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(…風邪か)


鳴り響く電子音が示した数字は38度半ば

テストも近いというのにまさかの風邪を引いた


そして風邪だというのに

相変わらず、目が覚めた時にはこの家には私一人だった


学校に連絡を入れ
大人しく布団に潜る

親には連絡を入れない

どうせ何もしてくれないからだ


今に始まった事ではない

ずっと、私の両親はこうなのだ


良い子である事を
あの人たちは喜んだ

手のかからない子である事を喜び

大好きな仕事に熱中した


少しでも気を引きたくて
料理を覚えたがあの人たちはそれもよく知らない


(…同じ家に住んでる筈なのにあの人の方がよっぽど会うな…)


脳裏に浮かぶのは
刑事さんらしくない刑事さん


(…迷惑かな)


風邪が故の心細さか
無性に会いたくなった


『風邪引いちゃいました。』


何気ない、何時も送るような簡潔なメールを送り
気恥ずかしさに思わず携帯を握りしめると間髪入れずに携帯が震えた


『大丈夫?病院は行った?』


素早い返事に普段ならサボってるのかと邪推するが
今は単純に嬉しかった


『家に一人なので病院には行けてませんが常備薬はあるので何とかなると思います』

『大人はなかなか仕事を休めないからね
欲しいものある?迷惑じゃなかったら玄関に掛けておくよ』


来てくれるんだ

その返事に
思わず心が躍った


─────────


それからずっとソワソワしていた
熱を忘れるかと思う程だった

玄関に人の気配を感じたところでゆっくりとドアを開けると確かに足立さんはそこにいた


「えっ?!だ、大丈夫?!なまえちゃん顔真っ赤だよ」

「あっ、はい…!多分」


マスクはしてるのにそんなに赤いのだろうか


「じゃあお大事にね
何かあったらまた…」

「あ、あの…」


うつしてはいけないのに

帰すべきなのに

熱があるからか
冷静になれない


「お粥…あっためてくれませんか?
今火を使うの怖くて…」


咄嗟に出た嘘だった
レトルトのお粥を温めるくらい、難しくもない

さすがに警察が女子高生の家に立ち入るのは気が引けるのか
彼はそれはちょっと…と言う中

ポツリと


「…どうせ夜中まで誰も来ないんですから」


という私のつぶやきで

同情からか


家に入ってくれた