| ■ 僕らはいつだって正しく道を間違えている 奥から奥から溢れてくる蜜を器用な舌で掻き出し味わいながらも、メレオロンのてのひらは休みなくなまえの皮膚を味わい続けていた。直接的な愛撫のかたわらで、内股の付け根や膝の裏側などにはあくまでそっと。彼女の喜ぶポイントを的確に、けれども決して激しい快感に結びつかない程度に攻めていけば蜜も声も続きをねだって甘さを増す。 綯い交ぜになった快感は、なまえをよりいっそうの高みへと連れて行くようで。目隠しの下でどんな表情をしているのかと予想するだけでメレオロンの興奮も増していく。 舌を這わせながら、人とは異なる可動域を持つ目をくるりと動かす。ちらりと視界の端に見えるやや横に流れた谷間の奥で浮き上がっている鎖骨が堪らない、と感じた瞬間もう尻尾が動いていた。柔らかい肌と硬い骨が生む華奢なくぼみ。そこから首筋にかけてを細く硬い尻尾の先でゆっくりと撫でると、戸惑うような呼吸の後にまた一段と愛らしい反応が確認できた。 思えば、この尾でこんなふうに彼女に触れるのは初めてではないだろうか。トカゲの尾を好む女が多いとは到底思えないが、少なくともなまえに限っては拒む様子は見られない。むしろどう見ても──尾だと気付いた上でノリノリで身をくねらせる女体にメレオロンの悪戯心がむくりと首をもたげた。 二の腕や脇あたりをくるりと動かした尾で揺すり、仕上げにゆっくりと首筋を撫でる。そのままするすると滑らせて顎を越えて口元まで。先ほどから熱い吐息を漏らし続けている唇に狙いを定めて先端でくすぐれば、それだけで意図は伝わったらしい。ふっと笑ったなまえは顔の角度を僅かに変え、そのまま柔らかな唇で尾に触れた。啄むような口づけに加え、おまけとばかりに控えめな舌先がちらりと出され、ひと舐めふた舐めしたあと絡みついてきた。 途端に、言いようのない興奮がメレオロンの身体を貫いた。 衝動に急かされるようにするすると尾を口内に送り込んでみれば、臆することないなまえの舌が巻きついてくる。まるで、あの行為……いつものようにこの太い指を……いや、もっと露骨に言えば、つまり指ですら擬似的な行為であるからつまりそういう連想になってしまうわけで。ともかく、口いっぱいに頬張ったり舌で擦られていると、実のところそれほど敏感ではないはずの尾がまるで性感帯であるかのように思えてしまう。 期待以上に蠱惑的な状況にさらされ、心臓は取り繕えないほどに跳ねまわり、押しだされた熱い血液が身体中を駆け巡っていく。そしてその熱く滾る"青い血液"の終着点では、彼女の口内を犯している尾にすら嫉妬する勢いで本物の男性器が待ちきれないと悲鳴を上げている。 すでに充分過ぎるほどに蕩けきっている膣壁から、最後にめいいっぱい押し広げるように太く長い舌を抜けばなまえの背がぴんと張った。尾を頬張る唇からは濁った声しか漏れ出なかったが、ぱっくりと開いた穴はひくひくと蜜を垂らして別れを惜しんでくれていた。 メレオロンの目の前に居るのは、ケラケラと笑う姿が似合う昼間の彼女が嘘のように、淫靡で、貪欲で、そしてとても甘い匂いと味のする美しい女だ。けれどもわかっている。この美しい女は紛れもなくなまえなのだ。メレオロンの大切な、大切な、宝物のような人間なのだ。 だからこそ何度も何度も、際限なく湧き上がって来る身勝手な欲望をギリギリの極限で耐えてきた。 組み敷きたい、突き立てたい、貪りたいという、身を任せてしまったが最後そのまま理性を焼き切って彼女を襲う凶器に変わるだろう激情を必死で締め殺してきたのだ。 けれども、辛うじて保っていたその一線をいよいよ越える時が来た。傷付ける恐怖がないわけではない。傷付く不安もないわけではない。それでも、いざこうして対峙してみればついにという喜びの方が大きく、ついでに言えば隠しきれない支配欲にオスとしての業の深さも自覚させられる。 「……いくぜ?」 痛いほどに熱く脈打っている塊をなまえに押し当てる。いいか、と了承を求める余裕はすでになかった。見た目通りの爬虫類の生殖器、つまりトカゲ類の半陰茎のように下腹部から突き出るソレは、けれどもよく見れば完全な半陰茎ではなく哺乳類の陰茎によく似ている。なにより、びくりびくりと震えて挿入の時を待ち焦がれるソレの先端にある小さな穴からは、てらてらと先走りの雫が染み出していた。爬虫類の性器には当然ながらそんな穴も機能もない。けれど人型であると分類するには、陰嚢を持たない股間はなんともいびつだ。 この身体を生み出したキメラ=アントの生存本能は、交尾の相手を元の"蟻"とも"カメレオン"とも想定しなかったようだと何度自嘲しただろう。