太陽と月
ピピピ
「38.2℃か、高いな...やっぱりお前今日は休みね」
「うん...」
ベッドに腰掛ける悟くんに力なく返事をする
もともとあまり体が強いとは言えない私はよく体調を崩してしまう事があった
なるべく気を付けはするが、それでもどうしても崩してしまうことがある
最近いつもより忙しい日々が続いており猫の手も借りたいほどなのに、そんな中熱を出して倒れてしまうなんて...
「こんな時にごめんね」
「しょうがないさ、そういう日もあるよ」
「でも」
「はいはい、気にしすぎると治るもんも治らないよ?むしろ忙しい中今日までよく頑張ったね」
「う〜ありがと〜」
悟くんが話しながら頭をなでてくれる、悟くんの手はとても暖かく感じ、その優しい暖かさに不調もあってか涙腺が簡単に緩んでしまう
「だから今は治すことに集中しな」
「うん、治ったら馬車馬のごとく頑張るよ」
「まったくこの仕事人間め!」
撫でていた手を頬に滑らせ、ひと撫でした後に頬を人差し指でつつかれる
「はぁしょうがないな、お前が呪術師としてプライドをもって仕事をしているのは分かってるからね、止はしないけど無理するとまた倒れるかもしれないからほどほどにね」
「はい、ごめんなさい」
つつかれる頬がちょっと痛い、でも悟くんが本当に心配してるのも分かってるから大人しく受け入れる
なんだかんや言いながらもこちらの意見も尊重してくれる悟くん、そういう優しさは昔から変わらない気がする
ただ自分の意見にも自信があるから時にはなかなか折れてくれなくて、そんな時に傑くんとぶつかっちゃうんだろうな
学生の頃一度大きな喧嘩をして以来、傑くんも前以上に悟くんに遠慮がなくなった気がするからお互い様なのかもしれない
そんなことを考えているとつつく手を止め悟くんが思い出したように話し出す
「そうだ、お前の任務は本当は僕が引き受けたかったところだけどちょっと外せないのがあってね、傑が引き受けてくれることになったから安心して」
「傑くんが?良いのかな2級の仕事を特級にやってもらうなんて」
「良いの良いの、どうせ通り道だったらしいしあいつも同期の頼みなら気にしないさ」
「はぁ、今度お礼しなくちゃ」
「たまにはお前が迷惑かけるのもいいんじゃない?、普段あいつのストレス発散に良く付き合ってやってるだろ」
「それでも私は気にするっ!ごほっごほっ」
長く話していたせいか咳がでる、それを見た悟くん背中をさすってくれた
「ほらほら、無理しない」
「ごほっごめっ、はぁ」
「はい、落ち着いたら水飲んで」
私の様子を見ながらサイドテーブルに置いてあった水の入ったペットボトルを手に取り、蓋を開け私の口元に運んでくれる
「ふぅ、ありがとう」
「どういたしまして、それじゃ僕そろそろ行かなきゃいけいないけど大丈夫?」
「大丈夫だよ、ごめんね」
「いいって、おかゆも作ったし薬も用意したからちゃんと食べて飲んでね、それと何かあったら」
「硝子ちゃんに連絡だよね」
「よくできました!」
本当は硝子ちゃんにも迷惑かけたくないけど、一度重症化して大変怒られてしまいそれ以来遠慮なく頼ることにしている
怒った硝子ちゃんはとっても怖くあの顔は出来れば二度は見たくない
「じゃあ本当はこんな時にキミのそばを離れたくないけど!本当に嫌々だけど!仕方がないから行ってくるね」
「その気持ちだけでも嬉しいよ、行ってらっしゃい、気を付けてね」
「うん、いってきます」
そういうと悟くんは本当に渋々といった様子を前面に出しながら任務に出かけて行った
忙しいからきっと帰ってくるのは遅くなることだろう
「...ちょっと、さみしいな」
こういう時センチメンタルになりやすいことを自覚している私はベッドに横になり眠ることに専念することにした
―
ガチャガチャ
「ただいま〜」
玄関から鍵が開く音と声が聞こえる
「あれ?おかえり早かったね」
それをリビングから顔をのぞかせ確認すると、靴を脱いでいる悟くんに近寄った
