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多分自棄だったんだと思う

新学期早々
親友(少なくとも私はそう思ってる)がこの世を去った

いきなり全校集会でそんな事言われても受け入れられる訳がない
数日前まで一緒にしゃべって
一緒にお弁当食べて
気が向いた時に一緒に下校してたのに

事件の可能性がきわめて高く
死因もまだわからず彼女の葬式はまだ先になるらしい

早めの下校をと言われたものの
生徒会にはやる事がある

少しだけ仕事を片付け
私が帰路に立つ頃には学校には人の気配を感じなかった


外は雨


「…よりにもよって生徒会長の傘に手をかける輩がいるとはね…」


傘立ては空っぽ

あぁでもいっか


少し体が冷える位の方が
すっきりするかもしれない

元々人の少ない町とは言え今日は特にそれが目立つ

やはりあんな事件の直後だからだろうか



「ねぇ、ちょっと君」

「なんですか?」


雨合羽に傘をさした刑事
どれだけ雨に濡れたくないのだろう
かと言って私の格好も異常なのだけど


「なんですかじゃないよ…
そんなずぶ濡れでこんな時に出歩くとか警察も声かけたくなるって」

「…別に良いじゃないですか」


本当に、どうでも良かった
雨に濡れることも
事件のことも


「良くないよ…家どこ?
送ってくから」

「あっち…あ、だめだ
帰れない
私今日家に鍵忘れたんだった」


珍しく朝親と家を出て鍵を忘れたんだった
学校で連絡しようと思ってたらあの集会で…
あぁ、うっかりしてた


「…君家にも帰れなくてどうするの?」

「さぁ…ジュネスとか?」

「あのさぁ…そんなずぶ濡れの女子高生とか
僕じゃなかったら補導されてるよ?
ただでさえ今物騒だし」

「…」

「僕の部屋で良かったら来る?
シャワーと着替えくらいなら用意出来るけど…
あ、でも警察とは言えやっぱ初対面だと…」

「初対面じゃない」

「え?」

「私、貴方の顔知ってる
狭い町だから…」


人の顔を覚えるのは得意だ
だから私はこの人を知っていた
何度か堂島さんに怒られてるのも見ている


「そう、で、くる?」

「はい」


断る理由も無かったし
どうでも良かった




(…掃除したい)


着替えを借りてシャワーを浴びていたら浴室の隅にカビを見つけた
時折カビを気にしつつ冷えた体を暖める

少しだけ
落ち着いた気がして

無意識に泣いていた


「着替え、ありがとうございます」


サイズの合わないTシャツとジャージ
どちらも裾や袖が余る
いっそ下のジャージは脱いでしまっても良い気がする


「やっぱりサイズ合わないね
乾燥機終わるまで待ってね」

「はい」


親の仕事が終わるのは何時だろう
今日くらい早く帰って来ないかな

床に正座してぼんやり考えていると視界が反転した


「僕が言えた口じゃないけど、男の部屋にはほいほい来ちゃいけないよ?」

「そうですか」


視界には寝癖のひどい刑事と天井
フローリングの冷たさが背中から伝わる

押し倒されてるのだと理解しつつ
私はどこか冷静だった


「出来れば、優しくして欲しいです」


それだけ伝えると
刑事さんは先ほどと違う表情で一度口角を上げた


雨のせいだろうか

この人の手は
ひどく冷たく感じた