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私の高校生活最後の夏休みも、残りわずかだ


「先輩、そろそろ休憩しない?」

「ん、そうだね。ちょーどキリ良いし」


今日は後輩であり、彼氏の家で宿題だ

宿題と言っても私は既に終わっているので受験勉強なのだが


「ジュースおかわり持ってくる」

「悪いねー。あ、折角だから私のお土産一緒に食べようよ」


彼氏の家にお邪魔する、というのはもっと気恥ずかしいものかと思ったが意外にもすぐに馴染む事が出来た

やはり少しは抵抗があったが彼の根気強さと勇気には感謝したい
少なくとも今は来て良かったと思うからだ


「宿題、あとどのくらい?」

「あと少しだから今日中には終わるかな」

「じゃあ残り一週間は本当の自由を楽しめるね」

「うん」


水分と糖分を補給しながらお互いの進捗を報告しあう
来年は受験なんだから楽しむなら今だと、僭越ながらアドバイスもさせて貰った

「高校最後の夏、彼氏と海に行くなんていう人並み以上の青春を味わう事が出来て嬉しいよ」

「俺は先輩と海に行けて嬉しかったから」


しかし生りせちーの水着はすごかった
こう、スタイル云々もあるがまずオーラが違う
そんなりせちーをはじめとした可愛い後輩たちに囲まれた海水浴は今後忘れないだろう

こうやって鳴上くんと話す穏やかな時間は好きだ
難点があるとすれば


(やっぱり…罪悪感がある)


私と足立透さんとの関係だ

成り行きから始まり、この関係に味を占めた足立さんは私との関係を終わらせたがらない

浮気の定義は人によって異なるが私の状況は確実に非難されるものだとは分かってる
分かっていたが押しに負けたのだ

告げるべきだろう
だけど心地よいと感じてしまった新たな人間関係を手放す事を惜しく感じてしまってもいた

私の負担にならない程度に、彼は私を誘ってくれて
人並みの青春を味あわせてくれるからだ


「なまえ先輩?」

「あ、ごめん。ボーッとしてた」

「部屋、暑かった?」

「平気だよ!ちょっと色々考えちゃって…」


私の顔を覗きこむ無垢な瞳に心が痛む
本当に、私にはあまりにももったいない彼氏だ


「ね、先輩」

「ん?」

「今日、菜々子も堂島さんも夜まで帰ってこないんだ」

「ん?」


まっすぐに向けられた視線から
私は逸らす事が出来なかった


「…していい?」


その短い問いへの返答は
グラスの氷が溶けた音と重なった