いつもいっしょ



 あと数分でホワイトデー、時計を布団の中から確認してため息が出る。
本当は明日はバレンタインデーのお返しにと悟くんとお出かけする予定だったけど、悟くんに5日間の急な出張が入ってしまいお出かけは無しになってしまった。
悲しいけれど悟くんしか出来ない事だから仕方がない。寂しく思いながらも一昨日、本気の駄々をこねる悟くんを慰めながらお見送りをした。

「しょうがないよね......それに明後日のお昼には会えるし。でもやっぱり寂しいものは寂しいな」

 ついひとり言を布団を頭までかぶりつぶやいてしまう、お出かけは無しになったが私の休みはそのまま、14日と15日はお休みになっている。
2日間1人、本当は悟くんと過ごしていたと思うと寂しさに襲われた。
 
そうこう考えているうちに0時なる。その時だ──

ピリリリリッ

 電話の呼び出し音が鳴る。
のろのろと布団から頭を出し、サイドテーブルに置いてあるスマホの画面を確認する。
そして名前を見た私は飛び起きてすぐに電話に出た。

「もしもし悟くん!!」
「もしもし悟くんだよ〜、そんなに勢いよく出てくれるなんて嬉しいな。寂しかった?」
「......うん、さみしかった」

 悟くんの声を聞いて、先ほどまで感じていた寂しさがあふれ本音が零れる。
それを聞いた悟くんは一瞬黙った後話し出しだす。

「僕も寂しかった。電話も出来なくてごめん、今日ももう遅いことは分かってたけど明日も電波が届かない所に居なきゃいけなくてね、どうしても伝えたいことがあったんだ」
「ううん、何時でも忙しいのに連絡くれて嬉しいよ。伝えたい事って?」
「まずはハッピーホワイトデー!! いつもありがとう、先月のチョコマシュマロも嬉しかったよ。1回落ち込んじゃったけどあの後ちゃんと意味を調べたらとってもいい意味だったしね」
「ありがとう! 本当にチョコマシュマロに関しては私も改めて意味を知って安心したよ」
「はははっ、あの時はお互いに動揺しちゃったからね。まぁそれで僕は意味も大事だなって思ってお返しを用意したわけ、それで明日してほしいことがあるんだ」
「してほしい事?」
「そう、前に合鍵を渡したでしょ、その家に行ってリビングのテーブルの上を見てほしいんだ。今日のために用意したものがあるから」

 悟くんから「いつでも来てね」と言われ、高専意外に借りているお部屋の鍵を確かに前から受け取ってはいた。
だが悟くんが居るときにしかお部屋に行かなかったので使ったことがなかった。

「良いの? はいっちゃって」
「キミに入られて嫌なわけないでしょ? やっぱり当日に渡したいからね。お願いできる?」
「もちろん! ありがとう悟くん、何があるかは楽しみにしてるね」
「期待しててよ。......あ、そうだ、良かったらそのまま家に泊りな、家のは自由に使って良いからさ。当日は難しいけど次の日にはまっすぐ帰るよ、そうしたらすぐ会えるから僕も嬉しい」
「!! うん! 分かった、私も早く会いたいから。お家で待ってるね」

 当日は会えないけど悟くんの気配が残るお家に居られるのは嬉しい。
お言葉に甘えてお泊りをさせてもらおう、これで少しは寂しさがなくなるかもしれない。

「それじゃそろそろ寝な、いい夢見なよ」
「うん、悟くんもいい夢を、わざわざありがとう。愛してるよ」
「僕も愛してる、それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」

 通話が切れる直前リップ音が聞こえ通話は終了した。
その音に私は顔を赤くし、枕に顔を埋め唸り声をあげ、寝るのが少し遅くなったのだった。





ガチャ

「お邪魔します」

 夜の約束通り、今日初めて合鍵を使い悟くんの部屋にお邪魔した。

「確か、リビングだったよね」

 悟くんのお家は1人で住むにはとても広い、玄関から続く廊下も少し長くその突き当りを左に曲がるとリビングの扉がある。
1人では居たことがない場所に少し緊張しながらそっと扉を開ける。
 開けた先、右手にソファとテレビ、ローテブルが、そして左手にアイランドキッチンとダイニングテーブルがある。

「これ、かな?」

 ダイニングテーブルの方に細長く可愛らしいデザインの箱とメッセージカードが置いてあった。
カードには「ハッピーホワイトデー、まずこの気持ちをキミに」と書かれていた。
まず、の言葉に引っ掛かりを感じたが取り合えず箱を開けてみる。

「わ、かわいい! マカロンだ!」

 そこにはマカロンが3つ並んでいた、水色、黄色、ピンク、どれも大変可愛らしい。
目を輝かせてマカロンを見ていると、蓋の裏に何かついていることに気が付く、カードだ。

──喜んでもらえたかな? 良ければマカロンの意味を調べてほしい。そしたら次は洗面台にレッツゴー!!

