02.苛烈な銀の刃



 カツカツとヒールがアスファルトの上を通る音が鳴る。
夜が始まる時間帯、スクランブル交差点で人々が各々のスピードで歩く中、一人の金髪の女がスマホに耳に当てた。

 サングラス越しに青い信号を見て、横断歩道を歩く。数秒呼び出し音が鳴った後、男が電話に出た。

『もしもし』

「もしもし、バーボン。今いい?」

『ええ、大丈夫ですよ。貴女からの連絡を待っていました』

「貴方に依頼された件だけど。赤井秀一が死んでいないのなら、来葉峠でキールに撃たれた死体がいったい誰なのか、という謎に当たるわよね」

『はい。僕はあれにはなにかトリックがあると思っています』

「渡された資料には、死体の指紋と赤井が触ったとされる携帯電話の指紋が一致していたそうだけど、そこらへんのトリックの解明は貴方に任せるわ。私はその死体が別人だった場合、誰なのかを調べたの」

 横断歩道を渡り終わり、人波に紛れ込む。電話先の男が小さく息を飲む音がした。

「楠田陸道」

『楠田、陸道?』

「ええ、キール奪還の際に組織が送り込んだ人物。彼の計画が失敗して、ジン達による奪還作戦が決行されたけれど、楠田陸道は未だ行方不明」

『行方不明……』

「もしも、楠田陸道が死んでいたとしたら? そしてその遺体をFBIあたりが利用しようとしたら、あの赤井の死体は……」

『楠田陸道の可能性がある』

「そういうこと」

 くすりと笑って一度足を止める。電話口のバーボンが嬉しそうに笑う声がした。

『ミスティ、貴女に頼んで良かった』

「そう、良かったわ。後は探偵さんの出番ね」

『はい、楠田陸道についてFBIに探りをいれてみます』

「頑張ってね」

『ええ。それではさっそく僕は動きますので、朗報を待っていてください』

 返事をする前に通話が切れる。
 それほど赤井生存の可能性が高まったことが嬉しいのか、血気盛んである。赤井のこととなると相変わらず周りが見えなくなるバーボンに苦笑するしかない。

「……さて、こっちはひとまず終わったとして」

 止めていた足を再び進めてとあるバーの前に立つ。
 ドアを開けると、薄暗い照明の中カウンターの隅に黒づくめのシルエットが目についた。

「おまたせ、ジン」

「……ああ」

 グラス片手に銀髪の男の目がこちらに向く。
 隣に座っていたジンの相棒のウォッカが隣の席にずれたので二人の間に座る。サングラスを取ると、先にジンが頼んでいたのか酒のミスティの入ったグラスが目の前に置かれた。

「で、どうして私を呼んだの? なにか依頼?」

「……最近、バーボンとつるんでいるらしいじゃねぇか」

「あら、耳が早いのね」

 グラスを手にすると、大きく酒が揺れる。ゆっくりと口をつけると、ジンが面白くなさそうに鼻白んだ。

「ふん、気にくわねぇな」

「どうして?」

「秘密主義の男は信用ならん」

「兄貴はアンタを気に入ってるから、バーボンが気にくわないんだよ」

 組織の中でも一二を争う過激なジンに気に入られているとは、ミスティは目を丸くしてジンの鋭い瞳を見る。

「そもそも、アイリッシュの奴が死んだ時にジンの兄貴が誘ったじゃねぇか。でもアンタはそれを断った。そりゃあ気になるもんさ」

「ウォッカ」

 ジンに睨まれてウォッカが謝る。
 ミスティは当初組織でも幹部クラスであったアイリッシュという男に雇われた情報屋だった。そこから組織に能力を認められてコードネームまで与えられるまでの存在になった。
 だが東都タワーでアイリッシュが亡くなった時、彼と反目し合っていたジンからミスティの能力を認めて自分の元にこないかと誘われたのだ。

「別にジンの元にいるのが嫌なわけじゃないわ、情報を扱う身として自由に動ける方が楽なの」

「だ、そうですぜ兄貴」

「ふん……」

「今はバーボンの手助けをしているけど、何かあったらいつでも連絡して。協力するから」

 そう言うとジンが黙り込む。この反応は機嫌を悪くしたわけではないと分かって内心ミスティはホッとした。ジンに目をつけられればひとたまりもないということは、来葉峠や今までの彼の動きでいかに苛烈かを知っている。

 なるべく彼の目にとどまらぬように十分注意しなければ、とミスティはグラスを傾けて一人思ったのだった。

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