■ ひとりでしちゃう?

 ぱちりと目を覚ました私はそのまま時計を確認しようと手を伸ばし──その手を豪快に空振った。おかしいなと瞬きをしてからようやく、ここが自分の部屋ではなかったと気が付く。
 そうだ、ここは派出須くんの部屋だった。
 しかも、今日は休みなんだからこんな時間に起きなくてもよかったのに。わざわざアラームがいらない休日に限って、こうして朝早く目が覚めてしまうのはどうにかならないものかしら。まったくもって不本意ながらそれなりに良くあることだった。ああ、習慣とは恐ろしくて悲しい。
 せっかくだから今からでも目を瞑って、もう一度寝てしまおうか。そう思って体勢を変えた拍子に横で眠る派出須くんの腕に身体が触れる。

 その瞬間、甘い刺激が身体を駆け巡った。

 思わず漏れそうになった声を喉の寸前で押し留めて、跳ね回る心臓の音が伝わりませんようにと胸を掴み深呼吸に努める。そして恐る恐る傍らの派出須くんを覗き見れば、すうすうと規則正しい寝息をたてている寝顔が見えたからようやくほっと胸を撫で下ろした。

 けれども、何の気なしにそのまま下へと視線を向けてしまったせいで、こんな自分の迂闊さを再度呪う羽目になる。だが、しかし。ここで気が付いても遅過ぎるのだ。うっかり、パジャマの襟元から覗く鎖骨だったり首筋だったりに目を奪われてしまった私のスイッチはもうしっかり切り替わってしまった。

 もう一度、今度は意識してゆっくりと。眠っている派出須くんの腕にそっと身体を押し付ける。薄いシャツ越しに、派出須くんの体温と意外に筋肉質な腕を感じて改めて胸が高鳴る。この身体を前に数時間前の自分がどう過ごしていたかなんてことは、なによりこの私の身体が一番よく覚えている。絶妙に角度を調整して押し当てた両胸の突起は、みるみる固くなっていく。

 そっと。次はちょっぴり思い切って、派出須くんの手を触ってみる。
 細くて長くて固い指は、いつものように器用に動くことは無く、ただ私がふれるままだ。──これは、なかなか起きないだろうなぁ。
 一旦そう思ってしまうと、もう少しばかり大胆なことをしても大丈夫な気がしてしまう。これはチャンスだと胸が高鳴り、期待と渇きに身体が疼き出すのをもう止められない。いや、本当はもうとっくに火はついていたのだ。
 逸る心を抑えながら、ゆっくりと派出須くんの手を私の身体へと導いて……やがてその指を私の柔らかいパジャマのズボンにふれるところまで持ってくる。
 それだけで太ももは震えるし、びくりと反応するのだけれど、お楽しみはこれからだ。起こさないようにと気を配りつつも、そっと派出須くんの指を誘導し続ける。
 ──そして、その甲斐あって、やっと。
 二枚の布越しとはいえ、ようやくその手が秘所を擦った瞬間、待ち望んだ刺激に快感が身体を突き抜ける。とはいえ、あまり激しくするとさすがに起きてしまうだろうから、手に手を重ね緩慢に動かすくらいしか出来ない。けれど、いつまでもこれでは満足できる程に、無欲では無い。

 最初こそもどかしいようなこの刺激がよくても、次第にこれでは物足りなくなるだろうことも目に見えている。

 実際、いざ秘所への刺激が始まれば、今度は押し当てた胸が切なくなって堪らない。
 押し当てるだけの感覚より、もっと確かで鋭い快感が欲しくて、もどかしさに身を捩るものの……派出須くんの指は私の秘所にある。
 仕方が無いので、派出須くんに添えていない方の手を胸に伸ばし、自分で突起を刺激してやる。立ち上がった先端を撫でて摘まんで擦ってやれば、派出須くんの手による愛撫とは比べようもないけれど、それでもそこそこに気持ちよくなれた。

「んっ……派出須く、ん」
 こっそり派出須くんの手を使って慰めているという後ろめたさと、ばれたらどうしようというスリルで、酷く興奮した私の口からは、次第に小さな声が漏れ始めた。
 いつからか、私のきつく瞑った瞼の奥には、派出須くんの姿が映し出されている。彼がたまに見せる少し強気な姿を思い浮かべ、脳裏に残る彼の声を再生しながら、彼に犯されるように抱かれている自分を思い描いて彼の手に秘所を押し付ける。
 けれども、起こさないようにと気にしするこんな動きでは到底、肝心の刺激には至らない。いきたいのに、いけない。ポイントを突かない刺激は、最早先ほどまでのもどかしさとは比べようも無い程に私をさいなみ始め、その状態にすら私は増々興奮していく。

