二人分の初恋

僕はずっと穴を掘るのが好きだった

幼なじみの滝夜叉丸や親にまた泥だらけになってと小言を言われても僕の土いじりは収まらなかった


中学生になってからは穴を掘る口実の為に園芸部に入り
日々土をいじっていた

そんな事して楽しいの?と聞いてくる女の子がいたりもしたけど
人の趣味を否定する人との会話よりずっと楽しかった



13歳の秋
いつものように穴を掘っていると
唐突に思い出したのだ



五百年前の記憶

忍術学園で過ごした六年間に
プロ忍になってからの日々


そして死ぬ間際まで想い続けていた人の事を



思えば13歳で思い出せて良かったと思う

きっと僕の性格なら告白されたら特に考えもせずOKして、その後に思い出した日にはその子も僕も傷つく事になっただろう


高校生の時も
大学生の時も何回か告白されたけどすべて断った

なまえさんへの想いが捨てきれなかったからだ


五百年前の13歳だった僕は当時の気持ちがよくわからなかった
けれど年を取るにつれその感情は形を変え

僕はなまえさんを女性として好きなのだと自覚出来た


会いに行くのは勇気が必要だったけど
行動して良かった


この感情を理解出来た今だからこそ
きちんと伝えたい


けれどなまえさんの中での綾部喜八郎は五百年前の13歳だった僕だ

大人になった僕を受け入れてくれるまで時間はかかるだろう

一緒に居られるだけでも嬉しいのだ
焦らず待つ事にしよう


「おーい綾部、お前弁当は?」


考え事をしていたら昼休みになっていた

食満先輩に言われるまで気付けなかったなんて


「僕今日からお弁当持ちなんです」

「はぁ?!なんでいきなり?!」

「今作ってくれる人がいますので」


食満先輩と話しながら休憩所に向かう
僕の片手には家を出る時なまえさんに持たされた巾着

とりあえず、弁当としての機能は果たしてるから今日だけ我慢してと渡されたのだが

弁当にしては巾着の形がやけに歪だし、なんかでかい


「…それ、弁当?」

「多分」


お茶を用意し、巾着をあける
中には大きさの揃ったアルミホイルの塊が多く入っていた


「…おにぎり?」

「ですねぇ」


中身は大量のおにぎり
一つ一つの大きさはそこまで大きくないがそれでも一般的に弁当として使われる量ではない

とりあえず一つを手に取りアルミホイルをむいて頬張るとその大きさと数の意味が分かった


「おやまぁ、このおにぎりの具唐揚げだ」

「じゃあ他のおにぎりは?」

「えーっと、こっちはコロッケで
こっちは卵焼きですね
…ん、こっちはサラダだ」


具の大きさに合わせて米の量を調節したのだろう
だからおにぎり一つ一つはあまり大きく無かった

おかずの数だけおにぎりを握ったのだ
そりゃ数が多くなる


「随分料理上手な彼女が出来たんだな」


レパートリー豊かなおにぎりを見て食満先輩は感心の声をあげた

その言葉を聞いて僕も少し嬉しくなる


「こういう所に、僕は惹かれたんです」


弁当箱がないなら弁当なんて無理に作らなくて良いのに

作るにしてもこんなに沢山おかずを用意しなくて良いのに

なんて言ったら体が資本の仕事だろって怒られるんだろうな


「見て下さい、こっちのコロッケは肉じゃがが具になってます」

「工夫してんなぁ」


昨日のおかずでもあった少し甘い肉じゃがのコロッケを頬張りながら

珍しく早く仕事を終わらせて帰りたいと思い

午後の仕事もがんばる事にした