その日はきっと来ない

※月と深海魚番外


「なまえさん、この時代の結婚ってどうやるんですか?」


この世界は僕が住んでいた世界よりずっと未来で
様々な常識が僕の時代から変化している

まず僕はこの世界ではまだまだ子供らしい
室町なら元服はもうすぐだと言うのに聞いた所によると18までは基本的に皆子供
20を過ぎても寺小屋で勉学に励む事も何ら珍しくないとか


「なんだ突然だね
結婚か〜、まず平成では結婚出来るのは男は18、女は16からだ」

(あと五年もかかるのか…)

「で何だったかなぁ、確か夫婦になる人とはまた別の人にも書類に記入して貰うんだったかな?
紙に色々書き込んでそれを役所って言う所に届けるんだ
それで書類上は夫婦になれる
あとはやる人やらない人様々だけど
男は女に指輪をあげたり、結納や結婚式や披露宴やったりかなぁ
あんま詳しくは私も分からないんだけどね。何せ結婚した事無いし」


そう言ってなまえさんは笑っていた


「18歳まで結婚出来ない世の中になるんですね」

「一般的には18でも早いよ
大体20半ば位から皆結婚しだすかなぁ」

「なまえさんは?」

「はっはっはっ、分かり切った事を聞くな」


元服まであと少し
それで僕は大人になれると思っていた

けれどなまえさんにとって僕が大人になるのはまだまだ先なんだ


「平成は大人になるのに時間がかかるんですね」


貴方との距離は埋まらない


「逆に言うとこの時代は長い時間子供でいる事が許されるって事だよ
私にしてみれば早く大人にならなくちゃいけない喜八郎の時代は大変なのだと思うよ
私が喜八郎位の頃なんて将来なんて考えようともせずただ遊んでいたからね」


僕の倍位生きてる筈なのに働いていないなまえさんは今でも遊んでいるように見えるけれど


「とりあえず、何時戻れるか分からないんだから
後悔の無いよう束の間の平成を生きておくれ
そんな訳でー!これから皆で甘味処にいきまーす!」

「おー」

「雑渡さんにも伝えてくるよ
私も用意があるし、あまり汚れない程度になら穴でも掘ってると良い」

「はーい」


なんだろう
上手くはぐらかされた気がする
でもそもそも僕が何を聞きたかったかもよく分からないからはぐらかされたも何もないのかな

雑渡さんやなまえさんの準備が終わるまで一時間位かな
小さいターコちゃんなら掘れるかな


「なぁ、喜八郎」

「はい?」

「…平成とか、室町とか関係なくさ
大事なのはどう生きるかだと思うよ」

「はぁ」

「生きたいように、生きれば良い」

(無職が言ってるかと思うと面白い言葉だなぁ)


生きたいように

忍者になんてならずに済むならなりたくない

なまえさんのような生き方が許される時代なら僕だって穴だけ掘って暮らしたい

でもそれは許されない
生きる為
殺されない為に僕は忍者を志している


以前忘れないよう手裏剣の練習をしているところになまえさんが来た

頑張ってるねと声をかけたその表情は
何時もと違ったのを覚えている


僕は身を守る練習を
人を殺す練習をしている

それをなまえさんはどんな気持ちで声をかけたのだろう


(あの人は色々な物を受け入れてくれる
けれど、何故受け入れたかは話してくれない)


聞けば教えてくれるだろうか
あの人は意外に頭の回転が早いから誤魔化されるかな

僕はなまえさんを特別に思っている

でも子供の僕が
僕自信もよく分からないこの感情を伝えても、伝わらない気がした

じゃあ、大人になったら?

けれど僕が大人になる時は忍びになるという事

人を殺めた僕の言葉をなまえさんはどう受け止めるだろうか


きっと彼女は優しいから受け入れてくれるかもしれない

けれどそれ以上に彼女は苦しむだろう
あの人は肝心なところで不器用だ


そうなると困った



僕は一体何時想いを告げられるのだろう