もっとも、この体躯で生まれ落ちた時点でまともでないことは自明の理であるのだが。 けれども、どこにも居場所がない自分の性質を事実と諦めながらも、この醜いゆがみを彼女に晒すことはどうしても抵抗があった。実のところあらかたの情報は彼女の手に渡っているのだから、とっくに知られた内容ではあったのだが、それでもこうして特別な距離感で睦み合う時くらいは、己の異形さを隠していたかった。欲望の形を装って、こんなふうに彼女の視界を閉ざそうとするくらいには。 まずは、少し……っと。 息を詰めて、ぬるりとした肉を掻き分けて先端を埋めにかかる。念入りにほぐした甲斐あってか初めての異物をすんなりと迎え入れた秘所は、早くも先端だけでは物足りないとうねっていた。すぐさますべてを埋め込んでしまいたい衝動に駆られる。だが、その衝動はひとまずお預けだ。挿入の瞬間の──"こんな異物"を埋め込まれているにもかかわらずなまえがあげた歓喜に濡れた甘い声を聞いてしまったメレオロンには、それより先にやるべきことがあった。このままでいいかと誤魔化して、諦めていたはずのものが、どうしても必要だと気づいてしまったから。もっとも、決意してからも随分と先延ばしにしてきたから今更格好なんてつけられないのだけれど。 浅いところから動かさないまま静かに腕だけを伸ばす。正常位のこの体勢ならなまえの手首に触れるのも容易い。 「やんっ……って……え、いい、の?」 剥ぎ取った布を片手に掴んだまま、戸惑う唇に間髪入れず答えを注ぎ込む。 なまえの小さな舌が懸命に応え、自由を取り戻した二本の腕が今までの分を補うように強く巻き付いてくる。ふたりの距離はみるみる縮まり、汗ばんだ皮膚はぴったりと鱗に吸い付いた。求められているという実感に緑の身体を震わせて、尻尾の先まで幸福感に包まれながらメレオロンはやっとのこと腰を進めた。 とはいえ、絡み付かれるのは確かに嬉しく自尊心的にも大変に満たされるのだが、満足に動けないというのは困るところでもあった。ただでさえ欲しくて堪らなかった彼女の感触である。その上、正直なところ今の時点でもうすでに想像の数段増に気持ちがいい。 ゆるく動かしただけでもあっという間にもっていかれそうな感覚に、メレオロンの口から熱い息が漏れる。それはもちろん表情の方にもしっかり出ているのだが──未だ目隠しの取れないなまえからは見えるわけもないのでこの際置いておく。こっちも取らなくて正解だったなとどこまでも格好のつかない事を考えながら「すまねェが……」と頬に触れればくすりと吐息に続いて両手が離れた。 物分かりのいい彼女というよりもおそらく快楽への期待が多分を占めただろう彼女の胸をひと舐めし、いくぜと声をかける。いつもより幾分余裕のない声色になってしまったのは、つまりそういうことだ。 *** すぐにでも出してしまいたい欲求と、少しでも長く繋がっていたい欲求。相反する欲望は結局、より乱れるなまえをもっと深く、長く感じたいという一点に落とし所を見つける。 数えるまでもなく"蟻"となって初めての性交ではあるが、さすがに散々あの生殺しの日々を耐えてきただけあって予期せぬ暴発を避ける程度の余裕はあった。 とはいえメレオロンのひと突きひと突きに身をよじり甘く鳴くなまえの破壊力が予想以上に凄まじい。よほど気に入ったらしく自発的にメレオロンの尾を含みなおしてからの声はまた低く聞き取りにくいものになってしまったけれど、それはそれで腰にくる。濡れた唇が美味しそうに頬張るのは自分の尻尾で、きゅんきゅんと締め付ける愛らしい穴が食いつくのは自分の性器。さらに加えて、未だ取られることのない瞼の布が彼女自身の興奮も高めているのだとそっと恥ずかしそうに告白されてしまえばもう──あまりの魔性に眩暈を覚えずにはいられない。 メレオロンの舌先に身を任せていた時の印象そのままに、いや、それ以上に、身体を繋げて知ったなまえの姿は魅力的で新鮮だった。 そんなこんなで濃密な交わりを堪能し、いよいよラストスパートだというところまでくるとメレオロンの心境にも幾らかの変化が生じていた。つまり、乱れる彼女を前に興奮してみせる裏側で、この後に及んでまだひっそりと燻っていた罪悪感や劣等感をようやく昇華できる流れになっていた。 溶け合いながらも、いや、溶け合うからこそ思わずにはいられない。視界も両腕の自由も簡単に差し出して、異形の性器をその身体に深く受け入れて、まだ足りないとばかりに求めてくれる愛しい人。 彼女はこんなにも自分を望んでくれている。