佐々原宗平の知る男子高校生の行動パターンのどれにも当て嵌まらない。けれどこの笑顔を前に、おねーさんと友達ならおねーさんじゃね?などと言ってみたところで返ってくる言葉は目に見えているので、代わりにふうと息を吐いて振り返る。ヒラヒラと手を振り少年を見送った女性に向かって「話し相手を取り上げてすみません」という思いを込めてひょこりと会釈してしまえば、この話はここで終了だ。友人たちと合流して、学校や部活のことをあれこれ話しているうちに彼女の顔もそもそもそんな出来事があったことも、記憶の向こうへ落ちていく。 そんなわけでその女性のことはそれっきりになる筈だったのだが、似たようなことが二度三度とあればそうもいかなくなる。今では、吉田が傍にいなくても彼女のことがわかるくらいには目が慣れてしまった。 だいたいいつも仕事帰りらしき服装で、休憩所で一息ついているかと思えばゲームコーナーで一番地味なパズルゲームに熱中していたり、お世辞でも惜しいとは言えないようなタイミングでバットを振っている姿は気がつかなければそこまでだが気がついてしまえば「またか」と思うようになる。 ある日どうにも見かねて、なあ誰かあの人に教えてやった方がいいんじゃねーのとお節介を口をしたところ、アレでも店長による矯正後なのだと耳打ちされた。さすがになんと返せばいいか分からなかった。だって、それでアレなら壊滅的だ。むしろ、最初はどれほど酷かったのかと間違った興味まで湧いてしまうくらいだ。なぜそれでストレス発散にこの遊戯を選ぶのかさっぱり分からない。 そのうち吉田経由でお菓子やジュースをもらうようになって、常連同士ということもあり顔を合わせれば挨拶を交わすようにもなったけれど……今でもやっぱり変な大人だなあとは思っている。いや、確かにいいひとではあるんだけれど。いいひとではあるんだけれど……それでもやっぱり、友人たちとはまた違った意味で変なひとだ。 (2016.11.18) [ 戻 / 一覧 / 次 ] top / 分岐 / 拍手 |