1.適合試験
数十年前、突如世界に現れた生き物はあらゆる人智を超えていた。
建物、乗り物、動物、そして人間をも喰らう存在。世界の人口は100分の1にまで減少した。
その怪物たちが消えない限り、人々は安穏な生活に戻ることはできないだろう。
誰が呼んだのか、いつしか怪物はこう呼ばれるようになる。
荒ぶる神”アラガミ”と。
ゆったりとした椅子に座り、両手を机の上で組みながら金髪の男が思案に耽っているなか通信機から女性の声が聴こえてきた。
『支部長、照合中のデータベースから新型神機使いの適合候補者が見つかりました』
「そうか、名前はなんという」
机の上にある機械からデータベースにアクセスし、候補者を一瞥して眉を寄せた。
「レイン・アーヴェルクライン……アーヴェルクラインだと……?」
『支部長?』
「……いや、なんでもない。さっそく適合試験を受けてもらうことにしよう。ライナスもそこに呼んでくれ」
通信を切り、自然な仕草でまた指を組む。唇から薄い笑みが漏れた。
「ライナス、君が何を考えていようが私の計画は揺るがないだろう。絶対にな……」
真っ直ぐに正面を見据える目に笑みはなくーーその瞳は一点を見ているようで、どこも見ていなかった。
* * *
広い訓練場のような場所に足を踏み入れた私、レイン・アーヴェルクラインは弾痕や剣傷だらけの空間を見渡した。
ゴッドイーターの適合試験はパッチテストだと聞いていたのだが…これはどういうことだろう……。
中央には神機であろう剣を載せたプレス機に似た機械が鎮座している。
(これ絶対パッチテストじゃないよね!?)
『長く待たせてすまない』
これから何が行われるのか、若干の不安を持っていると、室内のスピーカーから男性の声が聴こえた。
私が上を見上げると、ガラスの向こうに人が三人しっかりと見える。真ん中に立っている男の左後ろに亜麻色の髪が見えた。
「……」
『さて、ようこそ。人類最後の砦フェンリルへ。今から対アラガミ討伐部隊ゴッドイーターの適正試験をはじめる』
ゴクリと唾を飲み込んで拳を握りしめる。
まるで緊張を読み取ったように、男がクスリと笑った。
『少しリラックスしたまえ、その方がいい結果が出やすい。……心の準備が出来たら、中央のケースの前に立ってくれ』
息を吐いて、ゆっくりと吸う。
何回かそれを繰り返すだけで少しは楽になる。
ケースの前まで進み、右手首を出した。
(こうなったら、もうどうにでもなれ!)
次の瞬間、プレス機に似た機械が上から閉じ、手首から腕・体にかけて激痛が襲った。
「うっ、あああああああっ!?」
閉じていた機械が開き、手首に腕輪が嵌っているのが分かる。
「はあっ……はっ……」
(試験、合格……?)
のろのろと剣の柄を握り持ち上げると、剣とは思えない程の軽さに驚きながら剣を振った。
『おめでとう。君がこの支部初の新型ゴッドイーターだ』
どうやら無事に適正試験は合格したらしい。
ガラスの向こうを見ると、亜麻色の髪がほっとしたように揺れていた。
「……」
『適正試験はこれで終了だ。次は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまでその扉の向こうの部屋で待機してくれたまえ。気分が悪いなどの症状がある場合はすぐに申し出るように。……期待しているよ』
緊張から解放されたように胸を撫でおろして、神機を元に置く。
先程の痛みが嘘のようになくなり、新しく嵌った腕輪を一瞥してから、ガラスの向こうを見ないように背を向けて、奥にある扉を開けた。
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