54.黒き帝王



 黒いアラガミと遭遇してから数日、手がかりを探していても中々くだんのアラガミは見つけられずにいた。
 その間にも外部居住区にアラガミの襲撃があり、コウタとグレイが討伐に駆けつけて居住区を守る装甲を強化するためのコアを集めていたり、私は支部長の特務に駆り出されたとアナグラ内は忙しなかった。

 そして、いつ黒いアラガミと戦うことになってもいいようにリッカに神機の調整をしてもらっていた日、ツバキさんが第一部隊のメンバーを招集してあのアラガミを見つけたと告げた。

 討伐に向かうのは私とソーマ、サクヤさんとアリサとグレイ。

 アナグラに残るコウタに生きて帰ってくると約束をして、私達は旧市街地へと向かった。

「…………」

 出撃ポイントに集まったみんなが黙って空を見上げる。不思議と恐れや不安はなくて、やっとここまできたと小さく呟いた。

「……みんなのこと絶対に死なせないから。みんなも私のことよろしくね」

 私の言葉にソーマがふっと笑う。

「ああ、おまえは目を離すとすぐに無茶しやがるからな」

「後衛は心配しないで、貴女は前を見ているだけでいいわ」

「全力で貴女をフォローします」

「絶対に生き残ろうな」

 みんなと頷きあってハイタッチをする。それが出撃の合図で、神機を片手に旧市街地に降り立った。

 今回の任務は黒いアラガミのほかにマータもいる。戦闘が長引けば長引くほどこちらが不利になるのが目に見えているから、二匹が合流する前に先にマータを倒さなければいけない。

「さあ、行くよ!!」

 駆け出した先に、氷を纏ったプリティヴィ・マータを見つける。すかさず剣から銃形態に替え、炎のバレットを撃ち放った。


 * * *


「はあ……はあ……まだ、奴はこっちに気づいていない?」

 マータの死骸を眼前に息を吐く。
 遠くを見ていたソーマが頷くのを見て、ひょいと剣を肩に担いた。

「よし、次いってみよう!」

 なんとか数分でマータを倒せることに成功した。あとは本命だけ。

「みんな回復アイテムはまだ余裕あるよね!?」

「まだ使っていません!」

「サクヤさんとアリサの回復弾で乗りきったからな!」

「OK、出だしは順調っ、この勢いで行くよ!!」

 走りながら遠くにいる黒いアラガミの背中を見つける。
 優雅に捕食しているその姿はまるで黒き帝王のようで、こちらに気づかれるより前に飛び上がって捕食形態を取る。

「おりゃ!」

 私に気がついた黒いアラガミ、ディアウス・ピターが咆哮を上げる。すかさずソーマ達が後ろで捕食して、囮の私がピターの目の前に降り立つ。

「はっ!」

 前足を狙って斬りかかるが、ヴァジュラと違ってかなり硬い。しかも足を狙っていると気づいてピターが跳躍した。

「くっ、まずは足と思ったけど直ぐには無理そう。サクヤさん! 尻尾お願いします!」

「分かったわ!!」

「グレイは私と足でソーマは頭! アリサはみんなの援護お願い!」

『了解!!』

 市街地を駆け回るピターを追いかける。
 中々止まらないピターをアリサが銃で気をそらせ、ソーマが横合いから顔をバスターで抉る。止まったピターの前足を私がショートで貫き、後ろ足をグレイが斬りつければ煩わしそうにアラガミが吼えた。

「放電がくるぞ!」

 ソーマの声にピターの周りからバチリと音がする。すかさずステップで回避すると、周囲に稲妻がはしった。
 周囲に散った私達を嘲笑うようにピターがランダムに飛びかかってくる。

(攻撃範囲が広いうえに、飛び跳ねまくって無駄に走り回らなくちゃいけなくなる!)

 しかもそれで銃で後方から攻撃していると獲物を見つけたように突進してくる始末だ。

(これは付かず離れずに、剣で攻撃してオラクルを貯めたほうがいいかもしれない)

 カスタムして用意していたバレットの中から一番攻撃力の高いものに変える。オラクルの消費は激しいが当たればかなりの破壊力を発揮するはずだ。

 こちらに狙いをすませたピターの攻撃をかわして足を斬る。斬っては離れを繰り返していると、ピターの尻尾が結合崩壊して苛だたしそうに前足を上げた。

「次、くるよ!」

 ピターの周りに今度は丸い雷の玉が集まる。玉が放たれた隙に後ろに回り込んで捕食をして、結合崩壊した脆い尻尾を斬りつけると、バチバチとあたりに赤い光のようなものがはしった。

