露天風呂

私の撃った男は結局死んだ。
最終的に命を奪ったのは私ではないが私の一発が切っ掛けではあるだろう。
これは私の銃で人を殺した事になるのだろうか。

罪悪感はやはり無い。
それで言うなら一人でほぼ皆殺しにした杉元さんはどうだろう。
あれだけ殺しておいて罪悪感なんて覚えてる暇は無いだろうしあいつらはアイヌの女達の夫を殺している。
そんなの殺されて当然なのだから考えるだけ無駄か。

「この近くに温泉があるんです、ゆっくりしていってください」

久々のアイヌ料理の数々で腹が満たされた頃、温泉へと案内された。
アシリパさんに一緒に行こうと誘われたが満腹なのでもう少し時間をおきたいと提案したがこれ以上は眠くなってしまうと言って彼女は一人で行ってしまった。

その後も杉元さんと牛山さんに譲り、そうこうしている内に私も眠気に襲われ
結局私は明け方に一人でのんびりと温泉につかる事になった

「はぁあ…」

川よりも風呂の方が断然良い。さらに言うならば大浴場はもっと良いし、露天風呂なぞ最高でしかない。
銭湯は行く事もあるが露天風呂につかれる機会は中々無いので満喫しよう。
朝焼けも気持ちよく、気分が良い。

「何だ、入ってたのか」
「おや、百之助さんじゃないですか」
「生憎俺一人だ、あいつらもまだまだ起きる様子は無いし繕わなくて良いぞ」
「そうですか。尾形さんと二人きりなんて残念です」

気を抜き過ぎていて私とした事が尾形さんに気付けなかった。他の人もいる可能性を考え名前で呼んだが彼一人だった。いっそ杉元さんも一緒なら面白かったのに。

昨日の鬼神っぷりからは想像がつかないが、彼はああ見えて優しい青年だからもしも温泉で鉢合わせたら顔を真っ赤にするだろうか。
牛山さんは…申し訳ないがちょっと想像はしたくない。
流石にこの状況下でも彼が紳士でいるかは怪しい所か抱き潰されそうな気がするので鉢合わせなくて内心ホッとしている。

「お前、恥じらうとかそういう事はしないのか?」
「恥じらったら尾形さんは帰ってくれるんですか?」
「俺は湯船に浸かる気分だったんだから帰らねえよ」
「でしょう?だったら騒いでも無駄じゃないですか。減る物でも無いですし」
「もう少し可愛げを身につけた方が良いと俺は思うぜ」
「余計なお世話でーす」

この温泉は濁り湯ではないし、明け方とは言え夜ほど気温も低くなく湯気も多くない。
温泉に浸かる尾形さんは手ぬぐいも持ち合わせておらず、それは私も同じだ。
つまりお互いの裸が見えているし、尾形さんに至っては私に声を掛けて来た時は湯船に浸かって無かったからしっかり見えてしまった。

かと言って騒ぐ必要も無いし、人間なんて一皮剥いてしまえば皆同じだ。
生娘という訳でも無いのだから、この状況を騒ぐ事無く受け入れる私だが尾形さんは不服なようだ。

「月形までもう少しですね。下見くらい出来たら良いなあ」
「何だ、何か探してるのか?」
「次に住む所ですよ。誰かさんのお陰で小樽には戻れなさそうなので」
「それは残念だな」

定住しない生活をして長いが、尾形さんと一緒にいるとやはりこの生活を何時までも続けるものじゃ無いと実感してしまった。
元より家くらいはどうにかしたいと考えてはいたが何だかんだでどうにかなってしまっていたので先延ばしにしていたのだ。
この旅の区切りが何処になるのかはまだ分からないがその時はいい加減定住を視野に入れようと思う。

「別に未練も何も無いし、金塊を見つけたら内地に行くのも良いかもしれませんね。
引っ越し代くらいは私も貰えますよね?」
「引っ越し代だけで良いのか?」
「支度金も貰えちゃいます?」

その位の働き、私は出来ているだろうか。
家永さんは人間の皮を剥ぐのは得意だが獣の皮を剥ぐのはあまり得意では無かった。
そういった所や土方さんのお仲間の中では町に溶け込める私はそこそこ役に立っていたと思うし、何より尾形さんの窮地も多分何回か救えたと思う。

本当に金塊があって、見つかった時はその位は私も貰えて良いのかな。

「…お金があれば私にも帰る場所が出来ますかね」
「それは金よりもお前次第だろ」

どうやら少しのぼせたらしい。
思わず漏れ出た戯言はしっかりと尾形さんに聞かれ、返す言葉が思い付かない私は湯船から上がって場を濁した。