そしてこんなにも真っ直ぐにそれを伝えてくれている。それに引き換え自分と言えば、余裕のない顔が隠せてよかったなどと。身体を見られたくなかったなどと。逃げ道を用意した上で向き合う振りをして──この身のなんとみっともなく情けないことだろう。 不甲斐なさを悔やむ内に自然と噛みしめていた唇と寄せていた眉間を意図的に緩めながら、上半身の角度を変えてなまえの腕をさり気なく誘ってみる。可愛い恋人は期待通りの素直さで再び腕を回してくれるので、その額に軽いキスを落とし謝罪と感謝と愛情と──とにかく身の内のありったけの思いを不器用な言葉に込めて囁いた。 「わりぃ、もう、限界だ。だから……可愛い顔、見せてくれよ?」 なまえが何か言葉を返す前に、すかさず彼女の目にかかっている布に手を伸ばす。既に充分に緩んでいた布は軽く触れただけであっさりとほどけ、彼女はといえば突然開かれた視界の眩しさに目を細めた。けれども、さすがと言うべきか。すぐに焦点を合わせることに成功した瞳は、蕩けるような熱さでメレオロンに微笑みかけた。 それだけでまたぞくぞくとメレオロンの背には電撃が流れる。ほら、やっぱり。なにも、恐れる必要などなかった。 彼女の中に埋めたモノが、もはや一刻の猶予もないと主張する。間に合うように尻尾の先を引き抜けばすかさず「あっ……」と名残惜しそうな声を漏らすので、そんな欲張りな唇をすぐさまもっと"イイモノ"で封じてやった。 「ダメだ無理。つれェかも……けど、マジで、わりぃ」 唇を合わせながらでは、それだけ言うのがやっとだった。言葉を紡ぎながらも、僅かな隙間も作るものかとなまえの頭を片手で押さえ込むくらいには余裕がない。いつものようにねっとりと絡み合う甘さも与えられない性急な舌で、無我夢中のまま彼女の口内を犯す。 ここまで昂ぶってしまえば後は本能に忠実に、勝手に腰が動き始める。そしてその度に、背中にぴりりと痛みが走る。しかし困ったことにその痛みすら痛みと感じる端から甘く疼いてくれるので今のメレオロンには興奮材料にしかならないのだ。 ぎゅうぎゅう絡みつくなまえの膣内は勿論のこと、鼻腔を擽る匂いも、背に受ける爪の痛みも。 必死に酸素を求めて喘ごうとする唇も、舌も、唾液も。 触れ合うところも、触れていないところも。 なまえの全てが、とにかく甘くて、堪らない。 いっそ暴力的と評したくなるほどの甘さでもって、なまえがメレオロンを侵していく。出したい。この身体の一番奥に、出したい。放ちたい。それしか、もう、考えられない── *** 覆い被さってぜぇはぁと荒い息を繰り返す段になってようやく理性を取り戻したメレオロンは、それはそれは慌てていた。放出の余韻に加えて最後にはしゃぎ過ぎたため、身体は重いし心臓は早鐘のようだし、正直このまま何も考えずに倒れてしまいたい。 けれども背に感じる痛みがそれを許さなかった。傷自体は問題ではない。浅い傷なんかよりずっと問題なのは、こんなに爪を立てさせてしまった彼女のことだ。 「あのな……その…なまえ……?」 終わるなり毛布にくるまってしまったなまえを恐る恐る覗き込む。 「……なあ、なまえ…さん……?」 おろおろと名を呼んでいると、ちらりと布が開かれて隙間から顔が覗いた。 小さく結ばれた口元が気になるものの少なくとも嫌悪感や涙の気配がないことにまずはホッと胸をなでおろす。情けないと言われればそれまでだが、メレオロンにとっては大問題なのだ。 そんなメレオロンからひょいと視線を反らせたなまえはなんとそのままもぞもぞ近寄り、メレオロンの胸にとんと額をくっつけた。一体どうしたのだと見守る視線を感じているのだろうか。やがて押し当てられた頭越しに小さな声がこぼれてくる。 「……癖になっちゃったら、どうしよう」 メレオロンのただでさえ大きな瞳が行き場を失いぐるぐると回り始めた。此の期に及んで、どういう意味かと問う程に愚鈍ではないつもりだ。そしてああ恥ずかしいとぐりぐり額を押し当ててくる彼女の毛布の間に見えた耳がやけに赤いような気がしたのも、見間違いではないだろう。 さすがに今からもう一回、なんて言っちゃあ……ダメだよなぁ……? ああもうこいつ、と声にならない雄叫びをせめて胸の中では思いっきりあげながら、毛布ごと彼女を抱きしめる。温かくて柔らかくて健気でともすれば簡単に折れてしまいそうなオレの花は、実は見た目より数段たくましく根付いて咲き誇る花だったと今日もまた惚れなおしてしまった。 (2015.01.04)(タイトル:亡霊)(完全なヘミペニスにするか数日間迷みました) |