けんかににゃりまして
昨日から悟くんの様子がおかしいままだ
何か言いたげにこちらを見てくるのに何も言ってこない、かと思えば急に強く抱きしめてくる
悟くんはどうしたのだろうか、そんな調子なので私も少し不安になってくる
でもどうしたのか聞いても悟くんは「なんでもないよ」と言うだけ
私はそんなに頼りないのかな...確かにこんな簡単に呪われちゃう人間だもんね...
そんなことを考え私も落ち込んでしまい、私たちの間には少しだけ気まずい雰囲気が漂っていた
どうしてこうなっちゃったんだろう...
―
僕の様子が違うことが気になるのか夢子が落ち込んでいるのがわかる
どうしたのか聞かれてもごまかしちゃったしね
絶対ないとは思ってる、でもどうしてもあの写真の事が気になってしまった
おそらくあれは捏造じゃなくて本物だ、だけど写真の角度からは本当にキスしているか分からないからそう見えるように撮っただけかもしれない
そんなこと理性ではわかってる、分かってるさ
でももし少しでもごまかす様子があったら...
「いっそのこと閉じ込めてしまえば安心できるのかな...」
「...?悟くん何か言いましたかにゃ」
つい心の底に仕舞っておいた本音が漏れてしまった、このままではいけない
この子には少しでも穏やかに笑っていてほしい、きっとそれをしてしまうとこの笑顔は曇ってしまうだろう
ちゃんと話すためにも今日の仕事が終わるまでに落ち着こう、そしたら聞いてみればいい
「いや、なんでもないよ、そろそろ現場着くけど今から行くところはひとりじゃないと呪霊が出てこないらしいから車で待っててね」
「わかりましたにゃ、気を付けて行ってらっしゃいですにゃ」
「うん、いってきます」
パタンッ
悟くんなら癖のある呪霊でもそんなに時間がかからず終わるだろう
そう考えなながら伊地知さんと車で待っていたが、朝から少し疲れてしまっていた事と、やはり体が猫だからなのか私は強い眠気に襲われていた
「あの、もしよろしければ少し休まれてはいかがですか?」
「でも悟くんが頑張ってるのに寝るにゃんて」
「貴女なら眠ってしまっても五条さんならお気になさらないと思います、むしろ無理されるほうが問題あるかと」
そう進められたことも後押しとなり、私は少しだけ横になることにした
今の雰囲気のままは嫌だな、悟くんが帰ってきたらちゃんとお話ししよう
そう心に決め、どう話そうか考えながら私は眠りについた
―
パタンッ
車の扉が閉まる音が遠くから聞こえる
そして自分が何か温かいものに包まれているのが分かると私はゆっくり瞼を開けた
黒い布、これは悟くんの服...?
「おはよ、よく眠ってたね」
「おはようございますにゃ...」
外を見るとどこかのコンビニに止まっているのが見えた
運転席に誰もいないところを見ると今車を降りたのは伊地知さんだったようだ
「今日はもう一件あるけど夕飯を先にと思ってね、今伊地知に買いに行かせたんだ」
「なるほど、そうにゃのですね」
私がそう答えると車内は静かになってしまった
やっぱりこのままじゃいけない、そう思い私は改めて悟くんに聞いてみることにした
「悟くん、昨日からちょっとへんですにゃ、どうしたのか教えてほしいですにゃ」
「...ふぅ、確かにちょっと気になることがあるよ」
「やっぱり、なら」
「でも!、今はちょっと待ってくれないかな、せめて今日の仕事が終わるまでは」
「...わかったにゃ、でもちゃんと教えてほしいですにゃ」
「うん、約束するよ」
悟くんは話してくれる気があるみたい、なら私は待つだけだ
先ほどよりも少しだけ穏やかな空気に私は安心した
「そうだ、お洋服ありがとうございましたにゃ」
「いいよ、まだ包まってな」
「大丈夫ですにゃ!」
そう言い私は服から出ようとしたその時だった、私の動きに合わせて悟くんの上着のポケットから何かが足元に落ちたのが見えた
「あ!ごめんなさいですにゃ!」
「!それはっ」
悟くんがこちらに手を伸ばしそれを拾い上げようとしたがその前にそれが私の目に入った
写真だ...それも私?この前の休日に街に出た時の格好だ
だが問題はそこではなくその中身だった
「にゃんでこんな写真...もしかして様子が変だったのは」
「ちがっ、あー!もう!」
悟くんは頭をガシガシと搔きながらそれを拾い上げた
どうしてそんな写真を悟くんが持っているの?
もしかして様子がおかしかったのはこれのせい?
「はぁ、仕方がないか...これは昨日補助監督に渡されて、お前が浮気してるって」
「!!してないにゃ!私浮気にゃんて!これは道を聞かれて教えてただけで!!」
「分かってる、でもこんな写真まで渡されると気になって、ちゃんと聞かなきゃってさ」
「悟くんはすこしでもそれを信じたってことかにゃ...」
「だから!信じてないって!」
「でも!」
「俺は信じてないって言ってるだろ!」
「っ!」
聞いたことがない悟くんの荒い口調に息が詰まる
悟くんもハッとしたのかばつが悪そうに顔をそらす
ガチャ
「どうされたのですか?」
その時伊地知さんが買い物を終えかえってきた
扉が開いたのを見て、私はとっさに車の外に飛び出していた
「夢子!!」
後ろで悟くんが叫ぶ声が聞こえたが私の足は止まらなかった
ただ今は悲しくて悔しくて仕方がなく、目に入った細い建物の隙間に入り私はその場を逃げ出す
なんで、どうして、信じてないならどうしてすぐに言ってくれなかったの
今はただ悟くんのそばにいたくなくてひたすら足を動かしていた
―
しばらく走り今自分がどこまで移動したか分からない
たださすがにずっと走り続けることは出来なくて、気が付いたらどこかの公園の陰に隠れていた
休んでいるうちに落ち着いてきて走って逃げてしまったことに今度は罪悪感が募り始めた
悟くんは信じてないって言ってた、とっさに逃げちゃったけど落ち着いて話せばよかったのかな、悟くん心配してるよね
「ごめんにゃさい悟くん...」
その時だった
ザリッ
足音?もしかして…
その音にそっと顔をのぞかせるとそこには
「やっと離れてくれたな、300万ちゃん♪」
知らない男がにやにやと笑いながら立っていた
ドガッ
―
「夢子!!」
夢子が車を飛び出してそのまま建物の隙間に入り込んでしまった
それを見て俺はすぐに後を追うため車から出る
「ご、五条さん!?」
走り出す俺を見て伊地知が声を上げるが今はかまっている余裕はない
「くそっ流石にここは通れないな」
人も多くて飛ぶわけにもいかない、仕方がなく建物を周り隙間が抜ける先へ移動する
だがそこにはもう夢子の姿はなかった、でも夢子の呪いの残穢は見える
目隠しを乱雑に取り払いかすかに見える残穢を確認し、それを頼りに俺は走り出した
今はただ夢子を追いかけることだけを考えて
―
走り続けると公園の物陰にたどり着いた
足元に色濃く残穢も見える、つい先ほどまでここにいたのだろう
だが問題はそこではない、問題は
「は?血?」
生き物の血からも呪力は読み取れる、そしてこの血痕は間違いなく
夢子のものだった
2025 03.07