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あの子が風邪を引いたらしい

心配をしたのは事実だけど
お見舞いという名目なら堂島さんにサボりがバレてもあまり咎められないだろうというのもあった
(恐らく女子高生と携帯でやりとりをしてる事の方が怒られる)

お粥とスポーツドリンクに、プリン。
念のためお粥は三つ買ったしこれをドアノブに掛けてさっさと退散する筈だった

あまりに真っ赤な顔のなまえちゃんがドアを開け
中に入って欲しいと言われてもさすがにまずいと断るつもりだったのに

同情心に負け、結局お邪魔してしまった

実際彼女の両親はこの時間はまず自宅にいる事はないのだが仮にも刑事という立場上好ましくはない


それにしても
あまりに僕に対して警戒心がない

もっと早く出会っていたかったと
もう何度目かの後悔をした


──────────


「ごちそうさまでした、美味しかったです」


たかが温めるだけのレトルトを彼女は美味しそうに食べていた
風邪の時なんてただでさえ味が分からないのにお粥に美味しいも何もあるのだろうか


「それは良かった、プリンも食べる?」

「はい」


食欲はあるみたいだ
これならきっと長引く事もないだろう


プリンを頬張りながら
もう何度目かの僕へのお礼を彼女は述べる


皆に慕われている生徒会長様がだ


「君もさ、運が悪かったよね」

「え?」

「風邪引いたってのに、僕くらいしか都合の良い人いなかったんでしょ?」


思わず
口に出た

彼女は生徒からも、教員からも、この町の人からも慕われている

今、ここにいる僕の席は本来別の誰かがいるべき場所なのは分かっていた


「何を…言ってるんです?」

「なまえちゃんはさ、友達もたくさんいるでしょ?
こういう時はさすがに僕以外にも声掛けないと」


僕である必要はない
そう続けるつもりだった


「私は!足立さんにしか声を掛けていないです!
貴方に心配して欲しくて、貴方に、助けて欲しかったんです!」


先程までの穏やかな空気からは想像もつかない程

はじめて聞く彼女の大きな声に驚いた


「なまえちゃん、熱のせい?
何を言って…」


確かに
彼女との時間が僕は好きだった
会話が、空気が、どれも心安らいだ

けれど当然ながら
そう思うのは僕だけじゃない

彼女の沢山ある人脈の中で、たまたま都合の良い人物なだけだと思っていて
それを僕も利用させて貰っていたつもりだった


「確かに…熱のせいです」

「だよね、今日はもうゆっくり…」

「熱でもないと、こんな事言えないです…
私は…他の誰でもない、足立さんが…良いんです…
貴方が…」


しまいには
彼女は泣き出してしまった

それでも

僕が良い

確かに彼女はそう言った


「ねぇ、なまえちゃん
それが本当ならさ」


試してみるつもりだった

もっと遊べるかどうか


僕は知りたくなったんだ


「僕の彼女になってくれる?」