今後の話

「うちお店やってるんですけど
過去に旅行中の方が路銀が尽きたから働かせて欲しいって人が何人かいたんですよ
食住は保証出来ますし
小さいですが畑仕事してくれる人探してました」


雑渡さんには言えないがこの火傷だ
客の目に触れる仕事は父が首を縦に振らないだろう
けれど客の目に触れる仕事だけじゃないし
何より今うちでは人の目に触れない畑仕事を出来る人を探している


「良いの?」

「うちなら雑渡さんを保護出来る自信がありますから
これで放り出して貴方に何かあったら夢見が悪いですし」


実際過去に見ず知らずの人間の面倒をみた実績があるのだから可能性はあるはずだ
しかしそれでも我が家のような対応が出来る家の方が少ないのは自覚している
彼には次があるとは限らないのだ


「戻り方が分からない今は生活基盤を安定させるしか無いし
有り難い話もあるわけだから少しお世話になろうかな」

「私も手伝いますから
父に挨拶に行く前に色々作戦を立てましょう
あ、あと服…父と背丈が同じ位ですし
後で持ってきます」



──────



「包帯が鬼門ですね…」

「でも解かない方が良いと思うよ
相当気持ち悪いから」


父の服の中でも無難すぎて他の人が同じ服を着ていてもまさかそれが自分の服とは思わないであろう服を持ち出し
着て貰った訳だがやはり片目以外余す所なく巻かれた包帯の違和感がすごい


「化粧で隠せ…ないよね
やっぱ帽子しかないか…」

とりあえず帽子をかぶせてみる
不審者感がやばい
これは一発で職質される


「いっそ隠さない方が良いんじゃない?」

「んー…最初だけ一応かぶってる方が説得力あるかも?」


旅行者と思わせるように大きな鞄を持たせ
あくまで旅行者
路銀が尽きたからうちで働かせて欲しいと頼むという設定にした


「じゃあ頑張って下さい!」

「上手く行くと良いね」


店の入り口を説明し
確かに雑渡さんがそこに入るのを確認して数分
やっぱり心配になって店に顔を出してみた


「こんにちはー」

「あらなまえちゃん、珍しいわね」

「ちょっとコピーを取りに来ました」


もっともらしい理由を付け
裏口から入り従業員と会話する


「珍しいといえばね、変わった人が来てるのよ
包帯ぐるぐるでね、旅行中なんですって」

「へー、それは変わってますね」

「それが路銀がつきたからうちで少し働かせて欲しいんですって
嫌だわ私、あんな気味が悪い人」


気味が悪い

そりゃそうだ
素性も分からない人間
それだけでも距離をおく人間は少なくない
さらには明らかに他の人と違う外見

あれは火傷であり、うつらないとは言っていたが
田舎特有の閉鎖的な考えの人間なら拒絶する人も少なくないだろう


(父さんはそういう人じゃないと思うけど)


少なくとも父は学歴や経歴は全く気にしない
それが外見にも適応されると良いのだが

事務所へ向かう途中
客席の奥から父と雑渡さんの会話が聞こえた

聞き取れはしないが
どうか上手く行くと良い


意味もなく書類のコピーをし
裏口に向かおうとしたら父に呼び止められた


「なまえ、今日から暫くうちに住み込む事になった雑渡昆奈門さんだ
お前は時間があるんだから色々教えてやれ」

「雑渡昆奈門です。よろしくお願いします」

「…なまえです、よろしく」


二回目の自己紹介が終わり
今日から彼は我が家で生活する事になり

そんな奇妙な生活がはじまった