両手に忍者

冬も厳しくなってきた今日この頃だが
今日は珍しく良い天気だ


「前は雨が休みだったけど
今は晴れが休みとはねぇ」


昼食を食べ終わり
雑渡さんはそのままのんびりとした時間を過ごしていた


「雪が降らない日は雪かきが出来ませんからねぇ
まぁ屋根の雪下ろしはありますが」

「雪下ろしも終わったし
今日はもう休みかなぁ」

「お疲れさまです
うちだけじゃなくご近所さんのもやっていただけたみたいで
なんかお礼に来てましたよ」

「まぁご近所さんには色々お世話になったし私も時間あったしね」


雪がない事には仕事はない
しかし雑渡さんは日頃

やりすぎではないか
雑渡さんは大丈夫なのか

と逆に父が心配する程の仕事ぶりなのだから今日位はもう休んでも良いだろう

しかしうちだけでなくご近所の雪かきまでこなす体力には本当に感心する

さすがは現役の忍者だ


「ねぇなまえちゃん
私もたまにはのんびりと昼寝でもしようかと思うんだ」

「ほう、良いんじゃないですか?」


雑渡さんがのんびりすると言えば
横座りで茶請けを楽しみつつお茶を啜りながらぼんやりしている姿しか浮かばない
昼寝なんて無防備なことをするようには見えないが彼も人なのだからたまには寝たくなるのだろうか


「枕が欲しいなぁ」

「…はぁ」


包帯の覆われていない雑渡さんの右目が
とても何かを言いたそうに私を見つめていた


─────────


「…満足ですか?」


私はやはりお人好しなのだろうか

所謂膝枕

雑渡さんが所望したのはそれだった
いや、たかが太股を貸すだけなのだから気にする方が間違いなのだろうか

膝枕をする為に正座をしてしまったので
足が痺れないかだけが心配だ


「私はなまえちゃんのこの鍛えていない足が好きなんだよ
柔らかい」

「…しばきますよ?」

「大丈夫、なまえちゃんは細いよ」


私の太股を枕にする雑渡さんは満足そうだが
本当にこのまま昼寝をするのだろうか

うーん、やはり言いくるめられた気がしてならない


ガタン


「あー、二人とも何やってるんですか」

「おや、喜八郎
仕事は?」

「暇だからあがって良いって
それより雑渡さんずるいでーす」


あー、これはまた面倒なことになる
私の太股を枕にくつろぐ雑渡さんを見て喜八郎はわかりやすく頬を膨らませた


「羨ましいだろう」

「雑渡さんも何言ってるんですか」


36歳が親と子程離れた子に何を言うのだか
雑渡さんはまるで喜八郎に見せつけるかのように片腕でピースを作って見せた


「じゃあ僕もう片方お借りしますね」

「…そう来たか
私の足人気だなー」


そう言うなり
喜八郎は私のところに滑り込むようにもう片方の太股に頭を乗せた

雑渡さんだけならしばらくしたら横座りという形で足を崩そうと思ったが
こうなると正座を崩す事は許されない為
そのうち足が痺れてしまうだろう


「なまえさーん
僕仕事頑張ったんで褒めてください」

「よしよし、頑張ったねー」


丁度良い位置にある喜八郎の頭を撫でると
まるで猫のように目を細め満足そうだ


「あ、喜八郎君ずるい」

「雑渡さんは大人なんですから我慢してくださーい」

「はいはい、雑渡さんは凄い凄ーい」


私は両方の足だけでなく
両手までも彼らに受け渡す形になったが

こんな穏やかな空気を味わえるならそれも悪くないと思った