8/21

「もしもしあい?うん、私もうつい…って、えぇ?!
マジ?!あー…でもそりゃ仕方ないね…
うん、私は大丈夫。むしろそっち心配してあげて
それじゃ」


今日はせっかくの夏祭り
浴衣まで着てきたのに今し方、私一人で回る事が確定してしまった

これが私服ならまだしも浴衣で一人でお祭り…

ダメだ、ハードルが高すぎる
そして生徒会長という立場上嫌な噂も立ちそうだ

悩んだ末にこのまま祭りに行かず帰るという選択をし

歩みを進めると身に覚えのある寝癖頭が目に入った


「足立さん、お仕事ですか?」

「えっ?!あ〜…うん、そう
そうだよ!」

(サボりか…)


不意打ちだったのか
やけにあわてたそぶりとその口言いからいつものさぼりだろう

相変わらず困った人だ


「浴衣良いねぇ、似合ってるよ
そういえば祭りがあるんだっけ?」

「えぇ、でも私帰ります」
「もう?」

「一緒に回る友達からドタキャンくらって…
一人で回るのも色々あれだからもう帰ろうかと」


生徒会長が一人で祭りに居たらしい

あぁ、考えただけで本当に嫌な噂だ


「えー、折角着たのに勿体ない
じゃあ僕と軽く回ろうよ」

「え?でも迷惑じゃ…」

「そんな事ないよ
僕も少しは祭り気分味わいたいしさ
僕でもナンパ避け位にはなると思うけど、どう?」


生徒会長が刑事と祭りを一緒に回っていたらしい

そんな噂が頭をよぎったが相手は刑事だ
警察と生徒会長ならば堂々としていれば逆に変な噂は立たない気がした

それこそ私の日頃の行いが良いからこそ想像出来た事だが


「…じゃあ、一周しましょうか」


せっかく浴衣まで着たのだ
ここは好意に甘える事にした


「すいません、綿飴下さい!」

「なまえちゃん綿飴好きなの?」

「い、いけませんか?」

「ううん、可愛いと思うよ」


可愛い
そんなたった四文字の言葉に心が躍ってしまった

足立さんにとって私なんてただの小娘にしかすぎないだろうに

しかめっ面のまま綿飴を舐めると
想像通りの甘さが広がり

眉間の皺は一瞬で消えた


「綿飴、大好きなんですけどお祭りでもないと買えないのがネックで…」

「綿飴作るやつとか売ってない?」

「…だめです。そんな悪魔の機械なんて買った日には私糖尿病になりかねません…」

(…そんなに好きなんだ)


きっと、たまに食べるからこそこんなにも好きなんだとも思う
けれどそれが勘違いだった時はカロリー的にも惨事が予想されるので
このままで良いのだ


「あ、射的だ」

「ねぇねぇ、あれとってあれぇ〜!」

「うぉっし、任せろっつーのって、あれ?」

「へたくそー!」


カップルがそんな些細な事で喧嘩しているのが見える
そう簡単に落とせたら苦労はないし
射的屋は成り立たないだろう

綿飴のなくなった割り箸をかじりながら痴話喧嘩を見つめつつ
ぼんやりと考えていると

足立さんが射的へと歩みを進めた


「ね、なまえちゃん何か欲しいのある?」

「え?」

「良いから、言ってみて」


おじさん、一回分ねとお金を払い
足立さんは銃を構えた

欲しい物、と急に言われても困るが
ざっと景品を見渡す


「じゃ、じゃあ…あの万華鏡」

「ん」

「!すごい!一発だ!」


見事の一言につきる
私が指を指した万華鏡はきれいに落下し
その所有権は射的屋から私達へとうつったのだ


「あと二回かぁ、あとは?」

「じゃ、じゃあフロスト君!」

「ほい」

「わぁ!」

「折角だから隣のジャックランタンも」

「足立さん凄いです!パーフェクトですよ!」

「あはは、現職なめないでよね?」


私の両手はたった一瞬で埋まってしまった
商売上がったりだよ〜と笑うおじさんから受け取った戦利品をとても嬉しく思う


「足立さん、ありがとうございます!」

「いーのいーの、浴衣姿の女子高生とお祭り回れたんだからこの位さ」

「もう、そういう事言わなければ格好良かったのに」

「えーほんと?」

「ほんとですよ」


約束通り
一周だけ回った所で私たちはお別れとなった

しかし別れは惜しかったし

同時に鮮やかな射的の腕を見せた足立さんを少し格好良いと思ったのも事実だった


(ギャップってやつかな)


思い出しては
顔に熱が集まるのを感じ

ぬいぐるみを強く抱きしめながら帰路へと立った