時刻は19:00予想より大分早い帰宅だ
「ただいま、寝てなくて大丈夫?」
「うんだいぶ良くなったよ、卵粥もありがとう、美味しかった!」
「当然!なんせ僕が愛情たっぷり込めて作ったんだからね!」
話しながらリビングへ入る、そしてダイニングテーブルの上を確認した悟くんは目隠しを取りながら不満そうにこちらを向く
「こら、体調悪いのに台所立ったの?」
「えっと、夕方には大分良くなったから悟くんのご飯の用意はしたかったの、そんなに手間のかかる物は作れなかったけど...」
「も〜気にしなくて良かったのに、大丈夫だった?怪我とかしてない?」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
「まったく、でも気にかけてくれたのはうれしいよ、ありがとね」
悟くんの右手が伸びてきて頭を軽く撫でられる、あの暖かくて優しい手だ
頑張って眠ってやり過ごしたがやっぱり寂しくて、ようやく感じた太陽の手につい頭を押し付けてしまう
それを見た悟くんは一瞬手を止める、が、すぐにまた優しく撫でてくれる
それと一緒に左手を私の背中に回し少し強く抱きしめられた
「今日はいつもより甘えただね」
「だめ、だったかな」
「そうはいってないだろ?お前だけ特別、いつでも僕の腕の中においで」
誰も聞いてないのに耳元で内緒話をするように話す
息がくすぐったいが直接声を頭に届けられているかのような状態が心地よくて離れられない
だがいつまでもこのままではいられない、名残惜しいがゆっくりと離れた
「ちょうどご飯できたところなの、温めなおしてもいいものにしたけど今食べる?」
「食べる食べる!それで食べ終わったらすぐお風呂入ってくるから、お前はベッド!」
「はーい」
ご飯を食べた後、すぐに悟くんはお風呂場へ
そして烏の行水の言葉の通りの速さで寝室にやってきた
「おっまたせー!」
「いや、はやいよ、ちゃんと温まれた?」
「汚れを落とせれば十分、温まるのはお前が隣にいれば問題ない」
そう言いながらベッドに入って私を抱きしめてくる
悟くんに私もくっつき寝る態勢に入るが少し考え悟くんを見つめる
「?どうした」
「あの、お願いがあるんだけど...今日は手を握ってもらってもいいかな?」
「え?いいけど、こう?」
悟くんが片手を恋人つなぎで握ってくれる
大きくて、硬くて、暖かい手、ラブノックをしながら頬に手を当てる
すると悟くんも返してくれたあと指で軽く甲を撫でられる
「お前僕の手好きだよね、よくマッサージしてくれるし、それにいつも見てる」
「うん、いつも皆を守ってくれる手だもの、太陽みたいに暖かくて力強くて大好き、でも、だからこそ本当はお家にいる間くらい休んでほしいの、これがなかなか上手くいかないんだけどね」
「...そんなことないさ、僕が本当の意味で休めるのはここだけだよ、さぁ寝よう!まだ完全に良くなってないんだ、僕の為にも元気になってね」
「...うん、ありがとう、おやすみなさい」
皆の前では日中の太陽のように白く輝き、青い空を見せてくれる人
でも私の前ではその光を収めて休んでほしい
そう思っていたけど少しはなれてるのかな、そうだと嬉しいな
悟くんにくっつきながら私はいつもより寂しかったせいか色々話してしまった事をちょっと恥ずかしく思いながらゆっくり眠りについた
「寝た...?」
僕が太陽か、初めて言われたな
それならお前は月かな、いつもころころ変わる姿に魅せられる
でも激しいわけじゃなくて静かにこっちを照らしてくれる
そんなお前にいつも助けられてるってきっとあんまり伝わってないんだろうな
僕は最強だし大体何でもできるけどまったく悩まないわけじゃない
けどお前がいるから暗闇も迷わず進んでいけるんだけどね
「...おやすみ、愛してるよ」
僕だけの月を離さないように手を握り直し、口づけを落とした
この月が永遠に僕の物であるように呪いながら
2025 03.18