■ 黄金のシャワー

 ねーねーゲンスルーもこっち来てよー! お風呂凄く広いしジャグジー付きだよ!

 開いたドアの隙間から聞こえる子供っぽい声に、男はやれやれと立ち上がった。
 風呂でするのは疲れるから嫌だとかなんだとか。普段は男と入るのを嫌がる癖に、自分の気分次第ではこうして呼びつけるのだから勝手なものだ。やれバブルバスが上手く出来ただの、やれ入浴剤がいい香りだの、やれ内装が綺麗だの。ゲンスルーとしては少しも興味を惹かれない事柄でも、彼女にとっては見せたいものになるらしい。

 最後に一口とグラスを呷って歩き始めた男は、けれどもすぐにその足を止めた。
 彼が感じたのは喉の渇きだった。水ならたった今確かに飲んだというのに、満たされた気がしない。備え付けの小型冷蔵庫から新しい飲用水のボトルを取り出して口を付けてごくりごくりと飲めばさすがに渇きは治まった。しかし、それでも……なんだか今日はとても喉が渇く。半分以下に減ったボトルを見つめて、結局男は新しい一本を取り出すと冷たいそれを抱えて風呂場に向かう。


 たっぷりのぬるま湯につかりながら、ほんのり色付いた女の肌を視界に収め……となればこの先の展開はひとつしかないだろう。
 当然のように手を伸ばせば、柔らかな肉が指を受け止める。最初こそ逃れようと身を捩っていたものの、それが形だけだと本人だって気づいていたに違いない。入浴剤か洗髪剤かわからないが甘ったるい匂いが漂う空間で、負けないくらい甘ったるい声を響かせて、いったいなにがイヤだというのか。現にこうしてなんだかんだと言ったところで結局最後は恥ずかしそうに、けれどどうしよもなく嬉しそうに、この女は受け入れるのだ。泣き叫ぶ女を虐げるのとは随分と勝手が違うが、これはこれで今までにない楽しさがあった。
 ──つーか、こいつ自体がエロい上に底なしってレアものだからな。
 思えば最初はただの性欲処理の道具として、加虐心の限りに好き勝手に貪り壊す為のただの玩具として使い捨てるつもりで接触したのになあ、と始まりの日に想いを馳せる。

 始まりはいつもと同じで、女であるという以上の期待はしていなかった。ところがどうだこの有様は。
 抱けば抱くほどに馴染んで手離し難くなる肉体は、その距離感がゲンスルーの錯覚でない証拠にいつだって喜びの声を上げている。たまにそれが腹立たしくなり、徹底的に酷くして壊してしまおうという気になるときもあるのだが、結局快楽に溺れる姿を見せつけられ……その姿に魅入ってしまうのだ。
 まったく。これではどちらが奉仕しているのか怪しいものだな。
 自嘲するものの不快ではない。実のところ、イレギュラーな女より問題なのは自分側かもしれないと薄々考えていた。そもそも、悪名高い爆弾魔らしくないこの状態が嫌でないということがおかしい。あげく、そんな自分たちを認めてしまっているなんて。この女はいったいどこまで自覚しているのだろうか。天下の爆弾魔を相手に素でやっているというのなら心底たちが悪い。



 放出後の倦怠感に身を委ねながら何の気なしになまえの肌を撫でていたゲンスルーは、満たされた性欲の代わりにある欲求を覚えて身を起こした。

「やん、どうしたの?」
「……すぐに戻る」

 ところが、立ち上がってバスルームから出ようするゲンスルーを邪魔する様になまえが動いた。両手を伸ばし、そのまま抱きついて勢い任せに腰を落とそうとする。滑りやすい床では踏ん張ることもできないと早々にゲンスルーが折れたこともあり、難なく形勢逆転となった。
 ゲンスルーの身体に馬乗りになった彼女は、ぎゅっと抱きついたまま男の腰に顔を寄せてもごもごと唇を動かした。

「行っちゃ、やだー」
「おいどうした突然。すぐに戻ってくると言ってるだろうが」

 滅多に無いような甘えたな反応に一瞬ぱちくりと瞬いたゲンスルーだが、すぐにいいからどけと声を荒げる。その声に含まれるのは幾らかの焦りだったが、なまえに引く様子は見られない。

「そんなに慌てて、どこ行こうって言うんですかー? ……あ、ひょっとして……さっきからやけに水飲んでたし?」

 にやりと笑うなまえを睨みつけようとするゲンスルーだったが、どうせ睨んだところでこの女はちっとも堪えないだろうと思い直し溜息で答えることにする。
 あーそうだ。小便だ。だからさっさとそこを退きやがれ。
 けれどもなまえが動く素振りはやはりない。苛々とはしたものの、さすがに浅くはない付き合いだ。ほどなくして女の狙いに見当がつく。こいつひょっとして、俺が懇願する姿でも見ようっていう魂胆か。

