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「こんばんは、足立さん
お仕事帰りですか?」

「こんばんは、なまえちゃん…は学校帰りじゃないね」

「はい。ご飯食べたらデザートがほしくなったので
アイスを買いに来ました」

夜のジュネスにて足立さんに会った
時折ここのフードコートで足立さんを見かけるがその時と違って少し堂々として見える

いや、フードコートにいる時がこそこそしている、というのが正しいのかもしれない

そんな彼の空気から察するに今日の仕事は終わったのだろう


「私服、初めて見たかも」

「そういえばそうですね。こんなことならもう少しお洒落すれば良かったです」


用件はアイスの購入だけだった私の服装なTシャツにショートパンツ、サンダルといったラフな格好だ
同級生位なら構わないのだけど大人の人に会うとなると少しだけ恥ずかしい


「足立さんは何を買いに来たんです?」

「僕は晩ご飯をね
この時間は弁当がやすくなってるんだよ」


そうへらっと笑いながら答える足立さんを見て
小さな疑問が浮かぶ


「…そういえば足立さんの食生活ってどうなってるんです?」

「ん?君も大人になればわかると思うけど
結構めんどうなんだよね
だからカップ麺とか、弁当とか」

「…あの、刑事さんって体が資本では?」

「うん、だからちゃんと食べてはいるよ?」


その割には足立さんの体は細身だと思う

どうしようか、これはいらぬお節介だろうか

けれどきっと私と足立さんはそこそこ仲が良い
きっと、受け入れてくれる


「…あの、良かったらちょっと家まで来て下さい」


気付いた時にはその台詞を発していた


「その…月並みな台詞ですが
作りすぎたので
よろしかったら食べて下さい」


私の家からジュネスは近い
玄関の足立さんを待たせぬよう手早くそれを用意し
緊張しながらもそれを差し出した


「先に説明しますと…
うちの両親は健在ですが、二人とも仕事が大好きであまり帰宅しないんです
朝着替えとか取りにふらりと帰ってくる時はありますが…」

「へぇ、その年頃って親を煩わしく感じる子が多いから皆羨ましがるでしょ?」

私を差し出した包みを受け取り足立さんは答える
これを差し出すのはもちろんだが家庭の事情を説明するのも恥ずかしいものなのだと知った


「…そうですね
おかげで結構好きにやってます
けど、一応こんな事になる前に花嫁修業という名目で家事は全般教わったんですよ
おかげで、両親は安心して家をあけられる訳です」

「ずいぶん手間のかからない子供になったね」

「ここに行き着くまで結構かかりましたけどね
基本的には私凡人ですから」


要領は良い方かもしれない
けれど才能ある人の飲み込みの早さと比べれば私のそれは凡人にすぎないのだ

料理の腕も下手ではないとは思う
けれど特出したものでもない


「で、その
一応、両親のご飯もなるべく作るようにしてるんです
無理に作らなくても良いんですけど
もしかしたら朝帰ってきた時お腹空いてるかもしれないしって…」

「律儀だねぇ」

「…でも、正直…無駄にしちゃう事も少なくなくて…
当たり前なんですけどね
何時帰ってくるかわからない人たちの分までご飯とか…
だから、良かったら食べてくれませんか…?」


少しだけ嘘をついた
少なくないなんて本当は嘘

仕事が大好きな両親は娘の手料理の味なんて知らない


「僕が貰って良いの?」

「…利害の一致です」

「そこは素直に食べてほしいって言ってよ」


足立さんのその言葉に
私は急に照れくさくなって

その後の会話はよく覚えていないが
彼は快くそれを受け取ってくれた事だけは覚えている