にんげんににゃりまして
「...ここ、どこにゃ......?」
目を開けるとそこはわずかな明かりがともる薄暗い広い倉庫のような場所
首には首輪が付けられ近くの柱に繋がっていた
痛む頭に気を取られながらも先ほどまでの事を思い出す
そうだ、確か足音がして様子を見るために顔を出したら知らない男に殴られたんだ
確か私の事300万って、どういう事?
そこまで考えた時だった
コツッ
「起きましたか」
「え?あにゃたはっ」
足音とともに声をかけられそちらを向く
そこには、あの新人の女性補助監督が立っていた
「なんであにゃたがここに」
「そんなの決まっているじゃないですか、貴女を攫うように指示したのは私です」
どういう事?この人とはかかわりはないはず...
ということは悟くん関係だろうか、前に敵が多く自身に懸賞金がかけられていた事もあったことから気を付けるように言われたことがある、私は人質か何かだろうか?
「...目的はにゃんですか、人質として攫うにはいささか乱暴ですにゃね」
「人質...?あぁ、違いますよ、私の目的は貴女です」
「私?」
「えぇ、私は五条家にゆかりのある雨宮家の者なのですが、昔、五条家主催の茶会に参加した事がありまして、その際ご挨拶をしたあの方に私は一目で惹かれました...」
そう言いながら補助監督、雨宮さんは立てかけてあった鉄パイプをつかむ
「その後私は五条家に選ばれあの方の婚約者になれた...なのに...」
そして、その鉄パイプを私にの足に向かって強く振り下ろしてきた
ガンっ
「にゃあ゛っ!」
「あなたさえ!あなたさえいなければ、そうすれば悟様の隣にいたのは私だった!!」
ガンッガンッ、ガッ、ガンッッ!
「あ゛ぁ!」
「はぁ...はぁ...だから、私は決めたんです、通常なら呪術師の貴女を消すことは私にはできない、でも呪力も使えなくなれば話は別」
雨宮さんは一度落ち着くと目の前にしゃがんでくる
「本当は猫になったときすぐに貴女を回収する予定でした、でも悟様が現場に来てしまった...だから探したんですよ?対象の居場所がわかる術式を持つ人間を、そしてあなたが離れたところを攫ってくるようにお願いしたんです」
カランッ
雨宮さんが鉄パイプを投げ捨てる、そして後ろ手に取りだしたのは
ハンティングナイフだった
「すぐには殺しません、たくさんたくさんたくさんたくさん痛い思いをしてくださいね、私が苦しかったその分の痛みを感じてください、そして私に殺されてください、そうしたら許してあげます、だってあなたがいなくなればまた私が悟様の婚約者になれるでしょう?」
狂っている...雨宮さんの目はもう正常の人のそれではなかった...
ただ逃げたくとも殴られたせいか頭はうまく回らず、後ろ足も両方とも鉄パイプで殴られ恐らく折れている、とても逃げられる状態ではない
助けを呼ぶすべもなくまさに万事休す、私にできることは何もなかった
「まずはその右の前足を出してくださいね?」
無理やり手を押さえつけられる、暴れるが今は猫、雨宮さんでも私を押さえつけることは容易だった
「じゃあいきますよ?」
雨宮さんがナイフを大きく振り上げる、その時だった
バゴンッッッ!!!!
倉庫の扉が吹き飛び、男が一人扉とともに倉庫内に飛んできた
私を気絶させた男だ、その向こう、人影が見える
白と青を月の光で輝かせながら倉庫に入ってくる人物
五条悟 その人だった
「おまえ、なにしてんの」
「悟様?なぜここに!」
「そんなことはどうでもいいんだよ、なにしてんだって聞いてるんだ、確かお前写真を渡してきた補助監督だろ」
「...さと、るくん......」
私の声が聞こえたのか悟くんがこちらを見る、そして私の姿を目にした瞬間
悟くんの呪力が爆発した
「...ぶっ殺す」
「な、なぜですか悟様!なぜこんな女にそこまで!あなたの隣はわたしっ」
ガシャンッッ!
