もしも左馬刻と添い寝をしたら

「今日はウサちゃんは留守だぜ」
「いやそれは知ってますが左馬刻様がいるのは何でですか」

何時もの様に入間さんと添い寝する為に彼のマンションに向かっている途中、入間さんから急遽帰れなくなったとの連絡が入った

けれどももうマンションの近くだったし、ここまで来て帰るのも面倒だと思ったのでそのまま部屋を借りると連絡をしたのだ

そして部屋に来たら何故か我が物顔の左馬刻様がいた

「銃兎の野郎が帰れなくなったから代わりに俺様が来てやったんだろうが」
「何でそうなるんですか。てかどうやって入ったんですか」
「んなもんどうにでもなるんだよ」

あ。これはヤクザ相手に詳しく聞いちゃいけない事な気がするぞ
というか入間さんはこれを知っているのだろうか
いや知ってたらあの入間さんが止めない訳ないよな
間違いなく無断だし不法侵入だろうなあ

「明日の朝は俺様が送ってやるよ、だから抱かせろ」
「電車賃程度で抱かれる程私は安く無いですよ」
「あ゛ー?何期待してんだ?銃兎みてえに寝てやるって意味だよ」

ものすごく腹の立つ顔でそう言われて、思わずイラっとしてしまった

左馬刻様は私と入間さんの関係が不思議で仕方ないのだろうという印象は確かにあった
しかしそれをわざわざ確かめに来るなんて思わないでしょう
仮にもこの方はヤクザのお偉い方だしあのMTCのリーダーなのに暇なのか

そして堂々とリビングでタバコを吸っているがこの状況を見たら入間さん何て言うだろう
あの人は毎回換気扇の下でしかタバコを吸わないのに

かと言って止める勇気も持ち合わせていないので
何時もより騒々しい空気清浄機の音を聞きながらぼんやりと眺めていた


*****


「しっかしつまんねー寝室してんな」
(ヤクザもパジャマって着るんだなあ…)

用意周到に、きちんと自分のパジャマ(部屋着ではなく意外にもパジャマ)を持参してきた左馬刻様は慣れた手つきで洗面所から予備の歯ブラシを探し出して歯を磨き
さっさと着替え、私は口答えも面倒くさいので大人しく別室でパジャマに着替えて左馬刻様と寝室に来た

入間さんの部屋は寝室に限らず、基本シンプルにまとめられている
それを左馬刻様風に言うならばつまらない、なのだろうけどオシャレでセンスがあると私は思う

「で、いっつもどうやって寝てんだ?」
「どうって…普通に一緒にベッドに入って寝るだけですよ。決まった形とかある訳じゃないですし」
「ほー、まあやりたいようにやっか
ほら、あの左馬刻様が一緒に寝てやんよ、さっさと来いや」
「…はあ」

忘れそうなので再確認するがここは入間さんの部屋だ
何でこんなにも人様のベッドに我が物顔で入って手招きできるんだこの人は

「狭えな、もっと寄れや」
「左馬刻様が伸び伸びしすぎなんですよ、その長い手足をもうちょっと畳んでください
入間さんよりおっきいんですから」
「あ゛ぁ?俺様に命令たなまえは何時からそんなに偉くなったんだ?」
「安眠したいんですよこっちは」

慣れた筈のベッドなのにやはり慣れない
手招きされて潜り込んだベッドの中で左馬刻様の胸に顔を埋めると抱き寄せるように背中に手が回った

左馬刻様のふわふわとした髪の毛が私の頭をたまにくすぐる
入間さんとは髪質が全然違うし、嗅ぎ慣れたタバコの匂いもいつもと違う

「なあ、何時もこんな感じで寝てんのか」
「そうですね、大体こんな感じです」
「はっ、それで一度も手ぇ出さねえとかホントにあいつ不能なんじゃねーの?」
「さっさと手出す人なら一緒に寝てないですよ」

わかんねー、と頭上から小さく聞こえた
面倒くさいので聞こえないフリをして私は完全に寝る体制に入る

左馬刻様は入間さんより体温が高いみたいでポカポカする
入間さんより大きい体も、黙って抱きしめてくれる分には安心感があった

「お前体温たけーな」
「入間さんによく褒められます」
「あっそ。…よく寝ろよ、なまえ」
「…私は子供じゃないですよ」

ポンポンと頭を叩かれたかと思うと左馬刻様も寝る体制に入ったらしい
そしてあんだけ偉そうな事を言っておきながら入間さんに負けず劣らず
寝息が聞こえて来るまでそう時間は掛からなかった

少しだけ顔をあげて覗き込めばヤクザの面影の無い左馬刻様の顔がある
入間さんと系統は違うがこちらも良く出来た綺麗な顔だ

私はよく知らないがやはりこの人もあまり寝れてないのだろうか
ヤクザに警察、とくに前者は恨まれがちだろうし心休まらないのかもしれない

そう考えると入間さんも左馬刻様も、人肌に触れながら安心して眠りたくなったりするのだろうか

(寝顔は幼いなあ…というか年下だもんな
黙ってりゃ可愛いもんだ)

「おやすみ、左馬刻くん」

聞こえてないのを良い事に

そう声を掛けて私がされたのと同じように頭を撫でてやると寝息に混じって随分と嬉しそうな声が聞こえてきたのは私だけの秘密にしてあげよう