2.おかえり



 待機しろと言われた所に行くと、一人の少年が椅子に座っているのが見えた。

「隣、いい?」

「いいぜー。ねぇ、ガム食べる? あ、切れてた。今食べてるのが最後だったみたいだ、ごめんごめん」

「あはは、いいよ別に。私の名前はレイン・アーヴェルクライン。君の名前は?」

「オレは藤木コウタ。あんたも適合者なの? オレより少し年上っぽいけど……まあ、一瞬とはいえオレの方が先輩ってことで! よろしく!」

「うん、こちらこそよろしくね」

 なかなか面白い子だ、ぽんぽんと自分から喋っていて飽きさせない。
 そんなことを考えていると、カツン、とヒールの音がした。

 目の前には黒髪の美しいスタイルの女性。

(び、美人……)

「立て」

 綺麗なプロポーションに気を取られていると、鋭い声が発せられる。
 急いで立つが、コウタはまだボケッとしていた。

「そこ、立てと言っている! 立たんか!」

 やっと状況が読めたのか、コウタが慌てたようにビシっと立ち上がる。

「これから予定が詰まっているので簡潔にすますぞ。私の名前は雨宮ツバキ、お前達の教練担当者だ。この後の予定はメディカルチェックをすませた後、基礎体力の強化、基本戦術の習得、各種兵装の扱いなどのカリキュラムをこなしてもらう」

 カリキュラム……。このハキハキとした言い方でツバキ教官の指導は絶対厳しいだろうな、なんて遠い目をしてしまう。

「今まで守られる側だったかもしれんが、これからは守る側だ。つまらないことで死にたくなければ、私の命令には全てYESで答えろ、いいな? ……わかったら返事しろ!」

「はい!」
「は、はい!」

「さっそくメディカルチェックを始めるぞ。まずはレイン、お前だ。ペイラー・榊博士の部屋に一五○○までに集まるように。それまで、この施設を見回っておけ。今日からお前らが世話になるフェンリル極東支部、通称アナグラだ。メンバーに挨拶の一つもしておくように」

 ツバキ教官に一礼してドアへ急ぐ。
 教官からは見えない位置で振り返り、コウタにまたね、と手を振った。


 * * *


「守られる側、か……。ホントそうよなぁ」

 アナグラを見回り数人に挨拶しながら、ツバキ教官の瞳を思い出す。

「強くならなきゃ、いけないんだよね」

 この世界で生き残るためには、今度は自分が守る側に回らなければいけない。


 ほわほわしたピンク色の髪の女の子に挨拶して、医務室らしい部屋を見て回る。
 この場所で唯一の知り合いを探していると、奥の部屋から亜麻色の髪がちらりと見えた。

「ライナス!!」

 声に気がついたのか、奥から一人の男性が現れて私とバッチリ目が合った。

「レイン」

 ここでばったり会うとは思っていなかったのか、珍しく驚いている。

「久しぶり、ライナス」

「レイン!」

「さっきライナスも見ていたと思うけど、神機使いになれました!」

 ここ、フェンリル極東支部の医療部門トップであるライナスは私の親戚であり、両親のいない私を引き取ってくれた人でもある。

「……おかえり、レイン」

「ライナス?」

 ライナスが今にも泣きそうな顔で私を抱きしめた。壊れものを扱うかのような優しい抱擁なのに、縋り付くような必死さを感じる。

「ごめん、なんだが久しぶりのレインに感激してしまって」

「……まったく、おおきな大人がなに泣きそうになっているの。たった半年しかあってないだけなのに」

「ああ、そうだね。そうか、半年か……もう、大丈夫かい?」

「…………うん、大丈夫だよ」

 顔を見られないようにライナスの白衣に顔をうずめる。

 半年振りに感じる、薬品漬けのライナスの匂いを、私はたっぷりと味わった。


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