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「あさぎりさ〜ん、ご飯ですよ」


そう言って彼女が差し出してきたのは

ワイルドに盛り付けられた肉塊だった


「…え、何かや〜な予感するんだけど」

「失礼ですね、栄養をつけるといえばジビエですよ
私が捕まえた猪です」


しがないOLが
捕まえた
いのしし


「…ジーマーでイッてんの…どんだけ逞しいのさ…」

「あ、でもトラップでですよ!
それに実際の獣に使ったのは初めてでしたし、手こずってたら羽京さんと言う方にも手伝って頂きました」


あぁなるほど羽京ちゃんの協力ありか
確かに彼は元軍人だしサバイバルの知識も豊富だろう


「でも捌くのは頑張りましたよ!司さんにも献上しなくちゃいけないので一番良いとここそっと持ってきました」


なまえちゃんは今、司ちゃんに次ぐ狩猟を担当とされようとしている

司ちゃんの様な狩りとは違い、彼女は罠を使い効率的な狩りを目指すようだ

司帝国に宛がわれる住居には住まず、自らで住居を構えた彼女はここでは少し特殊な立場だ

そして早々に罠により狩猟も成功したのだから今後も彼女の立場は変わらないだろう


「あさぎりさん、レバーはお好きですか?」

「いやぁ〜嫌いだね〜あのモサモさがさ…」

「何となく言うと思ってました、はいどうぞ
レバーです」


今の俺の話聞いてた?


「どーせ新鮮なレバーは美味い、焼きすぎなければ美味しいとか言う常套句でしょ
レバー好きな人は皆それ言うよね」

「もー!でも試しに食べてみてください!
絞めたて捌きたて!こんな新鮮なレバーまずないですよ!
あさぎりさん血一杯出てたんだから食べてくださいよ」

「俺の体についてた血の大半はフェイクだから!」

「でもだーめーでーす。女の子の手作りを拒否するんですか?」


そう言われると少し揺らぐ

レバーが嫌いなのはホントだけど、それでも司ちゃんに渡す前に隠れて俺に持って来てくれた訳だし

仮にも俺の体を心配してくれてる


「…ダメなら私が食べますから、ね?」


そうお願いされて

俺は観念して口をあけた


「…ん、全然臭くないねこれ
この位なら食べられるかな」

「でしょう?!良かったー」


なんてのはホントは嘘
確かに今までのレバーと比べればマシだけど
やっぱり臭いし独特の風味が鼻をさす

それでも、この満足そうな顔を見れるなら我慢は出来る範囲の不味さだ


「かわいい子の作るご飯は美味しいものだからね」

「…ホントに口は元気ですね
他も食べられますか?」



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「罠を実際の獣に使うのは初めてって言ってたけどそれまでの食事はどうしてたの?」


ふと思う
彼女はこの石の世界にウキウキしていたが何を食べていたのだろう

獣は今回が初めてと言っていたからウサギなどもそれには含まれないだろう


「え、今までですか?
木の実とかキノコとか海草に貝、あとは虫ですね」


今、聞き捨てなら無い単語が聞こえた


「…何だって?」

「木の実キノコ海草貝、虫」

「んんん〜〜〜?」

「貴重なタンパク源ですよ。…まぁこれは羽京さんもちょっと引いてましたが…」

「そりゃそうでしょ…」


虫、いくら石器時代とはいえ虫を食べるのこの子

正直黙ってれば結構可愛いのに中身があまりに外見から解離しすぎている

いや、でも緊急時だからだろう

彼女だって現代にいた時はきっとチーズダッカルビとか、ロコモコとかを食べてて虫なんてたまの休みに社会の喧騒を忘れたい時くらいにしかきっと…

食べてるかもなぁ…緊急時じゃなくても


「…そういうあさぎりさんはこの世界で何を食べてるんですか
虫以外は私と大差ないでしょ?」

「あぁ、最近はラーメンを食べたね」

「は?!ラーメン?!石器時代ですよ今?!」

「ジーマーだから!これホントに!」


なまえちゃんの食事事情には驚かされたけど

それでもラーメンに対してこの食いつきなんだから
きっとあの村の人間みたいにちょろいに違いない