月形へ

夕張では2回も燻されてしまい、最後まで良い思い出が残らないまま月形を目指す事となった。
月形…あまり栄えてはいないけれど住むならその位の方が丁度良いだろうか。

「イランカラプテ」
「!お前アイヌ語がわかるのか?」
「ええ、私は一時期アイヌの村にお世話になっていたので。
狩りの仕方や薬草の知識はアリシパさんと一緒ですよ」

二手に分かれて月形に向かう事になり尾形さん、牛山さんのほかにまた新たに2人が加わった。
尾形さんと出会ってからと言うもの一気に知り合いが増えたし必然と会話も増えた。
入念に設定は練っていた為ボロを出す事は無いが嘘をつき続けるのも複雑ではある。

子供は嫌い、とまではいかないがどう対応して良いか分からないから苦手だ。
けれどアシリパという少女、年齢よりも落ち着いており対応も苦ではない。
狩猟とアイヌと言う共通の話題も彼女との距離を縮める切っ掛けとなった。

しかしこんな少女も金塊を探しているのだろうか。
尾形さんが彼女を鋭い目で見ていたのを察するに何か理由がありそうだ。

「本当にお前も尾形なのか?」
「遠縁ですので…あまり似てないかもしれませんが百之助さんとは本当に親戚ですよ。
彼が北海道に任務で来た事で交流が復活したんです。親を亡くしてから百之助さんしか頼る方がいなくて…本当に助かりました」
「…そうか、嫌な事思い出させてすまない。疑って悪かった」

杉元さんは元軍人らしいが本当に軍人はどいつもこいつも疑り深い。
それだけ優秀じゃないと金塊など手に入れられないのかもしれないがいちいち肝が冷える。
しかし杉元さん、尾形さんを信用していないのだろう。
尾形さんへの態度があからさますぎる。
お陰で私の事も最初っから嫌いまでは行かなくても良い印象は無さそうだ。

剥製小屋を脱出する際には他の兵士に罵声を浴びせられて殺され掛けたらしいし尾形さん本当に嫌われてるな。
尾形を名乗るの、明らかに利点よりも欠点の方が多い気がして来た。

*****

「えーっ百之助さん3羽獲ったんですか?
私2羽だから負けちゃったじゃないですか」
「なんだ、なまえも罠を仕掛けてたのか?
二人そろって今朝からいなくなったと思ったら」
「自分の食い扶持くらい自分でどうにかしたいじゃないですか」

あの後、ヤマシギを捕まえようとアシリパさんは罠を張っていた。
しかし数はあったもののそれに見合うだけのヤマシギを捕まえるのは難しい気がしたのでこっそりと自分でも罠を張ったのだが結果として彼女と同じだけ捕まえる事が出来た。
狩りでは私の方が先輩ですので、と年上風でも吹かすつもりだったのだが尾形さんにあっさりと邪魔された。
見てみろと言わんばかりの尾形さんの顔がどうにも腹が立つが私は役立たずではないと言う事は二人に周知出来たようなのでまあ良しとしよう。

「残りはチタタプにします?」
「そうだな、チタタプにしよう」

ひとまず脳みそだけは頂き(尾形さんは内臓が嫌いなのか何時も避ける)ヤマシギの残りはチタタプにする事になった。
尾形さんにも何度か振る舞った事はあるが、皆で叩くものだとアシリパさんに言われて一度私と顔を見合わせた。
大体私が一人でやってましたからね。たまに手伝いと称してやらせた事もありましたがその時は逆に私はやりませんでしたしね。

ある程度叩いた所で尾形さんは私の番だと言わんばかりに刃物を渡す、この流れはアイヌの村以来なので少しばかり懐かしさを感じた。

「なまえ、チタタプ言わないのか?!」
「いや、言ってどうするんですか?」
「そんな…アイヌの知識があるって…」
「はい、アイヌの知識はありますよ。
でも別にチタタプって言った所で味は変わらないじゃないですか。だから私は言いませんよ」
「尾形もチタタプ言わねえし…尾形組冷めすぎだろうが…」

何なら一人でやっても皆でやっても味は変わりませんよ、まで言いたかったが余計な一言なので飲み込む事にしよう。