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何もない田舎町で
このまま平凡に生きるのだと思っていた


「ねぇ君、小西早紀について何か知らない?」

「…早紀がどうしたんです?」


校門を抜けた直後私に話しかけてきた男
寝癖のついた髪型に曲がったネクタイ
その出で立ちから想像つかないが手に持つそれは警察手帳だった


「あれ、呼び捨て?意外だね
一応その制服を着てる子には聴取するよう上から言われたから声かけたんだけど」


警官の口から発せられたのは私の親友の名前で
昨日アンテナにぶら下がった状態で遺体として見つかった
常識を逸脱した殺人事件として調査しているのだろう


「私と早紀が仲良いなんてそんなに意外ですか?」

「まぁ見た感じはね
でも女は見かけじゃ分からないからなぁ…」


早紀は少し派手な子で誤解を生みやすく
あまり良い噂がなかった
片や今警察の目の前にいる私は規定のスカート丈に染めていない髪
早紀とあまり深いつながりがあるように見えないのも仕方ないかもしれない


「早紀について私が話せる事なんて事件には関係ない事ばかりだと思いますが」

「それを判断するのはこっちの仕事だからね
とりあえず君の知ってる小西早紀をよかったら教えてくれない?
ほら、何か悩んでたとかどんな子だったとか」

「うーん…良い子でしたよ
見かけはちょっと派手だし、良くない噂もあったけど
実際は良い子。恨みを買うような子ではなかったです。
悩みも…あるにはあったみたいだけど
誰にでもあるような些細な程度かと」

「そっか、ご協力ありがとう」


些細な証言も必要なのか
手帳に書き込みながら刑事さんは眉間に皺を寄せていた


友人が死んだと言うのに
私の受け答えはひどく冷静だったかもしれない

けれど彼女の死をすぐに受け入れろというのも無理な相談だ
死体がアンテナに引っかかるなんて異常としか思えない

その非現実的な事実のせいで彼女の死に顔すら私はまだ見ていない
だから正直まだ、実感がないのだ


「じゃあ気をつけて帰るんだよ」


平和な田舎町で起きた異常な殺人事件
きっと、これからこの人はもっと忙しくなるだろう


「わざわざお気遣いありがとうございます
そちらも、風邪引かないでください」

「あはは、女子高生に心配されるなら警察もなかなか悪くないなぁ」


へらへらと
警察の威厳を感じさせない頼りない笑顔


「足立さん」


掲示された警察手帳に書かれていた三文字
足立透、それが彼の名前


「ん?」

「犯人、捕まえて下さいね」

「あぁ、警察に任せてよ」


狭い町だ
きっとこれからもこの男には会うだろう


足立透との間にほのかな絆の芽生えを感じた