「洗面台? それにマカロンの意味? もしかしてお返しにもちゃんと意味があるのかな」

意味が気になった私はその場でスマホを取り出し調べる。

「えっと、マカロン、マカロン......これか。『マカロンを送る意味はあなたは特別な人』......」

 意味を見て頬が熱くなるのを感じる、それと同時に嬉しさがこみあげて1人にやけるのを我慢できなかった。
 少しの間そうしていたが、次は洗面台のメッセージを思い出し向かってみる事に。





 あの後洗面台に向かい、鏡の前に小箱を見つけた。中身はキャラメル、またカードが蓋についていた。

──次はキャラメルでした! これも意味を調べてね。じゃあ次は書斎!

 キャラメルの意味は『安心する存在』私は悟くんの安心する存在でいれているらしい。
また嬉しくてにやにやしてしまう、そして次は書斎。
まるで宝探しのように楽しくなってしまい足取り軽く書斎へ向かった。
 書斎ではイスの上に小瓶が、中身はカラフルなキャンディが。もちろんカードもついており

──次はキャンディね! もう言わなくても分かってるよね。それじゃ次は......

 その後もお家のいたるところに置かれた贈り物を受け取った。
チョコレートにマドレーヌ、カップケーキにバームクーヘン。どれも素敵な意味が込められており、寂しさもあったはずなのにいつの間にかずっと私は嬉しくて、幸せで、笑顔が止まらなかった。

──それじゃ次が最後だよ! 寝室に行ってベッドの上を見てね。

 その文字に次は何があるんだろうと、わくわくしながら向かう。
寝室の扉を開け、壁際に置かれたキングサイズのベッドに近づくと、今までで一番小さい、けれどとても上質な箱がベッドの真ん中に置かれているのが分かった。
先ほどまでと違う雰囲気に恐る恐る箱を手にとるとその箱の色に気が付いた、これはあのブランド名が名前についているブルーの箱。
それに気が付き落としそうになるが慌てて抱きとめる、そしてそっと箱を開けた。
箱の中央にはシンプルながらも洗練されたデザインのヒンジブレスレットがおさめられていた。
流石に今までとは違い触っていいものか悩んでいると、これにもカードがついていることに気がつく。

──驚いた? キミに事だからまだ触ってもいないと思うけどこれはキミに付けてほしい。
このブレスレットを僕だと思っていつもそばにいさせてくれないかな、そしてそれを付けて僕をこの部屋で迎え入れてほしい、お願い。じゃなきゃこのブレスレット捨てるからね!!
キミが付けてくれないならいらないもんね! 

「捨てるって......悟くんならやりかねない......」

 高価なものを受け取るのも怖かったけれど、悟くんなら躊躇なく捨てるのが簡単に想像ついた。それに悟くんからのお願いに弱い私はそっと箱からブレスレットを取り出し左腕につける。

「......綺麗だなぁ、あ、ブレスレットにも意味があるのかな。......えっと『僕には君しかいない』 !! 嬉しいなっ」

 一度つけてしまえば緊張よりその綺麗さに気分が高揚する、それに意味を知ってより愛着がわいた。
一通りいろんな角度から眺めて満足すると私は明日疲れて帰ってくる悟くんの為に、料理の仕込みをするため上機嫌でキッチンへ戻った。




─その姿をずっと見てる存在には気が付くことがないまま......





「かわいいなぁ、躊躇してたけどあのデザイン好きだもんね」

 ひとならざる者の声がざわめく森の中、そんなもの気にも留めずスマホの画面を見つめる男が1人。

「今日連絡できないのは辛いけど、想像通り楽しそうに僕の家を動き回る夢子を見れたし、これであの家であの子が行ったことがない場所はなくなったよね、嬉しいなぁ」

 その男、五条悟は全てを見ていた。
電波は確かに届き辛いがまったく届かないわけではない、でもそうすることにより自分のテリトリーを動き回る彼女を見ることが出来るし彼女の気配も残る。
それにそこを1人でも居心地の良い場所、自分が無防備になれる場所だと認識してほしかったのだ......いつか一緒にその場所に住むそのためにも。

「ブレスレットもちゃんと付けてくれたしこれで少しは安心かな、ちょっと時間かかった特注品だから大事にしてね? 夢子」

 スマホを操作して別の画面を映す、そこにはマップと赤いマークが着いた画面があった。
そしてそのマークが示す場所は......五条悟の自宅だった............


 キミはすぐ目の前の事にとらわれるから一番最初に目に映った言葉だけ見たんだね?
知ってるのかな、ブレスレットには他にも『束縛』や『独占したい』って意味もあるんだよ。
そしてそれはブレスレットの太さで意味は強くなる......キミの腕には今、何が付いてたっけね

「明日まで我慢って思ったけどやっぱり早く帰りたいなぁ、だからさ、さっさと死んでくんない」


 数分後あたりは静寂に包まれ、男の気配もなくなっていた。


2025 03.15