■ 1(幕開けはご一緒に)

 久しぶりに電話越しに聞いた友人の声は、それまでの時間などなかったかのように、口調だけは相変わらずだった。それでも。頻繁に連絡を取り合うでも無く、お互いの近況を報告し合う習慣も無い私たちだけれど、付き合いは長くて深いつもりだ。
 例えばこうして面倒臭そうな調子で話しているようでも、状況が切迫したものであることとか、友人が思いのほか憔悴している事くらい簡単にわかってしまう。

 そして、私にわかってしまうということくらい、向こうだって気が付いているだろう。
 そこまで想定しながら、それでも敢えて私は能天気な声を上げた。


「やぁん! 澪ちゃんったら楽しそうねぇ。いいなぁ、私もその人たちに会ってみたいなー……ってことで、すぐに行くから待っててね」
『ちょっとなまえ! 人の話聞いてないだろ! だから危ないって……』
「えー、だって焔狐なんて絶滅危惧種、私だってちゃんと見たいし。それに、みんなが揃うなんて何年も無かった事でしょうが。仲間外れは酷いと思うなー」
『駄目だと、どう言えばわかってもらえるんだか。言い出したら聞かなかいのは短所だぞ……って聞いてないだろう。あーあ、もう、あんたって子は』

 電話の向こうで深く深く吐かれる息が聞こえた。こんな時の彼女がどんな顔をしているのか、見ないでもわかる。以前共に過ごした時の記憶は未だ鮮明だ。溜め息ついでに頭に手を当てる様子すら鮮明に思い描くことが出来て、口元に笑みが浮かぶ。

「よーし、じゃあ……明後日の昼にはそっちに着くから、よろしくね澪ちゃん」
『なまえ、頼むから私の話を聞いてくれ。私だってそりゃ加勢は嬉しいが、今回の無縁断世救出は案内屋の"総意"じゃない。この件にあんたまで巻き込むわけには……大人しく……』
「あらー? いきなり音沙汰無しになった挙句、一戦かまして無茶して傷だらけになった人がそれを言うの?

 さすがに今の発言には我慢ならないものがあり、最後まで待たずに口を挟んだ。私は確かに案内屋という一派には従う立場だけれど、この思いまで圧力や爺様への義理立てによるものだと思われるのは心外だ。

「だいたい、使えるものは何でも使わなきゃ。なりふり構ってられる状況じゃないんでしょ? それに、立場だ何だのと言うならなおさらよ。未来を担う若手の窮地に出ないなんて、それこそ無駄飯食いじゃないの」
『……いや、それはそうなんだがな。しかし、師匠たちに言われたのなら……』
「澪ちゃん! ……私は、いつだって私の意志で動くし、戦いたいって思うから戦うの! ……って言うわけで、よろしく。ああそうだ迎えはいらないから。ふふふ、可愛い少年少女に、大変身の白金くんかぁ、楽しみだなぁ」

 思いのほか強い調子で出てしまった声を誤魔化すように、慌てて出した声は逆に妙に明くなってしまった。明らかに不自然だ。やっばいなぁ、下手なことしちゃったなぁ……と口に出してしまった後からそっと後悔の汗がしたたるが、もちろん今更だし、遅すぎだ。
 けれど、予想に反して彼女はそこを突いては来なかった。代わりに、やっぱり呆れた風に、深い溜息を吐いたのだった。

『最初に言ったように、確かに悪い奴らじゃないが……まあその、変な奴ばっかりだから。くれぐれも、過度な期待は持つなよ』
「やだなぁ澪ちゃんったら。そんな面白そうな人たちなら、期待するなって言う方が無理じゃない」

 そのまま二・三のやり取りの末、じゃあねと受話器を下ろしかけて……慌ててその腕を戻して、切れてしまう前に届けと声を張り上げる。
「ああ、待って! ねえ、お見舞いは、お花・果物・呪具のどれがいい?」
 聞いてみたところで、お手製の道具に果物を添えて持っていく事は当然決定事項なのだけれど。でもまあ、フルーツの希望くらいは聞いておこうかなとね。ついでに、緊張感が漂う余地もないような場違いなやりとりに、脱力してくれたらもっといい。


 相変わらず一定方向に表情豊かな友人の声を聞きながら、私はひそかに胸を撫で下ろしていた。
 まったく、腕を取られただの戦争だの無縁断世だの……失恋だの。大事な大事な友人の危機を、いつも後から(それも他人によって)知らされる身にもなって欲しいものだ。
 今回だって湟神の爺様からの連絡が無かったら、こんな風に連絡を取る事も無くて、彼女の話しを聞く事も無くて……。きっと私は、もっと事態がどうにもならない展開に陥る時まで──それこそ、案内屋の"総意"として招集を受けることになるまで、暢気に過ごしていただろう。

 まあ、だからといって、素直にあの古狸のような爺様に礼を言えるのかと言われると、それはまた別の問題なのだけれど。



(2014.08.07)
[ / 一覧 / ] 

top / 分岐 / 拍手