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頭が痛い
喉が乾く
体が熱い


(かんっぺきに風邪だ…)


朝方夜勤で疲れて帰宅して
着替えるのすら面倒でそのままベッドに体を沈めた


そして起きたらこれ

何で僕がこんなことにならなくちゃいけないんだ

病院…めんどいなぁ
薬…どこだっけ…


「こーゆー時、彼女がいればな…」


手厚く看病してくれて
料理もうまくて可愛いよりは美人で
あと胸も大きい彼女とかいたら最高なのに…


『足立さん』


(…なんであの子が浮かぶかな)


頭をよぎったのは僕のセフレ
…胸は小さいけどあの子なら手厚く看病してくれるかもしれない


(…いや、駄目だろ
あくまで体だけの関係で、あいつもクソガキと付き合ってるし
何より僕のプライドが許さない)


散々突き放してきた
それも全部自分の為
変に好かれたくないが為にやってきたからこそ弱みを見せる気にはなれなかった


(堂島さんとか連絡したら来てくれるかなー…
…でもおっさんを部屋にあげるのもなー)


熱で頭がうまく回らない
誰にSOSを送るかも決まらないうちにまた意識が遠のいてきた


(…あー、やばいかも…)



──

…あれ、誰かいる?


「おや、起きましたか」


人の気配で目が覚め
うっすらと目をあけると僕の部屋に女子高生がいた
外はもう暗い
どうやら寝ていたようだ


「なんでいんの」

「…足立さん、送信メールを見返すことをおすすめします」


僕何か送ったっけ?
枕元の携帯を開くと送信メールが表示されていた

メールの内容は簡潔に
たった一言

ムリ

の二文字だけ


「…何これ」

「知りませんよ…足立さんが送ったんでしょ…
無視しようかとも思いましたが…
学校の帰りに寄って正解でしたね
鍵空いてたし」


どうやら無意識のうちに送っていたらしい
てか鍵しめ忘れてたのか
僕どんだけ疲れてたんだろう


「あー…そう」

「…よっぽど熱にやられてるんですね
いつもの減らず口がなくて不気味です」


熱で朦朧とする僕の言葉に呆れたように返す
ってか今気付いたけど寝間着に着替えてる
ついでに額にも何か貼られてる


「スーツのままだったので着替えさせましたから
結構大変だったんですよ、脱がすの」

「僕の裸勝手に見るとか君スケベだね」


散々お互いの裸見てるけど
あぁ、でも起きる前よりは楽な気がする
汗かいたからかな


「…今更何言ってるんですか…
ほら、体起こして
さっさとこれ食べて薬飲んで下さい
そしたら私帰りますから」


彼女の手元にあるのはお粥
…そういえばお粥とか何年かぶりに食べるな


「それ、味見した?」

「…しましたよ
そんなに不器用に見えますか?」


そう言って不機嫌な顔をした彼女だが
この子が料理が下手な所は想像がつかない

きっと人並み以上には出来るのだろう


「僕今弱ってるし、なんか盛ってない?」

「風邪の時くらいもう少し気弱になっていただけませんかね…?」


僕の悪態を受け
怪訝な表情の彼女はお粥を自分の口に運び
ゆっくりと味を確認した


「…うん、だいじょ…んぅッ!」


彼女の頭を掴み
無理矢理引き寄せると唇に噛みついて乱暴に咥内を犯し
味を確かめた


「あー…駄目だ、味わかんないや」

「…そう、ですか」


僕と同じように少し息を荒げ
頬を染める彼女の反応は少し久々だった

一度離した顔を
次は彼女の肩に落とす


「食べないんですか?食欲ありません?」

「後で食べる」


この子は何時も無抵抗だ
風邪引いた人間に抱きつかれても何もしようとしない


「…しませんよ?」

「当たり前じゃん
盛ってんの?」

「じゃあ離してくれませんか?
まさか人にうつして治す気です?」

「ガキは風邪なんか引かないよ」

「…とんだ偏見ですね」


諦めたのか
彼女も僕の肩に頭を乗せた


「…、君の体冷たいね」

「足立さんが熱いんですよ」


風邪を引くと人恋しくなるとはよく言うけど
僕に限ってそんな事ある訳ない

これはきっと気まぐれ
熱で何時もと違う事をしたくなってるだけだ


「君の顔、どっちかと言うと可愛い系じゃないよね」
「失礼ですね」
「褒めてんの」
「はい?」