とかれた呪い

「本当はもっと早く迎えに来たかったんですが
昔の僕とはち合わせたら何か不都合ありそうだったし、なまえさんがこの時代に戻った時期も分からなかったから色々不安だったんですけどもー」


生まれ変わる前の自分と生まれ変わった自分がはち合わせたら何か起きるのだろうか
どこかの映画みたいに未来が変わる可能性等もあるのだろうか

いや、そんな事はこの際どうでも良い
喜八郎の五百年前の自分に対する配慮よりも重要な話しをスルーしている


「まぁ、待て、待て
迎えってなんだ」

「え?なまえさんどうせまだニートでしょ?
昼間から家にいたんですから」

「喜八郎だって昼間っから訪ねてきた癖に!」

「僕は有給たまってたんで使っただけでーす」


有給だって?
喜八郎の口から有給??

という事は半年以上は働いている訳だ
五百年前の雑渡さんや喜八郎もうちで働いていた頃、彼も働いていたのか

働いていないのは私だけか
そうか


「僕今東京で働いてます
同居してた滝が出て行くので部屋も余ってます」

「いや、だからってね?
引っ越せって事??」


そしてこの子は平成でも平君と同室だったのか
仲良いな、っていうか平君もいるの?

魂というものは本当にリサイクル制なのかもしれない


「なまえさん、知らないでしょう?」


事態をいまいち飲み込めずにいる私に
今までと少し違う声色で喜八郎は話しを続ける

一瞬、空気が変わったのを感じた


「なまえさんとの別れをずっと後悔していました
あそこでなまえさんを帰さないとなまえさんは死んでいた
それでも」


一回目の喜八郎との別れはしっかりと出来た
けれど二回目はあまりに突然で

私に至ってはどう別れたかも分からないのだ


「やっぱり、離れたくなかった」


喜八郎の口から語られたそれは
呪われた言葉だった


「思い出せた事は奇跡だと思います
けれど、そこから先は僕が自分でどうにかします
そんなに贅沢しなければなまえさん養えますから」


けれどそれは五百年前の雑渡さんと、喜八郎だったからの話だ

今目の前にいる喜八郎の言葉にはそんな力はない


「働かれたら連れ出すの大変です
ほら、確か見合いは嫌とか言ってたし良いじゃないですか
家具はあるから服とか身の回りの物だけで良いし」

「そうは言ってもなぁ…」


私も良い年なのだから親の意見に左右される事なく行動出来るが唐突すぎる
けど東京とか修学旅行以来だし
つまりは、えー八年ぶりくらい?
そりゃ私も年をとる


「駄目だと思ったらすぐ帰っても良いです」


あぁ、そんな目で私を見るな

しかし
この子は再会をどれだけ待ち望んだのだろう

13歳の喜八郎と再会した時も抱きしめられたが
大人になった喜八郎にも変わらず抱き締められた

本当にこの瞬間を待ちわびていたのだろうかと思うと
断りにくい


「…まぁ、少し位なら」


この子を甘やかす悪い癖をそろそろ直さなくてはいけないなと

自分に言い聞かせながらも
私は彼の言葉を受け入れる事にした