4夜目

「やはり一人で寝るのはダメですね」
「諦め早いかよ」

一人で寝てみますと言って帰っていった男(29歳)がやっぱり一人じゃ寝れないと訴えてくるまで1日掛からなかった

入間さんがわざわざランチに呼び出して来たかと思ったら一番最初の話題がこれだ
てかこいつわざわざ私の職場付近まで車飛ばしてきたのかよ
暇なのか必死なのかどっちなんだ

「しかし平日はお互い仕事がありますね」
「…その通りです。私入間さん程ではないですが忙しいです」

暇なのか?と一瞬疑ったが入間さん、本来土日は休みだが先日のような事は珍しいらしい
普段は何かしら持ち帰りの仕事があったりそもそも仕事があって休みじゃなくなったりするとか

そういえば金曜日も明らかに仕事帰りの入間さんがバーに来たのは11時を回っていたし
一体何時に退勤したのだろうかと考え、少しばかり同情した

「そこで提案なのですが」
「はい」
「私の部屋の合鍵をお渡ししますので」
「はい?」

銀色に光るディンプルキーを見せ
入間さんは何時もの静かなトーンで話しを続けた

「私の部屋を好きに使って頂いて構いませんので夜は来て頂けませんか?」
「それ、めちゃめちゃ都合の良い女になりません?」
「私がなまえさんの家に行っても良いのですが通勤が車なので面倒なんですよ」
「はぁ」
「朝はキチンと送りますので、睡眠だけこちらで済ませて欲しいんです
勿論他の事にも使って頂いて構いません」

必死か
この人は一体どれだけ寝たいのだろう

「そんな簡単に合鍵あげて良いんです?私悪い人かもしれませんよ」
「だとしても私の手柄が増えるだけです」

警察官に対してこの言葉は間違いだったか
まあ入間さんの部屋は綺麗だし居心地良いしアクセスも良い
光熱費が浮くくらいの感覚で少し通いつめて見ても良いかもしれない

この人は本当に寝たいみたいだし
私も人と寝るのは好きなのだから何時になったら飽きるのか試してみても良いかもしれない

「じゃあ早速今夜勝手にお邪魔します」
「良かった、先に寝ていても構いませんので
私物なども場所さえ決めて頂ければ好きに置いて良いですし何か必要なものがあったら仰ってください」

至れり尽くせりか

そしてしれっとランチも奢ってくれた
至れり尽くせりだ


*****


(…確かにこのベッドに一人は少し寂しいかも)

食事は自宅で済ませ、シャワーも浴びて本当に寝るためだけに入間さんの部屋に来た
私が来る事を見越していたのか新しく用意されていたサイズもぴったりのパジャマに身を包み入間さんのベッドに身を沈める
私は入間さんより小柄とは言えベッドの余白が随分広く感じた

(入間さん背高いからうちみたいなシングルベッドだと少し窮屈なのかな
それで大きめのベッドを買ったは良いけど人肌恋しさが増したとかだろうか)

ゴロンと寝返りをうち、スマホを確認する
入間さんからの連絡は無いまま時刻は11時を回っていた

『おやすみなさい、入間さん』

一言だけ送った後、動物がお辞儀をするスタンプも押し
私は彼氏でもないし友人と言っても良いかも分からない
でも決して体の関係も無い形容しがたい関係の男のベッドで一人眠りについた。