09

「うちの高校?ミッション系だったけど…」

「カトリックな学校だったの?」

「カトリックとミッションは厳密には違うけど、まあ似たようなものかな
礼拝を行ったり賛美歌を歌ったり、懐かしいよ」

「へー」


たとえ夢とは言え礼拝や賛美歌を歌う場面には直面したくないものだと思った
礼拝は疎か賛美歌すらも無縁な生活を送ってきたからだ

そんな訳で毎回夢の中でばかり情報散策をするのに疲れてきたので
氷室君から高校時代の思い出話を聞かせて貰った
ちなみにやはりと言うか、紫原君は今以上に癖のある人物だったらしい

今度改めて紫原君からも高校の話を聞かせて貰おう


「でもいきなりどうしたの?高校の話を聞きたがるなんて」

「んー、どんな感じだったのか気になっただけ」


奇妙な夢の話は何となく話さないでおこう


「そう、じゃあなまえの高校の話も聞かせてくれないか?」

「君と違っておもしろくないよ?」


部活も帰宅部だったし
彼らと違って打ち込んだものも特にない
平凡な学生生活


「青春らしい事なんて…あ、クラスメートと短期間だけど付き合ったのが一番青春だったかも
お互い恥ずかしくて隠してたりしたし」


他のクラスメートにバレないよう恋をするのは少しだけ楽しかった
もはや彼の事自体はろくに思い出せないがあの甘酸っぱい経験だけは思い出せる
私にだって思春期はあったのだ


「へぇ」

「妬いた?」

「少しだけ、俺も高校の時になまえに会ってたらな…そしたら俺もアツシみたいに…」

「紫原君みたいに?」

「いや、何でもないよ」


そうはぐらかすように私にキスをする氷室君に何か引っかかったが
まぁ、良いか



―――――――――



そしてその日の夢は体育館からはじまった

私は制服ではなくジャージで
体育用具の並ぶ薄暗い部屋に何故か氷室君と二人

私の手元には見覚えのある筆跡が綴られた見に覚えのないノートがある


「先輩がマネージャーになってくれて助かったよ」

「えっ、そ、そうかな?」


夢らしく、唐突な展開だ
どうやら私は結局バスケ部のマネージャーになったらしい
私の格好や手元のノートの説明はこれでつく


「アツシを部活に連れてこれるの、先輩くらいだから」

「大した事じゃないよ」


全くよくわからないがとりあえず私は何回か紫原君を部活へ連れて行く事に成功しているらしい
これは予想だがそれが成功する度私は紫原君に嫌われていっている気がする


「…少し、妬けるな」

「はい?」


氷室君の口から出たのは思いがけない言葉で


「俺、なまえが好きなんだ
付き合ってくれないかな?」


この夢はとことん私に安息の時間を与えてくれないのだと
つくづく思った