「レイン! なにかおかしいぞ!!」

ソーマの声に反射的に後退すると、ディアウス・ピターが活性化した。

「なに、これ!?」

 アリサが目を見開いてピターを凝視する。

「あれは翼か!!」

 グレイの視線の先、ディアウス・ピターの背に禍々しい黒い翼がその両翼を大きく広げた。
 赤黒い雷光を纏いながらピターが旋回する。そして旋回したその先にアリサを見つけて翼が鎌のように伸びた。

「きゃあっ!!」

「アリサ!!」

 翼に叩かれてアリサが後ろに吹っ飛ぶ。
 グレイが助けにいこうとするが、それを邪魔するようにピターの両翼がグレイに切りかかった。

「くそっ、なんなんだこの翼は!!」

 装甲でなんとか防御したグレイが舌打ちする。

「サクヤさん、翼に銃は!?」

「ダメ! 硬すぎて攻撃が通らないわ!!」

「くっ、ならどこを狙えば!!」

「定石通りに頭と足を狙うぞ! こいつは大振りの攻撃をした後に少しだけ隙が出来た。そこを狙う」

 ソーマの言葉通りに、左右の翼で挟み込むように突進してくるピターを避けると、少しだけ隙が出来た。直ぐに捕食をして足を斬ってまた離れる。

(これは無茶したら死ぬかも!)

 翼の出現でピターの連続攻撃が圧倒的に増えてきた。無理に押し通ろうと突っ込んだりしたら絶対にヤバイ。

「みんな、回避優先に! アリサ、グレイ、バーストが切れないように受け渡しお願い!!」

 ピターから距離を取った場所で剣から銃に切り替える。銃口を足に向けて引き金を引いた。

「いけっ!!」

 サクヤさんに飛びかかろうとしていたピターの前足に爆発弾が命中する。巨体がよろめくのを見て続けざまにアラガミバレットを発射した。

(効いてる!)

 前足が結合崩壊してピターが唸り声を上げた。憎らしそうにこちらを見る黒い目と視線が合う。

 ピターの攻撃対象が私に変わったその瞬時、ソーマのチャージクラッシュがアラガミの頭を撃つ。

「そのまま行け、ソーマ!」

 グレイの受け渡し弾で最大バースト状態になっていたソーマがピターを翻弄していく。

「レイン、受け取ってください!」

 アリサの受け渡し弾で力が溢れてくる。
 赤い玉の雨を避けながらピターに迫り、天下高く跳躍して剣を脳天に突き刺す。

 咆哮を上げるピターがまた活性化しそうになる。

「させるかよっ!」

 グレイがスタングレネードを投げて活性化を防ぐ。

 後方のサクヤさんとアリサが銃撃の手を緩めず、ソーマが真正面からの攻撃をかわしてグレイが後ろ足を結合崩壊させた。

 一瞬よろめいたディアウス・ピターが捕食をするために逃げて行く。

「逃すか!」

 ソーマを先頭にピター追うと向かった先は教会跡、あのリンドウさんと別れた場所だった。

 こちらを見据えて待っていたディアウス・ピターが吼える。

「みんな畳み掛けるよ!!」

 全員で頭を狙って攻撃する。
 活性化したピターの翼に逃げながら、赤い攻撃の間を縫うように走って横一閃に斬る。

 旋回しようとするピターをサクヤさんが銃撃で足止めし、アリサとグレイが交差するように斬りつけた。

「レイン!!」

「ソーマ!!」

 ソーマと視線を合わせて頷く。
 互いに反対方向から走り出し、同時に地を蹴った。

「「はああああああっ!!!」」

 剣を振り上げてまっすぐ一直線に下ろす。

 私とソーマの渾身の一撃がディアウス・ピターの頭を砕いた。


「はあ……っ……はっ………」

 アラガミの最後の断末魔を聞きながら、荒い息を吐く。
 倒れ伏したディアウス・ピターを見つめて、サクヤさんとアリサが前に出る。

 リンドウさんがどうなったのか、唯一の手がかりを知るアラガミの骸から腕輪と神機が出てきた。

「……アタリ、です……」

「こっちもよ……これは、あの人の……ああ、リンドウ……」

 見慣れた神機と、腕輪。
 腕輪を胸に抱きしめて泣き崩れるサクヤさんに誰も何も言えない。

「……リンドウさん……」

 やっと見つけた、見つけてしまった。
 リンドウさんがもう私達の前に帰ってくることはないという事実を。
 信じたくなかった、どこかで私はリンドウさんがひょっこりと戻ってくるんじゃないかと期待していた。

 仇をとったはずなのに、胸の痛みが無くならない。
 胸にぽっかりとあいた穴は埋まることはなかった。


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