迎えに来たのは

思えばえらく濃度の濃い一年を過ごしたものだ


去年の今頃だったか

うちの敷地に一人の忍者が倒れていた

この一文だけで既に信じてくれない人も多いだろう

けれど確かにその人はやってきたし
しまいにはもう一人忍者がやってきて
戦国時代の忍者二人と平成の世界で共に半年以上過ごし

紆余曲折を経て次は私が戦国時代へ

そして火縄銃で撃たれ、気付けばまた平成に

命に別状は無かったが入院やらでえらくバタバタとしていた


ここまでで大体一年だ


短い間ではあったが戦国時代を過ごしたおかげで肌は僅かに健康的な色になり
ほぼ毎日多く歩かざるをえない環境の為健康的に痩せる事も出来たが入院生活でほぼ元通りになってしまった


しかしやっと生活が落ち着いた
今回の件で見合いの話が有耶無耶になった事だけが幸いか


この一年で私が得たもの

火の起こし方
簪の挿し方
羽釜での米の炊き方

二番目以外は役に立つ気がしない


しかし、一年以上前まで日常だった生活が少し寂しい
自由気ままなニート生活はこんなにも退屈だったか

いい加減働くか
求人を探す事からはじめなくては


ピンポーン


鳴り響く電子音により
考え事は一時中断された

宅急便だろうかと腰をあげたが



ピンポンピンポンピンポーン



これは宅急便ではない
宅急便がこんなに何度もチャイムを押すものか


「うるっせええええ!
誰じゃこんなど田舎でピンポン連打する奴はぁああああ!」


私は鳴り響く電子音に苛立ち
思わず乱暴に玄関の扉をあけた


「おやまぁ」


チャイムを連打するのだから子供の仕業かと思ったが

玄関に立っているのは背の高い青年だった

見た事のない顔だ
この町の人間ではないだろう


「なまえさん?」

「あ、はいそうですが…
どちら様で…」


がばっ


「うぉっ?!」


名前を確認する間もなく
突然抱きしめられた

待て待て待て
だから君は誰だ

新手の変質者か?


「やっと、会えた」


やっと?
会えた?

その口振りからするに知り合いなのだろうか

しかし私はこんな人知らない筈なのだが


「まだ分かりませんか?」


そうやって私の顔をのぞき込む青年は整った顔をしている

年は私より少し下だろうか
だって肌が若い


そして彼のふわふわとした髪の毛と

先ほど鳴り響いた電子音が

私の記憶の箱を開けた

いや、しかしあり得ない
けれど恐らく私の予想は当たっている


「まさか、喜八郎…?」

「そうでーす」


この間延びしたしゃべり方
間違いない

五百年前の世界で私を慕ってくれた綾部喜八郎だ

いや、正しくは綾部喜八郎ではないのだろう
私の知る喜八郎は13歳だ

こんなそこそこな高身長イケメンではない


「多分なまえさん混乱してると思うので
離れに行きましょうよ。説明しまーす」


我が家の離れの存在すらも知っているこの青年は
確かに私の知る綾部喜八郎なのだろうか


─────────


「えーっと、早い話
僕は五百年前の綾部喜八郎の生まれ変わりです」


話し合いの場所を離れにうつし
離れに入るなり懐かしいなーと漏らしたこの青年は自らを綾部喜八郎の生まれ変わりだと紹介した

面影は勿論だが性格もしゃべり方も
少し低くなったが声も確かに喜八郎だ


「また現実離れした話しだなぁ…」

「なんかもう今更じゃないです?
あ、今の僕の名前も綾部喜八郎なので変わらず呼んでくれて大丈夫です」


喜八郎、平成の世にこの子の親御さんはまた渋い名前をつけたな
もしかしたら良い家柄にでも生まれたのだろうか

現代の喜八郎の事を色々と思案する私に構わず
彼は説明を続けた


「13歳、五百年前の僕がなまえさんと出会った年齢になったある日思い出したんです
五百年前の僕はなまえさんが元の世界に戻ってからも奇跡を期待してました
結局奇跡は起きないまま僕は死んだんですけどね」


死という言葉に
心臓を掴まれた気がした

人間の寿命を考えるに、何時か死を迎えて当然なのだが

私の知る喜八郎は確かに一度息を引き取ったのかと思うと胸が締め付けられる


「でも僕は昔を思い出して
こうしてまた会えました」


奇跡も安くなったものだ
というのが率直な感想だった

輪廻転生というやつか
魂はリサイクル制なのだろうか

だとしたら生まれ変わった事は奇跡ではなく
思い出した事が奇跡になる

再会までこぎ着けたのは彼の行動の結果なのだから


「こう言っては何だけど、今回の目的は?」


喜八郎の現在の年齢はおろか職業も分からないが

何か訳があってこんな田舎までやってきたのだろう

しかし何歳になったのだろう
成人済みなら堂々と酒も飲めるな

酒の席で昔の話しに花を咲かせたいものだ


「なまえさんを迎えに来たんです」

「はい?」


彼の口から出た言葉は
少し予想外だった