次の瞬間雨宮さんの体は横に飛び壁に叩きつけられた
その後を追い悟くんが雨宮さんに近づく
「にゃ...さとる、くん...ダメですにゃ...」
このままではダメだ、悟くんが感情のまま誰かを手にかけるのは
そう思い私は前足を必死に悟くんに向かって伸ばす
そんな私を見てなのかは分からない、でも悟くんは目に正気を戻し私のそばに駆け寄ってきた
「っ大丈夫、じゃないよね」
「大丈夫にゃ...それより雨宮さんとその男の人を」
「雨宮って...こいつの名前?...あぁ雨宮家の人間か、拘束だけしておいて伊地知に連絡するから心配しないで、お前はすぐに硝子のところに僕が連れていく」
名前を聞き悟くんは何か思うところがあるのか一瞬考えたが、すぐに顔をこちらに向けそう告げる
そして悟くんに連れられ高専へ飛んだ私は治療を受けている途中で意識が途切れた
―
「硝子、夢子は」
「安心しろ、怪我したところは全部直した、今は疲労で寝てるだけだよ」
「そうか...」
夢子が治療を受けている間に全部終わらせてきた
目が覚めた補助監督、雨宮 栞は全てを話した
そして今も自分のほうがいかに僕に相応しいかを繰り返し話し続けている
補助監督になったのも僕のそばに来ることと、夢子の排除のためだと証言した
本人は婚約者といったがあくまで候補、なので僕はその存在を認識していなかった
共にいた男は呪詛師と判明、呪物もこの男が用意したものらしい、当然死刑
だが雨宮 栞は雨宮家が古くから上層部と親密な家系ゆえ、不服だが精神病棟に行くことで落ち着いた
その代わり二度と出てくることができないように手をまわしておいたのでもう会うことはないだろう
「結局僕のせいだったんだな、猫になってしまったのも、今回の怪我も」
「後悔してるのか?この子をそばに置いたことを」
「...いや、反省はしている、守りが甘かったことをね、でも後悔はしていない」
だってこの子のいない生活なんて考えられない、どんな地獄へ行くことになっても絶対にはなさい覚悟を想いを伝えた時にしたのだ
この子はもしかしたら目を覚ましたら僕から離れたがるかもしれない、でもそんなこと僕が許さない
「...この子も厄介な男に捕まったものだ」
「ひどいな〜、この子に誰よりも一途で他に類をみないグッドルッキングガイだろ?」
「あぁ、一途で他に類をみないクズだな、だがまぁお前たちはそれで良いのかもしれないな」
「硝子のそういうところいいよね、それじゃこの子ってもう連れて行っていい?」
「いいが明日は無理させるなよ、治したが重症だったし夕方には元の姿に戻るんだろう?」
「分かってる、明日は僕もオフだからこの子に無理もさせないよ」
「なんだ、休みが取れたのか」
「伊地知にそうするように言っといた」
「彼も苦労するな」
硝子にため息をつかれる
いいじゃないか、こんな時ぐらい休まなきゃ僕絶対心配で暴走するよ
そう伊地知にいったら快く送り出してくれたからね
「それじゃ行くわ」
「ああ」
夢子を腕に抱え硝子に後ろ手に手を振りながらその場を後にする
―
チチチッ
「ん、朝か」
いつもの時間に目が覚める、隣には猫の姿でいまだ眠る夢子の姿
あの後家に帰ってきたが夢子は眠り続けている、心配になるが猫の体であれだけの怪我をしたのだから無理もないのかもしれない
しばらく顔を眺めていたがこの子が起きた時のため朝飯を用意したい
名残惜しく想いながらもその小さな顔にキスを落とし布団から出ることにした
―
ゆっくり目が覚める
周りを見渡すと見慣れた部屋、悟くんの家だった
体を起こし怪我を確認するも全て綺麗に治っている、あの後本当にすぐ硝子さんのところへ連れて行ってくれたのだろう
「にゃ、悟くんはどこにゃ?」
ベッドには悟くんの姿はなかった、お布団を触るも温かさはあまりなく出てから時間がたっていることが伺える
悟くんを探すため私は扉に近づきドアノブに飛び掛かり下げる
うまく扉が開いたので一旦リビングのほうへ移動する、するとソファに腰掛けマグカップを傾ける悟くんを見つけた
「起きた?おはよう、体はどう?」
「おはようございますにゃ、体はもう大丈夫ですにゃ、ありがとうございましたにゃ」
リビングに入る前から気が付いていたのだろう、すぐに声をかけられる
