■ 午前

 今日は、起床時からいつもに増して声をかけられた。
 やれ誕生日だやれ目出度いだと言われても、正直実感もなにもあったものではないが──それでもこうして好意を向けられることを、有り難いことだとは思う。

 始めの頃は正直どう振る舞えばいいのかわからず、贈り物や祝いの言葉を断ったり邪険にしたこともあった。だが、近年はちょっとした菓子や紅茶など比較的受け取りやすいものが増えたり、俺自身も慣れてきて、まあそれなりにさらりと礼を言えるようになっていた。そんな俺の変化を殊更に喜んでいるのは……俺をこの太陽の下に引き摺り出した張本人であるあの男と、なまえだ。足を伸ばしただけでまた増えたこの荷物たちを持ち帰れば、これまたなまえは嬉しそうに出迎えてくれるのだろう。
 そんなことを考えながら、書類整理を言いつけていたエレンの様子を見に寄ればそこには意外な奴の姿もあった。


  ***


「兵長、お誕生日おめでとうございます!」
 満面の笑みで駆け寄ってくるこのガキは、パタパタと動く耳と尾が見えるのではと思うほどに犬っぽい。正直、なぜこんなに懐かれたのかと首を傾げる日々だが、それ以上に今気になるのは後ろの狂犬の方だ。
 エレンが自分から離れた瞬間から、射抜き殺してやらんと言わんばかりの殺気を俺に向けてくるもう一人のガキには心底げんなりする。おいエレンよ。お前ももう少し、こいつの執着の強さに気付けって……。そしてもっとしっかり手綱を握っとけって……。
「これ、プレゼントです!」
 ツレが狂犬全開なことなどまるでお構いなしというエレンがにこにこと差し出したのは、赤いリボンのかかった小さな袋だった。予想外の可愛らしい包みに内心驚きながらも受け取ると、エレンは満足そうに笑ってアッカーマンを振り返った。
「ほら、ミカサも」
 促されていかにも渋々という様子で近づいてきた狂犬は、不本意そうに俺に向かう。
「これ……班長から。今日中に目を通してくれと、預かった」
 差し出された書類を受け取っても、アッカーマンは動かない。エレンが「ミカサ」と名を呼んで促すとやがてもう一つ包みを差し出した。
「……なんだ」
「……お祝い」
「……」
「……」
 なんだ一体。そんなに嫌そうに差し出すくらいなら、用意しなくてもいいのでは……。もしや俺への贈り物は好意ではなく、強制になっているのか。だとすればそれは好ましくない。部屋に戻ったらなまえに確認してみるか。いや、しかし仮にそうだとすればあのなまえが正直に吐くとは思えない。よし、後でエレンを締め上げるか。
 そんなことを考えていると、業を煮やしたアッカーマンがぐいと手を押し出して受け取るようにと促してくる。
 たとえ本意からでないとしても、まあ、一応は形式だ。年長者である俺は寛容に振る舞うことにし、礼を言って包みを受け取った。……つーかこれ、カミソリが仕込まれていたりしねぇだろうな。別の意味で興味を引かれ封を開けようとすると、狂犬が吼えた。

「お前じゃない! なまえさんにだ!」

 おい、何だって? よくわからないので、説明しろとエレンに視線を向ける。
「おいミカサ、そんな言い方するなよな。兵長からなまえさんに渡してもらうんだから、兵長へのプレゼントで合ってるだろう?」
 こらとアッカーマンを叱るのは結構だが、お前の言っていること自体がすでに意味不明だ。おいと声をかけると、ようやくエレンはこちらを向いた。

「兵長の誕生日が今日だって聞いたから……。俺たち、兵長にすげぇ世話になってるし、行動でも示したいなって思って。兵長が一番喜ぶのはなまえさんのことだと思ったから、こいつと俺で、なまえさんへのプレゼントを用意したんです」

 結婚してないけど、こういう場合ってなまえさんだと思うんです。というところまで聞き、ようやくこいつらの意図を理解する。
 つまりはお前らからのこれは、あいつに渡せばいいわけか。まあ、なまえにというのならこっちにも変なものは入っていないだろう。この狂犬がなぜかなまえには一目置いているらしいことは聞いていたので、今度は礼の言葉もすんなりと出てきた。



(2013)
[ / 一覧 / ] 

top / 分岐 / 拍手