女のマウント

「白膠木さん、今日のコメントもキレッキレでしたね〜」
「ははーどうもおおきに」

バラエティ番組で一緒になった今売り出し中のグラドル
事務所のゴリ押しなのか分からんがバラエティにも関わらず気の利いたコメント一つ出来ず
本当に容姿だけを売りにしたような女が今俺の控え室でメチャメチャ分かりやすくモーション掛けてきよる

今をときめく売れっ子の簓さんやからな、媚び売っときたいんやろな
俺くらいになれば仕事の口利きも多少出来るしな
でも俺が口利き出来るのも今まで仕事出来る奴しか紹介しなかったっていう信頼があるからなんやけどな

「ねえ今度飲みに行きませんかぁ?白膠木さんって普段どんな所で飲んでるんです?」
「大体友達ん家で鍋でも囲んでだらだら飲んでるわ。高い店とか合わへんねん」
「謙虚〜!私もお邪魔したいですぅ〜」

白々しいわ
第一ほぼ初対面でいきなり宅飲み誘うってどういう距離感や
炎上商法目的なんやろか
ジリジリと距離を詰められているし、下手にくっついたところを写真に撮られでもしたらめんどいなあ
どうあしらうかなあと悩んでいた所で机の上の俺のスマホが震えた

『見て見てー結構盛れてなーい?』

差出人はなまえや
自身の働くアパレル店のSNSにあげる為の写真を撮るのも仕事の一環であるなまえはたまにこうやって仕事中でも自撮りを送ってくる
わざわざ送ってこんくてもちゃんとチェックしとるんやけどな
言わんけど

ええ感じやんと何時ものように短く返事を返し
親指を立ててる変な動物のスタンプを送った

「あっ、もしかしてその子彼女ですかぁ?」
「んな事あらへんよ、ただの友達や」

人のスマホ見るなんて行儀の悪い事する女はどうかと思うんやけど
あざとく人のスマホを覗いて来てカマを掛けてきた
ここで肯定すればそれこそ俺が炎上させられかねんし週刊誌が嗅ぎ回るかもしれん

なので否定する事しか出来なかった
まあ実際彼女じゃないんやけど

「良かったぁ、確かにその子も可愛いけど所詮一般人ですよねえ、白膠木さんには釣り合わないっていうかあ…」

確かに彼女ではないけど
それでもなまえは大事な人やった
その後も女は言葉を続けようとしていたが無意識に俺がそれを遮っていた

「…今何言うた?」

気付けば自分でも驚く程ドスのきいた声が出とった
きっと左馬刻の影響やろな

「えっ、その…」

唐突に見ず知らずの女にマウント取ろうとして少しでも反論されたらこれか
喧嘩向いてへんなら謙虚に生きれや

控え室に入られた時から詰められる一方だった距離が今初めて遠のいた
そうやな、そうやって数歩引ける女の方が賢いで
そのクソ甘ったるい香水の匂いもお陰で少しは紛れるしな

「整形しまくりが調子に乗んなや」

そうとだけ吐き捨てて控え室を後にした
あーあー、俺これでもプロなのにやってもうたなあ
明日からグラドルみーんなに嫌われとったらどうしよ
まあ俺のが面白いからどうにでもなるか

気にせんとこ


「…なあなまえ、前にほしい化粧品あるって言うてへんかった?」
「何いきなりー?欲しい化粧品何ていっぱいあるよ?何?買ってくれんの?」
「おう、好きなだけこうたるわ」
「えっ、ちょっとどうしたの簓」
「折角だから服も一式買ったる、ええな?」
「えっえっ、だからまじどうしたの?税金対策か何か??何なわけ??」
「ええから、それで着飾っとけ」
「はあ??」


お前より良い女、俺はまだ見た事ないで