「やぁん……もっとぉ……」
『もっと、どうして欲しいの?』
 頭の中で、いつもより意地悪な派出須くんの声が響く。
「……もっと……もっと、いっぱいしてぇ」
『いっぱい? ふふ、それは──いっぱい指で触って欲しいってことかな? それとも……ここを、僕のでいっぱいにして欲しい?』
「あっ。派出須くんで……逸人くんので、いっぱいに……して、欲しいよぅ……」

「よく言えました。じゃあ、ご褒美の時間にしようか」

 瞬間、私が掴んでいた筈の手は鮮やかに動き、気が付いた時には私の両手がベッドに縫い付けられていた。
 ……あ、あれ? ぱちぱちと瞬く私に覆い被さった派出須くんは、にっこりと笑っている。

「まったく、自分だけ楽しむなんて、ずるいなぁなまえさんは。朝からこんな可愛いことをしてくれるなんて、反則だよ」
「え、え? 寝てたんじゃ……」
「あんなに可愛いなまえさんの横で? まさか。まぁ、すっかり夢中だったなまえさんが気が付かないのは、無理もないことだろうけどねぇ」

 ……あれれ? まさか、ひょっとしてひょっとすると、脳内再生のあの声の幾らかは、現実だったのだろうか。などと自分の迂闊さを呪っても、これまた遅すぎる。混乱と恥ずかしさで真っ赤になる私を笑った派出須くんは、そのまま首元へ顔を寄せた。
 がぶりと甘噛みされて喘いだ隙に、手首を掴んでいた手は胸と秘所へと移動していた。
 そして、パジャマの薄い生地では隠せない程にぴんと立ち上がった乳首をなぞり、これ以上無い程にどろどろになった秘所を確かめるように指で弄りながら、あっという間に私の服を剥いでしまう。

「いやらしいなぁ。僕の手を使ってしちゃう程、我慢できなかったんだ」

 ほら、吸い込まれそう。そんなに僕の指がいいんだ? 嬲る言葉に合わせて、きゅんと切なくひくつく入口を撫でて肉芽まで擦られるのだから堪らない。疼き続ける穴を早く満たして欲しくて、夢中で派出須くんの服に手をかける。
 勿論、喘がされ続けているこの状態では、思うようにすんなりとは脱がせられない。けれどこの仕草は彼をより興奮させることには成功したようで、間もなくベッドの下に服が投げ落とされた。

「なまえさんは本当に可愛いなぁ。擦られるの、そんなに好いんだ」
 逞しく反り返った熱いペニスを肉芽に押し付けながら、派出須くんが笑う。
「いじわるしないで……!」
 ここにきてさらに焦らされるなんて耐えられない。なのに派出須くんはとても楽しそうに、意地悪そうに尚も笑うのだ。
「なんのこと?」
「ひどい──さっき、ご褒美、くれるって、言ったじゃな、い……やぁんっ……」
 敏感なそこを今度は強弱をつけてぐりぐりと責められて、おかしくなりそうになる。
「うん、そうだね。でもあのおねだりが可愛かったからもう一回聞きたいなぁって思うんだけど。……ねえ、僕のナニにどうされたいの?」

 睨みつけたつもりだけれど、こんな風に身体を捩って声を漏らし続ける状態では、迫力なんて出ないだろうこともわかる。案の定、派出須くんはひるみもしない。

「ねぇ、もう一回言ってよ。なまえさんの声でもう一回、聞きたいなぁ」

 ……こういう時は、何と言っても引かない時だと経験で知っている。どうあっても、言うまで焦らし続ける気なのだろう。私はこんなにも限界だというのに、憎らしい。けれどあの派出須くんがこうやって甘えてくれることを喜ぶ私も確かにいて、あの派出須くんが、こんなにもただの男の顔をして私に食らいついてくれることを嬉しく思う私も確かにいるから。


「……もう、意地悪しないで早く、ちょうだいよぅ。……私のここ、逸人くんので──いっぱいにして。いっぱい広げて、いっぱい突いて!」

 ああ、まったく。この時の派出須くんの楽しそうな顔といったら!



(2014.05.04)(思い思われている自信があるから、強気になれる派出須先生)
[ / 一覧 / ] 

top / 分岐 / 拍手