「……おいコラ。いい加減にしろ。此処で出しちまってもいいのか? んー?」

 だったら甘い。最悪ここでしてしまっても俺にダメージはないからな。
 むしろそうなったらどうだ。逆に慌てふためいて泣きを見るのはお前の方だろう、なまえ。
 その手には乗るかと反撃のつもりで意地悪く問いかけたゲンスルーは、直後に返される彼女の反応に今度こそ言葉を失くすことになるなど露程にも想像していなかった。


  ***


「……ったく、後で泣いても知らねぇからな」

 決壊間近の膀胱を気力で抑え込みながら、だらんと垂れ下がったままのソレを手に取る。ぺたりと座るなまえの顔にぺちんと押し当てて言い放てば、高揚した頬のなまえはなにも答えない代わりにそっと先端へと唇を寄せた。

「こらっ! ……クソッ……この変態が!」

 いっそ本当に泣かしてやろうかこの女。湧き上がってきた加虐心のままにゲンスルーは"たが"を外した。するとまもなく解放の瞬間がやってくる。柔らかくなった竿の先から迸る液体がなまえの咥内に吸い込まれていく。こくりこくりと嚥下を試みるも絶え間なく放出される水量には間に合わないようで、みるみる溢れた液体は彼女の下顎を濡らし身体へと流れ落ちていく。
 むわっとした独特のアンモニア臭が広がり、ゲンスルーは微かに眉を顰めた。
 一瞬、全裸で何をやっているんだと冷静になりそうになるが……この場で現実を直視したところで虚しくなるだけだと無理やり思考を矯正する。そして、それよりもと目の前の女へと意識を集中させた。
 苦しそうに咳き込みながらもなまえとしてはまだ足りないらしい。懸命に手を伸ばし男根を掴むと、今度は自分から全身に液体がかかるようにと誘導を始めているのだから驚きだ。
 首筋へ、胸へ、わき腹へ、腹へ、股間へ……じょぼじょぼという水音に合わせて飛沫が飛び散る度に、なまえの身体は切なそうに震える。

 男の尿を浴びながら恍惚とする女など、そうそう見られるものでもない。見たいとも思わない。けれどその悪趣味極まりない光景を見続けるうち、ゲンスルーの口角は不思議と上がっていくのだった。

「おいおい……まさか本当にこんなのが気持ちいいとはなぁ」

 溜まったものを出し終えた柔らかなそれを振れば、当然のようになまえが口を寄せてくる。尿道に残った最後の一滴まで絞り尽くそうとするように貪欲に動く舌を感じながら、興が乗ったままのゲンスルーは今度は言葉を使ってなまえを弄ることにする。

「お前を狙ってる奴らだって結構いるってのに、可哀想になぁ。あいつらがお前のことを何て言ってるか、知ってるか? 憧れの『守って虐めたい』女が、実は男に小便かけられて喜ぶような便所だなんて、奴らが知ったら泣くぞ? ああ、それとも、遠慮はいらないとばかりに寄って集って犯しにかかるかもしれないなぁ」

 わざと羞恥を煽るように下劣な言葉で嬲る。息をするように簡単に口を出て行く言葉たちだったが、それをきっかけにしてどうしようもなく下半身に血が集まり始めたことは自覚しないわけにはいかない。
 複数の男たちにいいように犯され辱められるなまえ……自分で言った情景を想像して反応したとは格好が付かないが、このタイミングなら舐められての反応と見えるだろうか。などと考えながら、勃ち上がりだした自身に懸命に舌を這わす女の顎をしゃくり、その身体を押し倒し──その動きをぴたりと止めた。

 そして数秒後。何事も無かったかのように立ち上がり壁まで行くと、無言のままシャワーのレバーへと手を伸ばす。

「あれ、どうしたの。ゲンスルー? ってやだ、冷たいって……ひぃん、やぁ、今度は熱すぎっ、ていうか痛い!」

 少し離れたなまえにかけるために水圧を高めると、必然的に一滴一滴の刺激も強くなるわけで。ぎゃんぎゃん響く非難を聞き流してゲンスルーはシャワーを浴びせ続ける。

「……やっぱ俺、このプレイは無理だわ。小便臭ぇ女なんざぁ萎えて仕方ねぇって」

 呟きはシャワーの音に掻き消された。



「あーでも、わかるかも。私もとりあえず一回やってみたかっただけだし、もういいかなーって……いやー満足満足。さすがゲンスルーは何やらせても上手いよねぇ」
「おいコラ。『一回やってみたかった』ってなんだ。あんだけ人に恥かかせて随分軽いなぁこの口は」
「……い、痛いっ、痛いですって! でも、ちゃんとそこまで恥ずかしくない様にって考慮したんだから、少しくらいその気遣いは認めてくれてもいいと思うの!」
「……何がだ」
「ほら、濃縮のだと少量で臭いもきつくなるかなぁって。だから薄いのがいっぱい出る様に、水分をたっぷりとった状態での挑戦を──」
「そういえば今日はやたらに喉が……って、ちょっと待て。まさか何か盛ったのか」
「え……いや、やだなぁ。変な薬とかは使いませんって……。そ、その、ほんのちょーっと、隠し味程度で……やだ、痛い、痛いです! ちょ、ほっぺたちぎれるぅぅ……!」



(2014.06.10)