そのまま悟くんが座る横をとんとん叩かれたのでそこに私は飛び乗り座る
「ごめんね、今回の件は僕の注意不足だった」
「そんなことないにゃ、私も気を付けてって言われていたのに油断していたにゃ」
「...ねぇ、多分今後もこんなことが何回もあると思う」
急にそんなことを言い始める悟くんに不安になる、でも
「それでも、僕は君にはずっと一緒にいてほしい、今回はあんな写真なんかで動揺してごめん、もう二度と君を少しでも疑うことはしない、だから、どうか僕とずっと一緒にいてくれないか」
「!もちろんにゃ!私こそ悟くんの事をちゃんと信じなくてごめんなさいにゃ、私も今後たとえどんなことがあっても一緒にいたいですにゃ!」
「...ありがとう」
悟くんが腕を広げる、私はそこに躊躇なく飛び込んだ
「ねぇ、一つ提案があるんだけど」
「なんですかにゃ?」
「あのさ、僕たち一緒に暮らさない?この家で」
「にゃ?」
「ずっと同棲したいとは思ってたんだ、でも今回の事があってもっと君といる時間を増やしたくなった、朝目が覚めると君が隣にいるのが嬉しかった、それを猫の姿だけじゃなく本来の君と過ごしたい」
「...はいにゃ、私も悟くんとおはようも、おやすみも、ただいまも、おかえりも言いたいにゃ」
「!ありがとう!なら今日の夜にでも荷物を取りに行こうね♪」
「にゃにゃ!?今日ですかにゃ!?」
「あったりまえでしょ?思い立ったが吉日ってね!今日の夕方には体は戻ると思うからそのあと問題なかったら今日の着替えだけでもいいから取りに行こうね」
こうなった悟くんはもう止まらない、私は驚きながらもしょうがないなという気持ちで悟くんを見つめた
悟くんもこちらを優しく見てくる、いま人の姿じゃないのがとても惜しい
だってこんなにも悟くんとキスをしたいと思ってるのだから
―
「そろそろ時間だね」
「はいにゃ!」
あの後夕方になるまで久しぶりにゆっくりとした時間を過ごした
三日間だけの猫生活だったがいつもより濃い時間を過ごした気がする
あと少しで私が猫になった時間、その時を迎えたら私は人間に戻れるはずだ
ミャーミャー……ニャーニャー……ニャ–オニャ−オ……
「!猫の声!」
「僕には聞こえないけど呪いが反応してるね、戻る時にも聞こえるのか」
ニャーニャー…ミャオ…!ミー!ニャオミャオ!
声が大きくなる、大きくなるにつれ覚えのある感覚が体を襲う
ミャオ!ニャオ!ニャーミー!!
体が倒れる、遠くで悟くんが私を呼ぶ声を聴きながら私は気を失った
―
「ん...」
「目覚めた?」
耳元で声が聞こえる、私はハッと目を開け状況を確認する
「も、もどってます!!」
「倒れてすぐに元に戻ったよ、よかった」
「はい!やっぱり人間の体のほうがいいですね」
「そうだね、こういう事もできるしね♪」
チュッ
急なことで驚き目を見開く
「いや?」
「いや、じゃないです」
見つめあいもう一度、今度はゆっくり顔を近づける
最初は触れ合うだけだったそれも、順番に深くなりお互いの舌を絡めあう
ずっと一緒にいたのに触れ合うことができなかった時間を埋めるように
「んっ...はぁ、さとるくん...」
「夢子...チュッ、ふっ...」
唾液が口の端から滴り落ちるのも気にせず私たちは求めあった
激しい水音が部屋を満たすがまだしていたい、だが息が苦しくなり限界を迎える
そろそろ離れなくては、胸元を軽くたたくと悟くんが私の口から零れた唾液を舐めながら顔を離す
「はっ...名残惜しいけど続きは帰ってきたらね」
「それって」
「当然するでしょ?言わせないでよえっち♪」
「え!あの、私まだ今日は安静にするよう言われているんですよ...ね?」
「ほんとは三日前するはずだったのをずっとお預けされたんだから、大丈夫君は無理せず僕に身を任せてればいいよ」
「は、はは...」
頑張れ私、多分きっと絶対私は明日動けなくなっていることでしょう
未来の自分に想いを馳せながら、それでも嫌とは思えないのは惚れた弱みなのか
荷物を取りに行く為玄関に向かう悟くんを追いかけながら私はそう思った
こうしうて私の猫生活は終わりをつげたが、今度は悟くんとの新しい生活を始めることになったのだった
「夢子、君はずっと僕といてね?」
「はい!もちろんです!」
2025 03.07