夢の続き

喜八郎の弁当を作り始めて一週間
限界がやってきた


おにぎりのみとなった弁当初日

帰宅した喜八郎に弁当箱どんなのが良い?と聞いた所弁当箱いらない
あのおにぎり弁当が良いと言われたのだ


弁当箱無しで弁当を作る為の苦渋の策のつもりだったのだがあれが気に入ったらしい

しかしやはりおにぎりに限定されるとおかずも限られる為
弁当箱の解禁を要求した所渋々OKしてくれた


どうやら多種多彩なおにぎりを随分とお気に召したようなので
弁当箱になってもお米の部分はおにぎりにしてあげようと思う


それにしても引っ越しでばたついていた為一人でのまともな外出はなんだかんだで初めてだ


簪で髪をまとめ
少ない荷物で家を出る


人も路線も多い電車は未だに慣れない

あぁ、買い物ついでに仕事も探そう

具体的な数字は聞かなかったが東京の家賃って高いのだな

北海道と倍近く違うと聞いてそれを年下の喜八郎に払わせるのはやはり心苦しい

お金はいらないと言われたが家賃だけでも半額払わなくては



田舎と違い品ぞろえの良い店ばかりで
こうも数が多いと迷ってしまうが良さそうな弁当箱を決め
本日の優先すべき目標はとりあえず達成された

仕事、どう探そう
喜八郎は私に家事をやって欲しいらしいから
手を抜かずに家事をするにもバイト、せめてパート位が良い


そう、ぼんやり歩いていた


田舎者が一週間そこらで都会になじむ訳はなく
人とすれ違う事のない田舎のつもりで歩いていたのが悪かった


すれ違いざまに人にぶつかってしまい
手に持っていた袋が投げ出された

幸い元々包装されていた為飛び散る事は無かったが
それでも先ほど買った弁当箱は床に着地する事となる


「あぁあ!す、すいません!ぼーっとしてました!」


結構良い値段のした喜八郎の弁当箱も心配だが今ぶつかってしまった人も心配だ
人にぶつかられて良い気はしないだろう

気分を害してしまったかと思うと申し訳なかった

咄嗟に頭を下げ謝罪の言葉を述べる


「いや、大丈夫だよ
それより君の荷物は?」

「あっ、は、はい!」


降ってきた言葉から怒りは感じず
むしろ私の荷物の心配をしてくれた

あわてて弁当箱に駆け寄り
再び袋におさめ安堵の息を漏らした私を見て

ぶつかった人の声色が少し変わった


「君は…」


改めて見たその人は

身長が高く
それに見合った少しがたいの良い体をした人だった

それよりも気になるのは

眼帯で隠された片目に
口元を隠したマスク



私の心臓の動きが

早くなるのを感じた




「雑渡さん…?」



こんなにも変わってしまった筈なのに


どうして私は

貴方だと気付けたのだろう