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残金、265円


(…さて、これからどうしたものか)


私みょうじなまえは25歳ホームレスです

住んでいたアパートの取り壊しの事をすっかり忘れ
新居を探す暇もなければ引っ越すお金もありませんでした

しかもそんな時期に会社の退職と重なってしまいしばらく失業保険でのんびり…と思った矢先に住む部屋もなくなりました

口座にはまだ多少のお金はあるものも、今日はどうしたものか

コンビニで暖かいお茶と駄菓子も買ったし
適当に小腹を満たしてこれからを考えよう


「ねぇ、それ」


そんな私を突如呼び止めたのは異性の声

時間はもうすぐ日付が変わる
振り向いた先にいた子を見て思わず距離感を間違えたのかと思った


(でか…っ)


なんだこの子は
私の遠近感が狂ってるのか

私もある程度背はあるが頭一つってレベルじゃない
二つは違う

規格外と言う言葉がぴったりな程常識を逸脱した身長を持つ青年はおもむろに私の左手を指さした


「それ」


彼の指を指した先にあるのは先ほどコンビニで買ったまいう棒だ


「これ?」

「それ、新作でコンビニで売り切れてた
入り口であんたとすれ違った時手に持ってるの見えたから追ってきた」


まいう棒ジンギスカン味
思わず故郷を思い出して買った珍妙な味が予想されるこのお菓子が目当てだったのか


「いる?」

「いーの?」


たかだか数十円のお菓子に大した未練はない


「別に良いよこの位」

「やったーありがとー」


はい、と手渡すと彼はうれしそうにその包装を破りだした

しかし本当にでかいなぁこの子
こんだけでかい子がこんな時間に出歩いてるとそれだけで通報されそうだ


「ねーねー、まいう棒のお礼何が良い?」

「えー、別に良いってば
たかがしれてんじゃん」

「でもおねーさんが居なかったらこれ何時食べれたか分からないしー
試しに言ってみてよ、出来るかどうかは言われてから考えるしー」


もごもごとお菓子を頬張りながら喋る様はその大きな体に似合わず子供のようだ
しかしお礼と言われても
私が今一番欲しいものなんて決まってる


「そうだなー、私今住む所ないから住む場所が欲しいなぁ」


こんなもの冗談のつもりだった
出会って数分しか経っていない子に話す内容でもないが今は誰かに愚痴りたかった

それだけで深い意味はなかったのだ


「いーよー」


私と同じように彼は
軽く返事をした