みてみて五条さん
「区切り良いから今のうちに休憩入ってー」
「はい! それじゃお先にお昼いただきます」
スマホ片手に今日も1人中庭のベンチで昼食をとる。
デスクで食べるより気分転換になるため私のお気に入りの場所だ。
1人でご飯を食べるのも少し寂しい...けど、我々補助監督は24時間365日年中無休、お昼も交代制で入るため致し方ない、だがそんな時間に最近楽しみが出来た。
「かわいいー!! 猫ちゃんにこんなサービスされたい、あ、このリップ気になってたやつだ。......ふむ、やっぱりよさそう。今度お給料はいったら買っちゃおっかなぁ」
それは、ポイ活目的で始めた縦型動画投稿アプリ。
ポイント目的だったけれど今では純粋に楽しんでおり、暇なときにコスメや動物関係、ASMRなどを好んでよく見ている。
そのため私のおすすめにはそのような動画が良く流れてくる......のだが。
「あ」
時折アーティスト関係や流行りのものも流れてくる。
そして、その中に最近気になるものがった。
「またこの人だ、この踊り最後のまなざしがちょっとセクシーで照れちゃうんだよね。......でもやっぱりかっこいいかも、流行ってて結構な人が踊ってるよね」
つい見てしまうのはアーティスト本人のダンス動画だった。
他のアーティストとコラボしたり、別バージョンだったりと同じ曲をよく投稿している。
そしてそのダンスがかっこいいからなのか色々な国の人が真似して踊っているようだ。
普段はかっこいいなと思いながらもスワイプするのだが、本人が踊っているのを見ると
つい手を止めて最後まで見てしまう。
「はぁ、かっこよかった。こういうのをさらっと踊れるのってなんか目を惹いちゃうよね」
ブーブー
「時間だっ、急いで戻らなきゃ」
あらかじめ設定しておいたスマホのアラームが鳴る。
残りのサンドイッチを頬張り急いで仕事場に戻ることにした。
「ふぅん......ああいうのが好みなの」
なので私は気が付かなった、食事をとっていた少し離れた背後にいた五条さんに。
───
「ふぅ、なんとか終わりましたね」
「お疲れー、ギリギリだったけどな。それじゃ俺は伊地知さんにも確認する事があるから後頼むわ。確か学長のところによってから来るはずだからそっち行ってくる。引き継ぎの書類はそこにまとめておいたから交代のやつが来たら渡しておいてくれ」
「わかりました!! お疲れ様でした」
「はいお疲れ様でしたー。じゃ、よろしく、もう遅いし引き継ぎしたら早く帰れよ」
今日の業務も無事終わり、先輩に言われた通り早く帰るため、交代の方が来るまでに帰宅の準備を始める。
「今日のご飯は何にしようかな、明日休みだもんね。折角のお休み、誰にも合わずにお部屋でのんびり過ごすのもいいよね、それなら久々にニンニクましまし餃子もいいな......」
餃子にラーメン、チャーハンもつけてしまおうか。
そう今夜の夕飯に想いを馳せているその時、扉の開く音が聞こえた。
交代の方が来たのかと思い振り返るとそこには予想していない人がたっていた。
「あれ五条さん? お疲れ様です、どうしたんですか」
「お疲れー!! いやちょっと用があってさ」
「用ですか?」
それは不思議なことだった、五条さんは普段術師としての書類は伊地知さんを通して提出し、教師としては学長室に直接用がある時に出向くのでこちらに来るこはまずないのに。
「ねぇねぇ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだよね」
「すみません。私はまだ新人なのでもしよければ、もう少しすると交代の方が来ると思いますのでその方のほうが」
「あぁ違う違う、見てもらいたいのは仕事関係じゃないよ。キミに見てもらいたいものがあるの」
「私に、ですか?」
五条さんはよく気にかけてくれる方だ。
噂に聞いていたより意外と周りをよく見ており、ここに来たばかりのころ慣れないことに疲れ落ち込んでいた私に話しかけてくれたのは記憶に新しい。
そこからよく話すようになったとはいえ、この様なお願いは初めてだった。
「じゃあいい? よーく見ててね!!」
「は、はい」
そういうと五条さんは少し広さのある場所へ移動すると、上着を脱ぐ。
そうすると普段見ることが出来ない上着の下、ピッタリと肌に沿った服から分かる五条さんの厚い胸板と逞しい腕、しっかり割れている腹筋が現れた。
「ご、五条さん? なにをなさって」
五条さんはこちらを横目に見て軽く微笑むと、近くのデスクにスマートフォンを置き音楽を流し始めた。
その音楽はとても聞き覚えのある曲だった。
「え、これって」
そこからは長くはないはずなのに、とても長く感じる時間だった。
だって、だってあの五条さんがB〇Dチャレンジをしているのだから!!
流石というのか、アーティストにも劣らない切れのあるダンス。
あの長い手足が映えさせかたが分かっているかのような動き。
そして、その時はきた。
「っ」
あのダンスでも特徴的な最後の細めた瞳、そして胸のヒット。
そこが自分の職場だということも忘れて私はただただ惚けて見つめてしまった。
「さて、どうだったかな?」
五条さんに声をかけられて現実に戻る。
「どうって!! なに、え、急にどうしたんですか!!」
「あれー? お気に召さなかった?」
「召しました!」
「はは、良かった」
つい反射で素直に答えてしまった。
でもその反応に五条さんはさっきの色気が嘘みたいに笑う。
「っっ!! すぅ、はぁー。 で、改めてどうしたんですか?」
「ん? 簡単なことだよー。キミの視線や思考に他に奴を入れたくなかっただけ、これでもうあいつの見ても僕を思い出すでしょ」
改めて聞いても意味が分からない。
五条さんはどういう意図でこの行動をしたのだろう。
私が何も理解していないのを見て分かったのか、五条さんが服を着ながら話を続ける。
「難しく考えなくていいよ? 本当にそのままの意味だから。それだけ君は僕の特別ってこと。それじゃ、これからは本気で行くから覚悟しててねー!!」
そういうと五条さんは人の思考をかき回すだけかき回して去って行ってしまった。
「......え、それって、そういう、こと?」
その時何も知らない引き継ぎ相手の補助監督が部屋に入ってきた。
「お疲れー、ねぇいま五条特級術師がめっちゃ笑顔でスキップしてたけど何かあったの?
って聞いてる?......ねぇ顔真っ赤だけど大丈夫?」
「......大丈夫、じゃないです」
「え、ちょっと!! い、家入さーん!!!!」
その後私の思考は止まり、気が付いたら保健室で朝を迎えていた。
「ありゃ、ちょっと初心すぎてこれからが心配。でもそれもそれで攻めがいがあるね。
一生逃がさないから、僕だけをずっとみててよね」
2026 09.27