夕張にて

「夕張かー…土を掘るのは性に合わないんだよなあ…。
暮らすなら別の所かな…」

刺青が夕張にあるとの事で私達は夕張にやって来た。
そもそも私は金塊に物凄く興味がある訳ではないのだが、それでも小樽には戻れ無さそうだし尾形さんに着いていくついでに新しく住む場所を探していた。

夕張…炭鉱の町で資源は豊富だがイマイチ決め手に欠ける。
尾形さんはまた用事があるらしく、一人の私は尾形さんと狩った毛皮なりを売りにきた訳だ。
今回も買い叩かれる事が無く夕張の町を歩いていた。

「…シロクマ?北海道にシロクマっていましたっけ?」

そんな時、町中には不釣り合いな毛皮が歩いたのが身えた。
人里にクマが降りてくるなんて大問題だが動きがおかしいしその見た目はもっとおかしい。
どうしてシロクマがこんな所にいるのだろう?
見せ物か何かだろうか。

「おい、シロクマを見なかったか?」
「ああ、見ましたよ。あっちに走って…」

そう思っていると尾形さんがやってきた。用事は終わったのだろうか?
そして尾形さんの口からもシロクマという単語が出てきた。

シロクマに用事があるのだろうか?
あちらに行きましたよ、と指を指した所で気付いた。
あれ、この流れは何だか嫌な予感がする。

「よし、お前もついて来い」
「やっぱりぃ!!」

尾形さんはとことん人使いが荒い。

*****

「ははッなまえ、トロッコに乗るのは初めてか?」
「初めてですよ!出来ればもっと!別の機会に乗りたかった!
てか何で私も乗るんですか?!」

どうやらあのシロクマが刺青を持っているらしくその為に追いかけているらしいが間違いで無ければそのシロクマと一緒にいるのは軍人だ。
一般人を撃つとは思いたくないが刺青が絡むのならば私の事など躊躇わずに撃つかもしれない。
せめてあの軍人さんの銃の腕が一流で、狙うなら尾形さんだけを狙える人である事を祈るばかりだ。

「お前の鼻と耳は役に立つからな。ほら、しっかり捕まってろ」
「ひー!もうやだー!」

ダイナマイトの発破には巻き込まれるし散々だ。
尾形さんは無理矢理トロッコを止め、私にもトロッコを押すように指示するが帰りたい。
ここから追いつくなんていっそ諦めた方が良くないですか?とは思っても言わずにいる私は思っていたよりもお人好しなのかもしれない。
しかしこんな狭い所で私の耳と鼻が役になんて立つのだろうか。
ダイナマイトの匂いだって嗅いだ事が無いから分からなかったし…。

それにしても何だろう?先程の爆発の後からするこの金属が焼ける様な匂いは。

「…ん?これってもしかして…お、尾形さん!屈んでください!!」
「なんだ?…ん?」
「爆発しますよ!!」

尾形さんがクンクンと鼻を利かせた頃にはもう遅く、先程とは比べ物にならない爆発が起きた。
これはちょっと、本当にやばいかもしれない。

「げほっ…尾形さん、生きてます?」
「…ああ、お前がさっさと指示してくれたからだな」

私が気付いたのは本当に数秒早くではあったが1秒ですら命に関わる事があるのが現実だ。
屈む事しか出来なかったが爆風から少しでも身を守れたのは幸いだったかもしれない。

「感謝してくださいよ?…はあ、ここから出ないと…」
「…出口がわからん…まずいぞ」
「何言ってるんですかあっちですよ、風の音と外の匂いがします。
運んでください」

瓦礫と煙で地獄の様になっているが風の音と外の匂いは分かる。
あっちに向かえれば外には出られる筈だ。
いくら爆発に早めに気付けたとはいえ軍人とは鍛え方の違う私の体が負った損傷は少なくない。
正直、気を抜いたら意識が飛びそうな気もする。
出口の場所だけは何とか指示出来たのだから尾形さんには肩くらい貸して欲しい。

どうか尾形さんはここで私を置き去りにするような人でなしではありませんようにと心の底から祈った。

「やっぱりお前は役に立つな」
「…だったら生かしてください。私は尾形さん程は強くないんですから…」

肩を貸す所か、尾形さんは私を軽々と持ち上げ何とか炭鉱を脱出出来た。

やはり夕張に住むのは止めよう。